煌めく湖の畔で
「────いやぁ、しっかし良い場所だぜ。招待ありがとな坊主!」
「あぁ、うん。気に入ってくれたようで何よりってぇ痛てぇメリ込む地面に……」
斯くして、遅ればせの合流と相成り一幕。
装いからしてテンション高め。似合い過ぎるほど似合っている限界ご機嫌アロハ&短パンに身を包む二メートル超の巨体から繰り出されるは、親しみ深い過剰威力。激しく肩を叩く大きな掌の襲撃を受け止めながら、俺は苦笑いを零していた。
ノノさんたち含む幾人かの面子に頼み同伴招待した上で、ちょちょっと俺が小細工を働き誰の目にも留まることなく『干支森』拠点から外へ誘導。
そこからは、俺が『記憶』をフル活用して作った地図を渡すだけ渡して先行してもらった形だが……無事に辿り着いていたこと、既に休暇を楽しんでくれていることを併せて、とりあえず安心。これで遭難でもしていたらギャグである。
もっとも面子的に遭難程度で大事になるわけもなく、最悪パートナーの繋がりを辿れば俺が拾いに行くのも容易。大して心配はしていなかったが────と、
「にしても…………一応だが、お前さん湖は平気なのか? いや、いつかの海釣りも今にして思えば大丈夫だったのか? ってなもんだけどよ」
今や身内には知れ渡った海洋恐怖症……もとい『何かに遭遇する可能性が在る水中恐怖症』を患う俺に、殴打を過ぎ去り肩組みに移行したゴッサンが訊ねてくる。
そういや、旅行した時は「海怖い」だの何だの言わなかったなと思い出しつつ、
「たとえば、今から唐突にゴッサンが俺を全力で湖に放り投げたとして」
「はぁ? いや、しねぇが……あぁ、まあ、したとして?」
「俺、別に余裕で対処可能じゃん? やろうと思えば空中で受け身も取れるし」
「立派に育ったもんだぜ。で?」
「つまり、今なにが起ころうと俺は確実に〝ドボン〟を回避できるという事実および自信を握っているわけだ。なにが起ころうと、俺が入水する未来は有り得ない」
「お、おう……」
「そういうことっすわ」
つまるところ、心配する必要や怯える必要が存在しない状況であれば目前に在っても基本ノーダメージ……という複雑なトラウマ心を説明すれば、
「そ、そうか……まあ、平気ってんなら何よりだわな」
おそらくは理解できていない顔で、ゴッサンは「わからんけど納得」とウンウン頷いた。教科書に載れるレベルで『大雑把』を体現する姿勢、嫌いじゃないぞ。
────とかなんとか、オッサンと坊主が戯れている最中へ……ドスン。
「お魚。料理できるもん、ね」
「あぁ、まな板の上の鯉なんざ水の中の俺だからな」
「その例えは、お前さん可笑しな方向に開き直り過ぎだと思うが……」
地図だけではなく一応は『行ったことのある者』も同伴させるべしと、先行組に放り込んでおいたリィナが横合いから腰元へ飛び付いてきたのを受け止める。
頼んだ役目は果たしてくれたのだ、多少のスキンシップは許してやろう。
向こうでニアをハグで迎え入れているアーシェが無表情でジッと……もといジトッとした視線を飛ばしてきたのは、一旦あれだ見なかったことにしておく。
……アーシェとミナリナ、なんか暇がありゃ地味に張り合おうとする雰囲気が常なんだよなと。察するに、あれか。主に四柱で【剣ノ女王】と『東の双翼』として牽制し合ってきた過去が、強いライバル意識を芽生えさせたのだろうか。
ソラの第四魔剣を巡って、迫真の決闘もしてたし。
なんて考えつつ、アーシェの嫉妬と自称妹への労いを同時に対処すべく乱雑にリィナの髪をクシャクシャにしていると……ドスン再び、もとい、トスン新たに。
基本的に勢いを緩めず『兄』と見れば突っ込んでくるリィナとは違い、しみじみ気遣いと愛情を感じられる健気で優しく愛おしい体当たり。
「……お待たせ?」
「ふふ……はい」
熱源は背後。振り返って微笑めば────同じく、俺の天使も微笑んだ。
「……なに? もう結婚したんだっけ?」
「そう茶化してやるな、ああ見えてアレも大変なんだ」
なんかそこらから人のことを言えないバカップルの小声も聞こえてくるが、んなもん真実どうでもいい。嗚呼、俺の婚約者が可愛すぎる……────痛てっ。
「……現在進行形で『妹』を侍らせておいて『女』に耽るのは大罪」
「お前は一体なにを言っているんだ。国語と道徳を復習してきなさい」
とまあ、まだまだ例の日から遠からぬ現在。ふとした瞬間にソラへの愛が制御を失い炸裂する俺にとって、容赦ナシの爪立て脇腹グラップは良い薬になった。
自重しよう。
あぁ、ほら、今度はアーシェだけでなくニアまで拗ねかけてるから。
◇◆◇◆◇
「んじゃ、予定通り基本はこっち?」
「だな。拠点の方は問題ないから、夕方だけバイトしに戻る」
「メイドさん」
「ッカカ、今や一人前の序列持ちが給仕の『バイト』か。面白れぇもんだ」
然して、挨拶諸々の一幕が過ぎ去った後。
【宝石湖】の畔、主にゴッサンが筋肉を張り切らせ組み上げたという簡易拠点に逆招待された俺は、風情ある丸太椅子に落ち着いて焚き火を眺めていた。
周りには三人。後ろから覆い被さるようにして立ち俺の頭上に顎を置いているリィナ、なにやら木の枝で焚き火をガサゴソ弄っているミィナ、そして向かいで丸太椅子に座るゴッサン────なんというか、絵面がファミリーキャンプのソレ。
我が愛しの三人娘は不在、というか暫く前にテント……そちらもゴッサンが器用な筋肉を用いて仕立てたという簡単な寝床をニアに披露すべく、連れ立って行ってから戻って来ていない。おそらく仲睦まじくイチャついているのものと思われる。
囲炉裏に関しては暇を飽かして『薪など諸々の使えそうな物資を拾ってくる』と言って台地から颯爽と飛び降りていったし、ヘレナさんは『台地上を詳しくマッピングしてきます』と言って散歩中。両者ともに心配は要らないだろう。
ちなみに、そろそろ定刻が目前に迫る頃合いだが……。
「んで、本当に任せちゃっていいの? だいじょぶ?」
「あぁ、問題ない」
この面子ならば……なんて話にすら及ばず、俺を含めて誰一人として働く必要さえない。星空イベントの『夜襲』に関しては────
「適当に、生かさず殺さず蹴散らしてくれるよ」
見上げれば、ご機嫌。
今も優雅に大翼を広げ、音もなく夜空を舞っている我が僕に任せてしまえば完璧だ。殲滅する気がないのであれば、単独で初日の襲撃程度どうとでもする。
既にレベルカンストに至っている〝竜〟は以前に俺と戦り合った時のスペックをも越え、能力値的には普通にボスエネミー相当。十分以上、信頼に足る戦力だ。
「っはぁーいいなぁー……あたしも【星屑獣】ちゃん欲しいんだけどなぁー」
「……同じく」
と、自慢したつもりはなかったのだが、それに際してぼやきが二つ。
言わずもがなミィナとリィナが零したものだが、割かし真実どうしようもない事柄であるため俺では慰めようもないし困ったもの。
仕方ないのだ。調伏獣を得られた序列持ちが、今なお少ないという現実は。
「ま、俺たちに似合いの奴も世界のどっかにはいるだろうよ」
然して同じく調伏獣を得られていない同士、ゴッサンがミィナの頭をポフりつつ気楽に笑う。ので、手の届かないリィナは俺が代理でポフっておいた。
似合う……というよか、おそらくは見合う奴。
『序列称号保持者』が使役するに相応しい【星屑獣】────そんな〝判定〟が、システム的に中々通らないのではないだろうかというのが現状の推測だ。
俺に対しての〝翼竜〟ことサファイア。
ニアに対しての〝小鼠〟ことヴィス。
なっちゃん先輩の同じく〝小鼠〟ことキルシュ。
ジンさんの〝大狼〟ことモナーク。
サヤカさんの〝霊馬〟ことトパーズ。
そして最後に、いまだ披露されていない東南トップ2の〝秘密〟が一つ。
東西南北四十人いる序列持ちの中で絆を結べたのは以上の六例だけであり、序列持ちではないが序列持ち級としてソラの〝小狐〟ことルビィを含めても七止まり。
自らの相棒を求めて積極的にイベントへ望む者も多い中で、それ。常人を遥かに凌ぐ戦果の跡に結果が出ていないという事実が、出会いの困難さを物語っている。
「やーっぱボス級を狙って次々勝負を挑んでくしかないのかなー」
「……でも、小さくて可愛い子が理想」
「わっかるぅー! ニアちゃんたちの〝鼠〟とかソラちゃんの〝狐〟とか!」
然らば、このように。愛を注ぐことのできる僕を望む面々にとっては、中々に辛辣な現実ということで……笑ってしまうようなことだが、文字通り。
天頂の身というのも、ままならない事柄が往々にしてあるということだ。
聖女様のトパーズ君ちゃんだけ名前初出ですね。
命名の由来は左耳に大きな黄色い星が在るからだそうです。
誰かさんの命名由来と同じですね。はいそうです、真似っこです。
なお某トラトラトラッキーの〝忠犬〟こと堂々たるタイガー☆スター君に関しては主人公が普通に失念しています。失礼極まりないですね犬好きのくせに。




