ver2.0 アップデート
────同時刻、仮想世界。
「さて……っとぉ? いよいよ、だな」
「ん」
「………………」
南の頂、即ち南陣営ソートアルムの陣営拠点天頂にて。美女と野獣……もとい爺と孫と娘とでも言うべき馴染みの三名が、共に夜更かしをしていた。
三月を見送り、四月を迎えた午前零時。事実上アルカディアプレイヤーの首脳を任されているゴルドウ、アイリス、そしてヘレナの並び。既に現実仮想を問わず世界的にも親しまれている『顔役』および『参謀』は、その表情をそれぞれに。
重ねた年嵩の余裕で以って子供心を手繰る【総大将】は、笑みを。
年齢など関係ない持ち前の器量で静を宿す【剣ノ女王】は、穏やかな無を。
そして……場で唯一のこと。
正しく普通に寄った感性を持つ【侍女】は────余裕綽々の二名に対する溜息を諸々の不安に併せて、ほんのりと胃の痛そうな顔を隠さずに。
それぞれの心持ちで、何のために集っているのか。……それは他でもない、
四の倍数月の頭────即ち、今回も定例に則るのであれば。一日への日付更新と同時にアクセス可能となる『四柱戦争』の、様子諸々を迅速に確認するため。
別に今までとて、ゲーム側から目立ったアナウンスや煽り通知が齎されていたわけではない。アクセスが解放されてプレイヤーの手に落ちてくるものなど、最も特筆すべきもので最低限の『ガイドライン』程度が精々。
けれども今回は、その些細な手引きを待ち受け待ち侘びた理由がある。
それは言わずもがな、先日の『緑繋』攻略完了に際して通達された寝耳に水の確定事項……『四柱戦争』のアップデートなる変革の予報に他ならない。
然して、
「そしたら、早速のこと拝見といこうじゃねぇか」
「そうね」
「………………」
各々が表情を維持。ゴルドウが急かし、アイリスが応じて、ヘレナが……──ここに関しては、やはり常と比べて彼女らしくない様。わかりやすく不安に類する色を隠せていない顔で、平時にて周囲へ振り撒いている怜悧さは何処へやら。
ゴルドウもアイリスも気付いてはいるが、双方共に弄らない────そこまで含めて状況が〝嫌な予感〟を示していると、絵を見て悟れるものは如何ほどか。
少なくとも、この場には三人を除いて他者は居ない。
ゆえに、二人が揺れず一人が口出しを噤んでいる以上……。
「それじゃ……────」
頷き、指先を宙へ閃かせたアイリスに待ったを掛ける者はナシ。
────そして、虚空に展開したシステムウィンドウが『情報』を無機質に曝け出した後、おおよそ五分。決して長くはないが短くも感じられない時が過ぎ、
「……………………………………ヘレナ」
全てを読み込み理解したアイリスが、ぽつり。
「………………、……なんでしょう」
呟くように名を呼べば、答える声音は諦念を理由とした脱力の色。
「これ、どうなると思う?」
次いで、全てを読み込み理解したアイリスが再び、ぽつりぽつり。
「…………………………そう、ですね」
囁くように問いを投げれば、答える声音は一周回って楽観もとい達観の色。
「私たちは……いえ、私たちプレイヤーも直接的な〝変遷〟には晒されますが、それよりも……────なんと言いましょう。同情を向けるべきなのは……」
そんな、何とも言い難い雰囲気で己が考えを述べるヘレナの声を、
「…………まぁ、そうだな。────現実が色々、ご愁傷様になりそうだわなぁ」
引き継いだゴルドウの声音は……娘と同じく同情に満ちて、けれども。
「しっかし、また面白れぇことになりそうじゃねぇの」
やはりというか忘れぬ童心にて楽しみを忘れず、どこか嬉しげに弾んでいた。
◇◆◇◆◇
────『四柱戦争』Ver2.0────
・従来の「各陣営間の競争形態」は廃止されます。
・現在移動している各陣営の「加護」は初期状態にリセットされます。
・競技時間の設定が変更されます。
「現実時間20:00〜24:00 / 仮想時間内6h」
⇒「現実時間20:00~20:05 / 仮想時間内24h」
・参加可能プレイヤー枠数の設定が変更されます。
「陣営毎300名 + 各〝序列称号保持者〟」
⇒「全陣営統括1000名 +〝序列称号保持者〟10名」
・インスタンス戦場の形態が「迷宮」から「城塞」に変更されます。
・インスタンス戦場の「外周」が実装されます。
・インスタンス戦場の「外周」に「敵」が実装されます。
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────……
──……
といったところで六章第三節、これにて了といたします。




