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アルカディア ~サービス開始から三年、今更始める仮想世界攻略~  作者: 壬裕 祐
君がために在る世界、誰がために去る未来 第三節

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春空恋度


「「────…………………………」」


 斯くして、リセットされた空気感は例えるならば何色か。


「……ハルの、そういう、ちょこちょこ肝心な部分で格好が付かないところ」


「はい」


「わざとやってるのかなって、たまに疑い始めてますからね。私」


「面目ないのだけども、恥ずかしながら素でございます……」


 見分けるのも表すのも、まあ難しいこと。相棒だったり、男子だったり、女子だったり……中々に複雑な関係性の俺たちらしく、幾つもの色が重なり混沌の様相。


 しかしながら、


「もう……、…………」


 クシャミに際して跳ね起きた俺の袖を、クイと引く小さな手。文句を言いつつ、呆れつつ、勢いよく押し倒された格好のままで俺を見上げる空色の瞳。


 そして、そんな少女に目も心も吸い寄せられるように惹かれる俺。


 色は、ともかく。


「…………流石に、マズい気がするんだ。いろいろと」


「……ハルが、したんじゃないですか。中途半端なまま有耶無耶にしないで」


 熱に関しては、見分けるまでもなく直に肌で感じている。



 だから、袖を引かれるまま。俺は再びベッドへ身体を倒した。



「「………………」」


 至近。今度は流石に覆い被さったりしなかったが、真隣。枕の両端に頭を置いて、近過ぎて逆に顔が上手く見えないような距離で……互いを見るでもなく。


 目を閉じて、見つめ合う。


 どちらからともなく手を伸ばして、互いの中間で擦れ違わずに指先が絡んだ。


 そうして、そのまま。暫く静かな時が続いて────


「……ハル」


「……うん」


 名前を呼ばれて答えれば、俺の掌をソラがくすぐる。


 意味なんてない甘やかな戯れで、互いの心を満たすように。あるいは、言葉に言葉以上の温もりや信頼を乗せようとするかのように。



「…………あなたが、好きです」


「…………俺も、君が好きだよ」



 決して、告白ではない。確認ですらない、知っていることを呟き合う。


「……ハルが、ここで。自分のことを話してくれた時」


「うん……? うん」


 然して、絡め合った指先でも同時に想いを語らいながら。目を閉じたまま、互いの息遣いに心を落ち着けながら、穏やかに穏やかに言葉を交わす。


「その……泣いちゃいそうに、なったんです」


「…………俺の自語りにってわけではないけど、実際に泣いてはいたような?」


「っ……ですから、あなたの自語りに、泣いちゃいそうになったんですよ」


 相棒としての、戯れも挟みながら。心親しい者同士の、冗談も交えながら。



「この人は、どこまで……私にとって、心強い人なんだろうって」



 時を経て蘇った感情を宿してか、僅かばかり震える声音を受け止める。


「私だって、いろいろ、乗り越えて歩き出せていたつもり・・・でした」


「…………」


「でも、結局、全然。心の奥では、みっともないくらい、引き摺っていて」


「………………」


「〝私〟は、誰なんだろうって。……ううん、そうじゃなくて、この〝私〟は、此処に────この身体ここに。だれかの身体に居て、いい存在ヒトなのかなって……」


 震えながらも、怯えながらも。


 決して逃げる素振りは見せず、俺の手を握り続ける熱に寄り添う。


「ハルと、同じ」


 些細な振動、そして────俺の額へ、おそらくはソラの額が触れる。


「一人で上手に乗り越えたフリして、歩いてた私を……あなたが」


 そっと、目蓋を持ち上げれば。



「思いっきり、揺らして、躓かせて、転ばせて……手を取って、くれたから」



 やはり、空色の瞳が俺を見つめていた。


「…………半分以上、悪いことしてない? 俺」


「ふふ……当然です。ハルは悪い男の子、なんでしょう?」


 あまりにも真っ直ぐ見つめられているものだから、ほんのり気恥ずかしくなって無意識に視線を逸ら────そうとするも、ゼロ距離ゆえに逃げ場ナシ。


「……でも、大人ぶって、達観した気になって、なにもかも吞み込んだつもりになって、結局は自分が嫌になって、勝手に沈んでいっちゃうようなダメな子には」


 一面の青空が如く。目の前で輝く瞳が、俺を魅せながら。


「どうしようもないくらい、あなたは素敵な悪い人でした」


 その目に映る、俺を告白する。


「あなたは、自分を見失って。私は、自分が見えなくて」


「…………」


「あなたは、振り切って歩き出して。私は、逃げ切って歩き出して」


「…………」


「あなたは、迷っても走り続けて。私は……迷ったら、途方に暮れて」


「…………」


「……とっても似ていて、ちっとも似てない」


「………………」


「あなたが話してくれたこと全部。見せてくれている姿、全部────ハルが知った気になっているよりも、ずっとずっと……私の勇気に、なってるんですよ?」


 その目に映してきた、俺の姿を。


「私よりも、ちょっとだけ強い。ほんの少し、生きるのが上手なハルの姿が……全部、全部、私の心強い道標になってるんです。知っていましたか?」


 鼓動が届くような、そんな距離で。熱に満ちた、瞳と声音で────


「ソラ」


「はい」


 然らば、俺は。



「結婚してくれ」


「………………台無しです。ハルのバカ」



 なんか知らんが、タイミングを盛大に外したらしく。



「えぇ…………いや、えぇ……なに、完全に愛の告白だったのでは」


「そうですけど、違います。今のは今じゃありませんでした」


「そうですけどって言った? プロポーズの返事と受け取っ」


「らないでください。あと近いです、まだキスはダメですからね」


「まだって言った???」


「近い! ですっ!」


「そも、超接近してきたのもソラからじゃん……!」


 指は解かれ、華奢な両手が遠慮ナシに俺の顔を遠ざける。


 プロポーズは流され、ダメ出しまでくらい、可愛い天使の顔は遠ざかり枕からは叩き落とされて散々だ。これが空気の読めない男に対する世界の意思かと溜息を零しつつ……────しかし、されども、だがしかし。


「……おぉ、なんとも」


「なんですか」


「なんでもございません」


 甘やかな熱が霧散したかと言えば、そんな事実は欠片もなく。


 先程の逆転・・・・・、流石に馬乗りなんて『お嬢様』的NG行動筆頭はしたない真似はしないまでも、身を捻り俺をベッドに押し付ける体勢にてソラが視界一杯。


「……もう半分、諦めてはいるんです」


「…………とは?」


 然して、迫真のジト目。それは患う微熱によるものか、はたまた別の理由が主たるものか。朱色に上気した頬を晒しながら、天使が馬鹿を堂々と見下ろす。


「私、もうハル以外の男性に恋なんて絶対できっこないですし」


「………………そ、えー、と……」


「ハルだって、きっと……そ、その…………わ、わたっ……、なんでもないです」


「まあ、うん、そうだね。ソラなしでは生きていけないかなぁ……」


「こういう以心伝心は、いりませんっ!」


 と、ベシリ。顔面に天の裁きも貰いつつ。


「…………もう、どうしようもないじゃないですか。きっと、私たち────」


 華奢な指の隙間から覗く、堪らなく愛らしい表情を、



「────どうあっても……一生一緒に、いるでしょう?」



 堪らなく愛おしい確信の声音と共に、余すことなく享受する。



「………………だ、……」


「……だ?」


「っ……、………………だ、だから・・・


「………………だから・・・?」


 斯くして……いろんな意味で死にそうになっている俺を、ソラが引っ張り起こす。起こして、改めて対面。寄り添うように、しかし確かな言葉を伝えるため。


 僅かな空白を挟み、俺を見据えて少女は呟く。


「…………………………誕生日」


 ぽつり、と。


「もうすぐ、でしょう……?」


「……そ、うだね。お互いに・・・・


 零れ落ちた言葉を、取り落とすことなく掬い上げれば、


「順番、も……その、ちょうどいい、じゃないですか?」


「……?」


「だから、あの…………」


 流石に、断片的が過ぎて察せられない。それはソラもわかっているだろう、怒りはしないまでも……けれど、もどかしそうに。


 恥じらいに灼かれるように、首元までをも朱に染めながら。



「ぷ…………────プレゼント・・・・・交換を・・・、しましょう」


「…………?」


「ま、まず、ハルが私に、改めて。あの、はい」


「……?」


「そしたら、私が、あの、順番……」


「…………」


「私が、返し、ますから…………」


「………………」


「……受け取って、いた、だけると………………」



 …………………………………………………………………………────ッ!!!



「ぇ、あっ」


 なんというか、察した自分を褒め称えてやりたいレベル。おそらく意味を誤っていないという確信まで含めて、流石の以心伝心と称賛してやりたいレベル。


 きっと、俺たち二人の間だからこそ通じた曖昧な言葉遊び。



 で、あればこそ。


「ぇ、あっ……あッ、え゛ッッッ……!!!!!」


 正確にソラの真意を捉えた俺は、理解からコンマ一秒で無事に狂い────


「…………あの、ハル」


「はいッ……‼︎」


「……お顔が怖いので、一旦、出て行ってください」


「はい!」


 お利口に身の危険を感知したソラに、容赦なく部屋を追い出された。


 ……勿論のこと、


「ソラさんッ!」


「は、はい」


「約束っ! で、いいんでしょうかッ……‼︎」


「……今日のハル、本当に全然かっこ良くないです」


「いい────」


「いいですから! 早く頭を冷やして来てくださいっ!」


「はいッ……‼︎」


 約束の指切りだけは、忘れずに。







ということで、続きは何やら近いらしい誕生日とやらに。

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― 新着の感想 ―
一章一緒にいなさいな、です(笑)
ハルと完全に以心伝心した。そういうことだな。
多分だけど察した 砂糖が止まらないけどどこで処分したらいいです?
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