塩分補給
────共に鋼ならざる刃が相打ち、鮮烈な光芒が舞台を照らす。
「────ッ」
「……、……‼︎」
言葉は無用、在るのは互いに戦意および息継ぎの音鳴りだけ。
翠刀が翔ける。蒼刀が閃く。紅刀が劈く。無数に奔り巡る煌めきの轟響が、そんな僅かばかりの声音も一切を斬り潰して終わりなく……と、思えるほどに。
戦いの場を、満たし満たして一体どれほどの時間が経ったことか。
「──────、」
「ッ……!」
舌打ちが、一人分。それは極限に至る攻防の最中、忍び寄り片足を絡め取った〝影糸〟に向けられたもの。即ち、完膚なきまでに不意を抉られた敵の吐息。
然らば、今。
「繋げ【倶利伽羅】」
納刀。
「ッ、《絃氷六────」
融合。そして、
「〝抜刀〟」
早緑、転じて灰焔。
萌ゆる花弁の如く灼灰を散らす大太刀が、何者の目にも止まらぬ速度で、撫でる空間を悉く両断して────鳴るは、試合終了を報せる素っ気ないシステム音。
つまるところ、決した勝敗を知らしめるゲームセットのアナウンスを聴き……。
「…………………………………………勝、…………ったぇ……」
勝者こと俺、
「………………………………まだ、ま…………だ……」
そして敗者こと囲炉裏は、決着の余韻そのまま。
背中を向け合うままに、それぞれ勝利宣言あるいは継戦要求の呟きを零しながら────二人仲良く、精神力の枯渇を理由にパタリと倒れ伏した。
……斯くして、訓練場に訪れた静寂の中。
「────ぇ、アホなん? コイツら」
役者が動きを止めたとあらば、次に場を賑わすのは観客の……もとい、数時間にも及ぶ甚だ男な戯れを見物していた外野の、呆れかえった声音。
「……お馬鹿さんなのは、間違いない、かも?」
一人目に続き二人目、同意の声。
そんで後頭部をツンツン突かれるオマケ付き。反応する気力も湧かないため狼藉は放置しつつ、死力を振り絞って頭を上げ向こうを見てみれば……。
「くっ……退け、馬鹿め…………」
「馬鹿はキミたちなんだよなぁ。やーいバーカバーカ抵抗できないでやんのー」
哀れ、ミィナに椅子扱いされている男が一匹。
赤いのが後で酷い目に遭わされることは間違いないが、今この瞬間に囲炉裏が確実なる恥辱を刻み付けられているのも間違いない。つまりアレが行き着く先は『引き分け』であり、即ちアレは恋人(未来系)同士のイチャつきでしかない────
と、疲労で薄ぼんやりした頭に適当な思考を浮かべていれば、数秒後。
「────ふべッ……!? ん、なろ…………退け、この駄妹め……!」
「病める時も健やかなる時も、兄なら喜んで妹の椅子になって然るべき」
「なに言ってんの、コイツ……こわ…………」
予測可能、回避不可能。囲炉裏に対する赤色、そして俺に対する青色。
諸々真逆なようで、根本的な在り方は相方そっくり。つまるところ奴がやることは大体やる駄妹に容赦なく潰され、哀れな男が二匹に増えた。
◇◆◇◆◇
「いや一試合一試合がアホ長いんだよキミ達。もっと軽いノリで戦れないの?」
「ッハ、なにを馬鹿な」
「軽かっただろ十分」
「えぇ……動けなくなるまで没頭しといて、なーにを言っとるのかコイツらは」
「怖い」
────然して、
ソラが体調を崩し、見舞いに行き、アレやコレやとあった翌日。
とりあえず朝っぱらからアルカディアにログインした俺は、とりあえずクランホームで鉢合わせた囲炉裏と適当な挨拶を交わし、とりあえずノリで朝活に同行し、とりあえずヒートアップするまま戯れ半分の殴り合いを始め……昼前、今へ至る。
いや、午前中から死ぬほど疲れた。もう終わっていいぞ今日、おつかれ。
「全く。あたしらの貴重な時間を返してほしいよねー」
「……誰も見ていろとは」
「言ってねぇし、呼んでもいねぇし」
なお現在進行形で誰の断りもなく俺と囲炉裏の頭上で頬杖を突いている野次馬は、言葉通り俺も囲炉裏も呼んでないのに自分から見物に来た真性の野次馬。
暇に飽かして俺たちで遊びに来たのは明らかであるゆえ、そろそろ鷲掴みにしても許される頃合いだろう。やれ囲炉裏、そしたら俺も後に続くから────
「ともあれ、お兄さんよ。なんかまた強くなってない? どしたん?」
「あ?」
と、徐々に空っ欠から充填されてきた頭で、なおも適当なことを考えていた折。囲炉裏の頭上にいるミィナから謎の文言を向けられ、俺は反射的に首を傾げる。
自然、不意打ちでバランスを崩され頭上から転がり落ちてきた駄妹は……まあ、放置でヨシ。ほら、人様の頬をベシベシ叩いた後に我が物顔で膝上に納まった。
「別に、最近は劇的なアップデートなんか無いけども……」
でもって、ミィナの問いに関しても返せる答えなど持ち合わせていない。
囲炉裏とのチャンバラを見ての感想だということは察するまでもないことだが、そんな『また強くなった』なんて言われるほどの変化は……。
「そうだな。暫く前から、大して腕は上がっていない」
「ドストレートな事実陳列罪やめろや腹立つ」
しかし囲炉裏の言う通り。技術やら何やらの実力的な問題にフォーカスすれば、現時点における俺の成長速度はジワジワがいいとこ。前回四柱戦争の辺りならばガッツリぶち上がった自覚は在るが、逆に言えばそれ以降は若干停滞気味だ。
いや、まあ、なんというか……。
「あんま、こういうこと自分で言いたくはないんだが……」
「……来るところまで、来ちゃった、感じ?」
「だなぁ」
膝の上、リィナが言う通り。
技術、武装、スキル、その他、諸々────まだまだまだまだ先が在るのは疑っていないまでも、流石に至った感を自惚れではなく覚えている今日この頃。
伸び悩むというか、本当に来るところまで来た感じ。
「……まあ、楽しめ。そこからが長い」
「含蓄あるわぁ」
そして、そんな俺の態度を嗤うとしたら誰よりも嗤いそうな囲炉裏が、嗤うことも笑うこともなく認めるように……当然のように、頷いて見せる。
まあ、うん。
「いよいよ、俺も正真正銘なれたんかねぇ。一人前ってやつに」
「えぇ……なに言ってんの序列三位」
「今更……?」
ミナリナの二人は首を傾げているが、そういうこと。
真に追い付けた、ということなのだろう。これまでの足跡を以って、積み重ねて、他ならぬ此処に居る大先輩方の背中にも────
「そうだな。……だから、今の君は『強く』ではなく『巧く』なっている」
「うん?」
「ミィナが気付いた成長は、そういう部分に在るということだろう」
他ならぬ、名高き【無双】さえ認めてくれるほどに。
「もう、五分だろうな。俺と君は」
「はぁ……? いや、まだ勝率二割ちょい……」
「本番なら、だよ。────毎度のことだが、本番で笑っている君は怖い」
あの囲炉裏が、この俺に。そんなことを、当然のように宣ってくれるほどに。
「……よくぞ、ここまで来てくれたものだよ。感慨深いな、後輩」
「…………え、なに、やめろ。なんか気持ち悪いぞ、先輩」
たった一年、されど一年。
俺は、馬鹿馬鹿しいほどに、遠いところまで来てしまったのだろう。
現状『刀』のみだと勝率一割、なんでもアリだと二割だそうです(練習試合)
なお万が一《疾風迅雷》の起動に成功すれば十割(百割成功しない)




