慰安旅行は刹那の内に
3/31から時が遷り、4/1を迎えた件の日。
俺とソラにとっては『互いの誕生日』かつ、改めて『誓いを結んだ日』という最大事が在ったイベントの先頭に来てしまうことは……まあ言うまでもない。
ないが、それはそれとして。
幸福を噛み締める俺たちを他所に、現実仮想を問わず世界に激震が走っていた事実も薄れることはない────『四柱戦争 Ver2.0』アップデートの報せである。
つらつら長々と箇条書きの体でアレやコレやが記されていたが……要約してしまえば、実際のところ明かされた情報は決して多いとも十分とも言えない程度。
しかし、それでも誇張抜きで世界を騒がせる程度には大きな情報だった。
端的に、従来の『PvP』廃止からの『PvE』匂わせ。匂わせってか、ほぼ確定。
これまで十二度に亘って競わされていた各陣営が、今度は手を取り合って……こちらも、ほぼ確おそらく。仮想内二十四時間の長尺で防衛戦の類を戦らされる。
今まで〝景品〟にされていた『女神の加護』全ての居所が初期状態にリセットされるだの、参戦人員設定にも手が入っているだの、どこもかしこも見るべき部分は尽きず、どこもかしこも特筆して然るべき重要項には違いないだろう。
────けれども、ぶっちゃけ俺たちプレイヤー……というか、今回の新四柱に参戦する者にとっては言うほど大した変更ではないというのが実情。
なんのことはない、四柱に際して『大変』なんてのは今までだって同じこと。仕様が変わろうが形態が変わろうが、直接的に楽しむ側にとっては「わーい何か知らんがアトラクションが味変したぞー!」くらいの心持ちで受け止められる。
いやマジで。
誰より激動かつ爆速の一年を駆け抜けてきた俺だからこそ、代表面して胸を張り宣わせてもらう。仮想世界で上を突っ走ってりゃ、この程度は日常茶飯事だから。
だから……────いやまあ俺も俺で今のとこ参戦確定までは決まり切っていないものの、少なくともフルパワー【剣ノ女王】 with 集団戦を成立させるパーツとしてだけでも絶対的な価値がある以上は半ば参戦確定枠なのだろう身として、
言えるのだ。
別に、私としましては現状そこまで騒ぎ立てる心持ちではありませんよと。
その上で、明確かつ不可避に同情の目を向けるべき方向は理解しているのだ。どこかって、そんなもん言わずもがな『見て楽しむ側』である。
即ち、現実仮想を問わず、新四柱に参戦する1010人以外の全人類。
全人類は言い過ぎかもしれないが、まあ少なくとも仮想世界アルカディアおよび夢の大祭『四柱戦争』に関心を向ける者たち全てが、今アップデートの被害者だ。
まず直接的な損害を受けて現在進行形で荒れ狂っている、現実サイドの各種メディア情報媒体諸々幅広く沢山一杯────当たり前である。
わかりやすく言ってしまえば、オリンピックが開催一月前に突如「なにからなにまで形式諸々そっくり引っくり返しまーす!!!!!」とトチ狂ったようなもの。
一月後の大祭に併せて計画していた全ての予定が、一瞬で水の泡。
どこにどれだけ、なにが如何ほど、どのような破綻が生じたかなど考えるだけで恐ろしい。世界とは基本的に、急激な方向転換に耐えられるようにできていない。
それでもまあ、人間とは逞しいもの。夥しい数の人たちが頑張ることで最終的に『形』は取り戻せるだろうが……重ねて、当事者っちゃあ当事者ゆえ震えてくる。
そんでソレについては絶望による絶望の悲鳴として合掌を捧げる他ないのだが、それ以外。単純に四柱観戦を望む一般人の皆様からも多数────絶望が。
喜びを超過して裏返った絶望の声が、溢れに溢れている地獄の様相。
だって、ほら。無理だから。
どれだけ必死こいて頑張ろうが、物理的に無理だから。
────『1010×24h』の視点を観戦するとか、不可能だから。
いや、実際のとこ参戦者全員の視点が常時配信されるわけでもなし、参戦者全員が後日にアーカイブへ動画を上げるわけでもなし。実際に『24h×1010』イコールで24240時間もの映像が世界を爆撃するわけではないが、それでも、こう……。
襲い来るであろう膨大時間のインパクトは、甚大ということで。
ゆえに、忙殺されている職業人だけではなく一般界隈も阿鼻叫喚。ネットには『仕事辞める』とか『死んじゃう』とか『遺書は書いた』とか頼むから冗談であってくれと願うばかりの呟きが日夜氾濫している現状だ。真面目に世界が危うい。
冗談抜き、ガチで。
諸々ちょっと落ち着いた方がいいよな大丈夫か……? なんて俺が思うくらい。
然して、俺が思うくらいなのだから、俺などより遥かに思慮深く、俺などよりも遥かに責任を……────否、そう在るべく泰然と〝自覚〟を持つ者が。
思わぬはずがない、成すべきことを成さねばと。
……つまるところ、四月に入ってから今の今まで。
今回のイベントもとい〝凝縮された時間内に在る臨時休暇〟が始まるまで、世間の混乱を少しでも軽減すべく俺には理解の及ばぬ謀に心を費やした者達がいる。
なんの話かって、ここまで全部ソレについての話。
俺とニアが宴会の場を抜け出して、親愛なる『干支森』グループの輪を抜けたのには理由がある。別に二人きりで夜のデートを楽しもうとか、そんなんじゃない。
俺たちが……というか、主に俺が。抜け出した理由は、ただ一つ。
即ち────
「────おっ! 来たなぁ坊主ぅッ!」
「おっそぁーい!!! もう初日のバーベキューは終わりましたー!!!!!」
夜闇を裂いて極超音速で急行した先。待っていたのは、元気の良い迎えの声。
場所は『干支森』拠点から北へ北へ数百キロ地点。ささやかな自然の緑に囲まれた巨大な〝湖〟を載せ、大地に鎮座する途方もないサイズの超巨大な一枚岩。
何度か前のイベント時に発見したスポットこと、暫定安直命名【宝石湖】の畔。
特殊スキル『星還飛行』を解いたサファイアの背上から見下ろせば、目につく影は……こちらを見上げて歓迎および文句を叫んだ我らが【総大将】と赤いのを含めて計七つ。遅れて合流した俺とニアを入れて計九名、欠け無く集合完了だ。
ミィナの付き添いというか有無を言わせず人数に入れられた囲炉裏、そして『そういう感じの集まりになるなら仲間ハズレは有り得ない』と俺が有無を言わせず人数に入れたソラさん。そんで重ねて俺とニアを除けば残る五名────
つまり……ぶんぶん無邪気に太ってぇ腕を振っているゴッサンの隣、穏やかに微笑み手を振ってくれている【侍女】様ことヘレナさんを始めとして、
改めて、我らが大将ゴルドウ。
そんで、その隣のヘレナさんの隣に立っている俺の、もとい我らが姫様。
そんでもって騒がしいミィナおよび、その横にスンと居ながら「はよ降りてこいはよはよはよ」と言わんばかりジッと俺に視線で訴えているリィナ。
各々の立場あるいは莫大な知名度を以って、自主的な混乱収拾の助力に努めていた代表五人。その慰安を補佐というか接待して差し上げようってのが────
「さて……おいニア、着いたぞー? 大丈夫かー? 降りるぞー?」
「……………………全速、前進、の……必要は、あり、ましたか……」
今回、俺が買って出た役目ってなわけだ。
なお、ニアちゃんは可愛いから連れてきた。
是非とも可愛い担当として、皆と俺の癒しになっていただければ幸いだ。
各々、どうやって騒ぎにならず来れたのかって?
どうせ主人公が何か手品でもしたんすよ前話みたく。




