3/31
そんなこんなで、数日ほど。平和で穏やかな日が続いた後────
「ハッピーバースデーイっ!」
「誕生日おめでとーう!!!」
先日、お預けを喰らって以降……とまあ、それがなくとも暫く前から備えていた祝い事が訪れた今日この頃。時は夕刻、場所は四谷邸。
来たりて、3/31。
「……それは、息が合ってるんです? 合ってないんです? いえ、あの、はい」
本日の主役は、他でもない。
「ありがとう、ございます……えへへ」
晴れて十六歳の誕生日を迎えた、我らがソラさんこと四谷そら御令嬢である。
────とはいえ、パーティの規模は至極ささやか。
一応は『邸宅』の範疇だが、例えばガチ寄りな『四條邸』に比べて小さめ。ほぼソラと斎さんの二人暮らしでも持て余し過ぎないサイズ感の『四谷邸』が会場。
参加者も、主役とメイドと俺の三人だけ。ハピバ音頭に際して囲んだ卓に並べてある料理類とて、仲良く三人で用意したアレやコレやばかり。
メイドと俺が張り切って、飾り付けなんかは部屋の所々ちょいちょい施したものの……まあ、その程度。重ねて、本人の意向に則った慎ましやかな会である。
去年、つまり俺と出会ってすぐのタイミングに迎えていた十五歳の誕生日も、大体こんな感じだったらしい。無論その時は御父上様も共に祝ったらしいが……。
「で……えーと? なんか、あれかな? とりあえず祝辞とか読む?」
「あら、いいですねぇ」
「良くありません。いいですから、そ────なんで用意してあるんです……?」
この場に居るのは三人だけ。つまり本日は欠席……なんて訳がなく、限界愛娘溺愛パパ上様こと徹吾氏のターンは既に終えているというだけのこと。
俺と斎さんで諸々の下準備を始めた折、親子水入らず二人きりでランチデートを楽しんでいただいた次第。メイドと共に満面の笑顔で送り出す際こそ、何やら恥じらい強めの膨れ顔をしていたソラさんだが……帰宅時には無事ニコニコ天使。
仲睦まじい時を過ごせたようで何よりである────とまあ、
もう一人のニコニコ天上人、再び多忙へと旅立った徹吾氏のことは置いといて。
「それでは、いただきましょうか」
「「いただきまーす」」
確かに、規模は慎ましやか。
けれども面子が面子ということで、一品一品のクオリティに関しては『家庭的』の範疇を超越している御馳走を前に手を合わせる。
所詮はバイトのマニュアル仕込みな俺は精々が平均より上程度として、だ。
もう今に至っては知り尽くしていたことだが、ソラさんと斎さんが極まっているゆえに……世辞とか冗談抜きでテーブルの上が見渡す限りの高級レストラン。
週末の『お邪魔』が定例化して以降、二人の手料理は贅沢なことに数え切れないほど食させてもらってきたが────嗚呼、いやはや、なんともはや。
「なんだこれ。もう外食は〝此処〟一択すね。四谷邸ってか四谷亭」
「ハルも一緒に作りましたよね……?」
「あらあら……果たして、お財布が保つでしょうかね?」
「斎さんは何を言ってるんですか」
理解が及ばん。
確かにメイドも常日頃に増して張り切っていたというか『ちょっと本気を出しますね』とバトル漫画の強キャラみたいな台詞を明言していたし、ソラさんもソラさんで『誕生日だからこそ好きにさせてください』と良い子で我儘で超可愛いことを言いながら当然のように俺たちに混じり、またメイドと同じく常日頃に増し増して張り切っていらっしゃったが……ほんと、なにこれ。俺の気配とか抹消されてる。
並ぶ二人の腕前に、バイト仕込みの俺スキルが綺麗サッパリ呑み込まれている。
この主従なんなの、こわ……と思うべきか、若干十六歳をここまでに育て上げたメイドなんなの、こわ……と思うべきか……いや、うん。
まあ後者だな。間違いない────
「あら、これは……」
「……いろいろ考えてはいますけど、多分ギリギリ失礼なことは考えてないです」
「まあ流石。まだまだ私は以心伝心まで踏み込めていませんね」
「…………そ、そんな簡単に踏み込まれても、なんというか……ですけど」
とかなんとか、そんな具合に。
「で……えーと? なんか、あれかな? とりあえず祝辞とか読む?」
「い、だから、いいですからっ! 祝辞用紙、仕舞っておいてください……!」
「────希君、希君」
「ぁはい、なんすか」
「パーティということで、趣向を凝らして『こんなもの』を用意したのですが」
「ぇ、なんすか怖い。なにその、なに……? 箱……?」
「ご覧の通り、割り箸が三本入っておりまして」
「はぁ。なんか斎さん、割り箸が似合わな過ぎて面白いですね」
「三人で一斉に『えいっ♡』と引きましたなら」
「はぁ。なんでそこ無駄に可愛い感じに言ったんですか、面白いですね」
「アタリを引いた人に、残る二人が『あーん』をしてあげるといった────」
「やりましょうかぁ!!!」
「やりませんよっ!?」
「なんでよいいじゃんパーティだしッ!!!!!」
「やりませんっ‼︎ ハルだって後で絶対に後悔します知ってますっ!!!」
重ねて重ねて、慎ましやか……けれども俺たちとしては、これ以上ない。
平和で穏やかで賑やかな祝宴は、終わりなど来ないのではと思えるほどに至極のんびり延々と────端から端まで楽しいままに、続いていった。
もう家族じゃんね。
ほんで前フリのジャブだから短めだよ。備えろ。




