本日8:2
加入式からの接待、もとい好き放題ミナリナに手を引かれというか引き摺り回されての諸々は、昼過ぎ集合から当然の如く深夜までぶっ続いた。
暫くは、まあ、仕方ないと大目に見てやるべきなのだろう。
アイドル引退……そして驚くべきことに芸能世界、仮想世界と連ねて両立していたらしい高校の卒業も経て、これまでの死ぬような多忙が一息に失われた今。
なんとなく見てれば察せられるが、二人とも時間および体力を如何に使えばいいのやらと戸惑っている様子。然り、数年間の癖が早々すぐになど消えないはずだ。
だから、暫くは。
表裏一体であろう開放感と寂寥感に揺れている、序列持ちとしての年季で言っても人生経験で言っても大先輩……しかし実際は一つ年下の少女たちに、一つ年上の後輩として。満足いくまで付き合ってやるのは吝かではないのだ────
けども、流石に丸一日は身が持たねぇからNGにしよう。
楽しかったは楽しかったが看過できぬほどゴッソリ体力を持っていかれ、仮想世界でも現実世界でも倒れ伏した夜。固く決意しながら目を閉じた俺は……。
「────………………………………、……ん゛ん゛……ッ」
翌日。ほんのり感じる寝苦しさの中で、サッパリとは言い難い目覚めを迎えた。
しんどい感じの起床時特有、ダルいはダルいし身体は重いが思考だけは妙にハッキリしている、そのせいで余計に不快感が脳に染みるアレな感じ。
長期休暇にかまけて、目覚ましなど掛けていない。
そして勘および肌感で察せられる、おそらく朝ではないという確信。
然して、寝苦しさ────基本的に快適空間であるはずの四谷宿舎、その環境壁をも突破して襲来していた熱気から布団を蹴飛ばした俺は、
「……………………え、夏……?」
枕元を探り、スマホをキャッチ。
表示した『本日の天気』に表示されている数字を片目で見やりながら……流石に三月末という時期に見合わぬ馬鹿げた気温設定に、地球の正気を疑った。
◇◆◇◆◇
「今日、バカ暑くない?」
「暑かったです……昨日の夜は、少し肌寒いくらいだったのに」
で、朝どころか昼過ぎだったわけで朝食(昼食)摂取からの即ログイン。
俺は極自然どちらからともなく声を掛け合い待ち合わせたソラと、クランホーム内の【剣聖】様ホーム縁側にて平和な時間を享受していた。
いや、マジ平和。昨日とのギャップで心が凪。
「仮想世界ほどじゃないけど、最近はマジ現実世界の気候も奔放だよなぁ」
「ですね。いろいろ、心配になっちゃいます」
お師匠様は不在。けれども此処【真名:外天を愛せし神館の秘鍵】の創り出す個人異空は現状、クランメンバーに限り時を問わず自由入場が許されている。
信頼あってのことは勿論だが、そも『多くの人に使ってもらう』ようデザインされたはずの道場である。然らば、ういさん本人にとっても此処にとっても、俺たちが気兼ねなく入り浸ることこそ本望と思い我が物顔をさせてもらっている次第。
なので、
「さて……そろそろ行くか」
「…………もう少し、涼みませんか?」
最近は割かし、こうしてソラと二人で縁側に座り和んでいることも多い。
肌寒くない程度に涼やかで心地良い気温設定。そよ風は絶妙に心安らぐ力加減で頬を撫で、耳をくすぐる笹葉の音鳴りは無限に聴いていても飽きないBGM。
本当に、居心地が良いものだから。
「今日は、現実世界が暑かったので」
「……そうな。んじゃ、もう少し」
どれだけ距離が近くても、追加の〝熱〟が映えて仕方ないのだ。
◇◆◇◆◇
とまあ、相棒との仲良しこよしは理性を振り絞って程々で締め。
「────ッ……! っぷぁ……‼︎ っは、んぐ……っ……!」
「おー……いや、いいぞ。マジ、かなりイイ感じだと思う」
これもこれで仲良しには違いないが雰囲気の色味を変えて、同じく場所も変えて現在は馴染みの陣営拠点訓練室。俺たちは微妙な関係の年頃男女ではなく、序列持ちおよび序列持ちのパートナーとして真面目一極の特訓に励んでいた。
既に開始から二時間程が経過しており、付き合う側である俺はまだしも『頑張る側』であるソラさんは……特訓内容が内容だけに、消耗激しく息も絶え絶え。
特訓室の設定を弄ってあるので、ずぶ濡れの服も秒で乾きはするが疲労度まで綺麗サッパリとは勿論いかない────が、流石は俺のパートナー。
疲労に見合った成果を、着実に積み上げていく様は見事の一言だ。
……とはいえ、
「流石に、涼しいどころの話じゃないな?」
「はぁ……ふぅ…………あ、はは……です、ね…………」
悪癖とは言いたくないし、俺も似た性質は備えているので『どの口が』案件ではあるのだが、頑張ると決めたら基本的に頑張り過ぎてしまうのがソラさんだ。
俺の時にはソラが務めてくれるように、ソラの時には俺がストッパーを務めるのが常。然らばと、空間に満ちている凍えるような〝冷気〟を割いて歩み寄り、
「順調だ。なので、休憩も存分にな」
「……はーい」
手元に喚び出した外套、結局ニアから借りっぱなしの高級防寒具を背中からバサリ。仮想世界の冷感で現実に風邪など引いたりはしないが、まあアレ。
気持ちが、大事なのでねと。
こういうシチュエーションで過保護になりがちな俺に対して、最近はソラさんも慣れたというか諦めたというかな様子で満更でもない顔をするようになってきた。
子供扱い、とは思われていないはず。それは甘えるように、ほんのり遠慮がちに寄り掛かってきた背中の温度から読み取れている。
周囲の冷気など、あっという間に感じ取れなくなってしまった────
「…………間に合いますかね?」
「間に合うだろ。ってか、もう実戦投入いけるレベルだと思うけど」
────で、だ。
俺はソラのことが大好きすぎるし、ソラも俺のことが恥ずかしながら大好きすぎるしで油断するとコレこんな感じになってしまうが、重ねて今は真面目モード。
これでも、断じて、真面目モード。ゆえにやるべきことはキッチリキッパリハッキリこなしているし、選ぶ言葉も睦言より実際的な相談がメインだ。
なにをしているって、言わずもがな。
「いえ、あの、かなり怪しいですよ……下手すると自分どころか」
「まあ、周りの仲間諸共カッチコチだろうな。それはそう」
来る【青源の深域】再攻略……────五月頭、つまるところ四月末の四柱戦争後に設定された期日へ向けての、我が相棒の水中戦特訓劇。
『特訓室』の名に恥じない働きを以って当然の如く水浸し環境も用意できる真っ白ルームにて、ソラさんの新技および立ち回り諸々を鋭意開発中な現状である。
ソラの主戦力たる【剣製の円環】が擁する魔剣は、現在四種。
〝砂剣〟〝炎剣〟〝氷剣〟〝雷剣〟といった並びなのだが、困ったことにコイツらがどれもこれも水中での単体運用だと使い物にならない。
〝砂〟は水に解けて維持できないし〝炎〟は消えるどころか出した瞬間に水と過剰反応して爆発するし〝氷〟は剣でもなんでもなく氷塊になって即時機能停止するし〝雷〟は言うまでもなく敵だけでなく味方へも牙を剥く。綺麗に全滅である。
かといって魔法は流石のソラさんでも無詠唱など未習得。
いまだ地味に継続している【銀幕】からの指導で練習中ではあるらしいが、俺と似たり寄ったりの途上なので水中行使は現状無理だ。
なので、択はナシと水中でも運用可能な合成魔剣を開発中。
それも既に実戦投入とて可能っちゃ可能と思しき『雛形』までは到達しているため……あとは常通りというか、これまでの魔剣と同じくソラの操作習熟度を詰めていけば大丈夫だろう。これに関しちゃ〝無理〟は無いし心配もしていない。
もう飽きるほど言ってきたが、俺の相棒は俺より凄いからなと。
……転じて、まあ、それもそれとして────
「ハル」
「うん?」
「私、頑張りますね」
「程々にな。俺も頑張って応援するから、一緒に頑張ろう」
「はい。────……えへへ」
甘やかしも際限なく、過ぎたプレッシャーで苦しめることだけは無いように。
愛するパートナーを慎重に、大切に、支えさせてもらうとしよう。
本日『相棒 8:2 恋愛』のハルソラ。




