縁の容
さて。一気に五人から八人に面子が増えた我らがクランではあるが、だからといって実際のとこ何かしら大きな変化が起こるわけでもない。
序列持ち仲間から更に近しい〝身内〟が増えた、的な精神的変化とは別方向。ゲーム的な意味で、アルカディアの『クラン』は大したコンテンツじゃないからだ。
というより、コンテンツ自体には大した力が備わっていないと表すのが正確か。とどのつまり、現実で人間が築くコミュニティと全く同じこと。
小規模な友達グループ程度に納まるのか、途方もない巨大企業めいた存在へと至るのか、それぞれに『どんな力を備えるのか』はプレイヤー次第。
『クランルーム』あるいは『クランホーム』などカスタム可能な異空間拠点の利用権。また取得経験値向上やドロップ率向上など、あれば嬉しい程度の些細かつ僅かな特典。それら代表的な恩恵も結局のところ、オマケでしかない。
概念、建前、そして名前。
システム的に用意された〝形〟こそが『クラン』本来の存在意義というわけだ。
たとえば、南陣営の超巨大クラン【Alliance】。
たとえば、西陣営の職人クラン双塔【陽炎の工房】および【Guild】。
アレらが紛れもない代表例であり、仮想世界における『クラン』が成し得る可能性を実績で以って証明し続けている覇者の姿に他ならない。
各々あれとかこれとかチマチマ説明などしていられない、数え切れないほどの力を確立、分配している化物であり、もう立派な『会社』の様相だ。
南陣営のプレイヤーの大部分が所属しているという統一クラン【Alliance】に至っては、冗談抜きで小さな『国家』レベルと言っても差し支えないだろう。
規模が頭おかしくて笑えてくる……とまあ、そんな具合に。
どこまで行くか、なにを成すか、といった指針が完全にプレイヤー側へ委ねられている〝名前〟でしかない『クラン』システムは、正しく。
それ自体は、大したコンテンツではないのだ。ゆえに────
「は? なに、嘘でしょエンブレムも無いの? はぁ? 舐めてる???」
「それ別に俺個人が詰められるべき案件ではなくない……?」
重ねて、新入りを迎え入れたと基本的には変わりナシ。
何かしらシステムの恩恵やらに変化があるわけでもないため、起きるイベントなど無権力お飾りサブマスターが新入り(大先輩)に弄られる……。
もとい、いびられるくらいなものである。
……いやマジなんで俺だけ叱られてんの? いい加減にしろ放り出すぞ。
「おい囲炉裏。コレなんとかしろ、はよ」
斯くして新入りの名前が三つ分、クラン名簿に刻まれてから十数分後。
ミィナはコレこの通り暇潰しが如く早速のこと俺に小姑ごっこ遊び始めやがって許せねぇし、先程コイツに先んじて『いい加減にしなさい』と放り投げたリィナは向こうでソラさんの膝を占拠しつつ我が物顔で許せねぇし、囲炉裏は男子と男子?と三人で気付けば談笑を始めており俺の注文を現在進行形で無視しやがって赦せねぇし、これだから後輩(大先輩)ってのはダメだ。我が安息の場所が虫の息。
ほんのり困った顔で「あはは……」と俺に僅かばかり同情の笑みを向けている相棒、そして全てを見守りながらニコニコほわほわ嬉しそうにしている師匠が居合わせてなけりゃ危なかった。癒し不足で衝動のまま詩を歌っていたかもしれない。
我、空を翔ける者なりって。────と、
「おうコラお兄さん無視すんな。ねぇねぇエンブレむぎゅぷんっ!!?」
「どうだ凄いだろ。もうグルグル巻きくらいなら指も動かさないでイケるんだわ」
一分ほどは大人しくダル絡みに付き合ってやったし、恋人(未来系)こと保護者のブロンド野郎にも引き取り申請は送り付けた。ならばヨシ。
筋は通したのだから、影糸縛りの刑は暴挙ではなく正当な刑罰執行である。
「────ふっ……」
なんか向こうで「愚かな……」みたいな感じにリィナが薄っすい表情のまま簀巻き一丁を嘲笑っているが、アイツも後で巻いとこう。ここのところ調子に乗り始めている気がしないでもない、一旦わからせとく必要がありそうだ。
然らば……ポイ。
「んぇあッ!? ちょわっぷ────ぐぇ゛っ……!!!」
「おい、投げるな。いきなりは危ないだろう」
ちょいちょい頼んでいる【糸巻】先輩の指導が効いており、順調に操作の習熟が進んでいる【九重ノ影纏手】は既に現実の肉体よりは文字通り意のままに。
喧しい簀巻きの具を思考一つで飼い主へ投げ付ければ、パーソナルスペース奪還は叶った。いきなりじゃなけりゃ宜しいらしいので、次からは「投げるぞ」と断ってから投げるとしよう。にしても見事な首根っこキャッチだったな……。
「ッ、いやなにしてくれてんの流石に乙女の扱いライン越えじゃないですかねぇっ! 今の一連の展開どう思いますか! ういちゃん&ソラちゃん!!!」
「へっ? ぇ、あ、えっと……?」
「ふふ……息がピッタリでしたね、三人とも」
「えぇ……ぁ、はい。その、楽しそう……? でした、ね……?」
「とのことですが!?」
「囲炉裏、翻訳」
「悪いが日本語と英語しか話せない、他を当たってくれ」
んで……まあ、賑やか極まる赤色節は適度に流すことにしてと。
「────〝エンブレム〟なぁ。まあ考えたことはあったんだけども」
過剰なデシベルとノリを削ぎ落としさえすれば、ミィナが言い出した話題は場に即して悪くはないモノだった。システム的な変化は無い、けれども確かに変化を来した、我らがクラン【蒼天】メンバー増量となった今日この場に的な意味で。
と、視線を回せば過去のこと。まさしく『考えたことはあった』の当時を知る面子、俺以外の四人も話題に際して似たようなことは思ったのだろう。
俺、ソラ、テトラ、ういさん、そしてカナタ。
五人になってから相談したこともあったわけで、しかしシンボル等のデザインや絵心に長けた者が自称ゼロということで適当に流れていたのだが……。
「リィナ先輩、デザインいけるよね?」
言葉は交わさずとも、意見一致と察するのは容易とばかり。
これも一種の面倒臭がりと言えるのか否か、こういう時は率先して手早く話を進めたがるテトラが新入り一号に目を向ける。然らば、
「ん……齧った程度、だけど」
聞くに、なんか自前のCDジャケットデザインなんかにも関わったことがあるらしいトップアイドル様……もとい、元トップアイドル様の片割れが頷く。
つまり、
「んじゃ、晴れてスキル持ちが身内に加わったわけだ」
導線は、今ならば整っているということで。
「そしたら加入祝いじゃないけど……作るか? クランエンブレム」
「いいんじゃない? リィナ先輩が良ければだけど」
今度は俺が代表して空気の流れを言葉にすれば、やはりテトラが円滑な合いの手を入れて流れはさらに加速する────然して、最後に。
「……いい、けど………………意見、皆ちゃんと出して、ね?」
気のせいか否か、ほんのり恥ずかしげ。
けれども乗り気は目に見える様子でリィナが頷き……メンバー増員からの一発目、初回レクリエーションの内容が無事に決定した。
「……え? 言い出しっぺ蚊帳の外。あたしもデザインいけるんですけど?」
「日頃の行いが反映された頼り甲斐の差だな、顧みるといい。……おい、抓るな」
「じゃあ噛む」
「ッおい馬鹿やめろ……!」
あっちは、まあ楽しそうだし暫く放っておくとしよう。
お揃いのシンボルは絶対に必要でしょ。舐めてんの。
あと最近はリィナちゃんも日頃の行い溶けてんでしょ。
かわいいは無罪ほなええか。




