繋ぐ夜間に
情報ゼロゆえの不可視かつ不可避の壁に阻まれた【青源の深域】攻略に関する連絡は、アーシェが直々に東へ来たのと時を同じくして各陣営に行き渡った模様。
そして即日、会議開催。
一部を除いて予定を空けられた者は全員集合と相成り、東西南北からダンジョン攻略に関われる者が……直接戦闘にしろ補助諸々にしろ、何かしら力を発揮できる序列持ちは職人だろうと関係なく『とにかく来い』と集められた形だ。
まあ、然り。改めて検証しなければ確定には至らないが、今回の失敗から得られた推測────点在する五箇所の同一ダンジョンを同時に攻めなければ、最奥に座すボスを倒し切れない。それが正しかった場合、割かし大問題であるからして。
単純に戦力が足りないという話。より正しく言えば……『水中で(オーバーレイドボスを相手取れる程度の)実力を発揮できる』者がマジで足りないという話。
これが単なるオーバーレイドボス、つまり正当な戦力もとい頭数を充てられる真っ当(?)な大規模戦闘ならば何の問題も無かった。無かった、はずだ。
如何にアルカディアの水中戦闘が至難を極めるとはいえ、総アクティブユーザー数おおよそ三千万人。その推定半数が戦闘コンテンツに触れていない職人あるいは異世界生活行楽者かつ、残る半数の戦闘を嗜む者も『序列持ちに準じる』という激高な水準を求めた場合……まあ、小数点以下のパーセンテージになるとはいえ。
千人規模で存在する精鋭層の中から、水中に適応できる者を幾らかは望めたはずなのだ。六人編成入場限定という、馬鹿げたシステムの縛りがなければ。
と、いうことで……まず始めに〝確認〟を済ませるべく、序列持ち各位が集められた次第。なにかといえば、改めての『可能』か『不可能』かを問う儀式である。
────結果として、俺を含め九名が事実上の脱落。
過去のトラウマとかいう極めて個人的な理由で申し訳ない俺は置いとくとして……東陣営からは、まず雛さん。相性が悪いとかいう次元の話ですらない。
彼女の魂依器である【六耀を照らす鏡面】が誇る権能は、明快に示すのであれば『空間発火能力』に他ならない。そう、空間、発火能力だ。
即ち〝空いている間〟でなくては能力発動の座標指定が不可能。極めて強力かつ気難しい魂依器こと『魔籠器』に相応しいというかなんというか、至極わかりやすい弱点が仇となり今回は堂々ぶっちぎりの留守番役である。まあ仕方なし。
その他については、南陣営は【騎士】殿および【糸巻】なっちゃん先輩が大幅弱体枠にてギリ補欠。更には雛さんほどではないが能力の相性難を理由に【足長】レコード氏および【詩人】八咫さん【女傑】お梅さんと計五名、半数がアウト。
そして北陣営は【群狼】ジンさんが「流石に犬かきで戦力にはなれへんよなぁ。ぁ、俺は泳げるよ?」と群れが機能停止するため雛さんに次ぐ完全アウト。加えて【雲隠】リッキー氏も「雲が水に入ったら、どうなると思う?」とドヤ顔アウト。
清々しいまでの死屍累々。
しかも駄目と並んだ九名の他、残る二十一名……先に選抜された六名を除けば十五名に関しても、それぞれ大なり小なり戦力ダウンは避けられない有様である。
たとえば東の名物ちみっこ二人組とか。ボス部屋もといボス宮殿に辿り着きさえすれば極大戦力に成れるものの、移動中は迫真の『お荷物』確定だし────と、
要するに、とにもかくにも、なにもかもが不足している。
攻略に足りていないと、そう言わざるを得ない状況に、なってしまったのだ。
◇◆◇◆◇
────斯くして、その夜。
「とまあ、大体そんな感じの流れだったな。お通夜だよ、お通夜」
「わぁ……」
仮想世界の我が家ことクランホーム、その憩いの場こと【蒼天】名物ソファエリアにて。俺は腰を並べたパートナーに、あらましを話して聞かせていた。
然らば今日も女子高生ご苦労様なソラさん、何とも言えないといった表情で伝家の宝刀「わぁ……」を披露。これが出てくる時は大抵が同じシチュエーションだ。
つまるところ、俺あるいは世界に呆れて言葉が出てこない時である。
「えー、と……?」
それゆえ、可愛らしく小首を傾げて先を促してくるのも予想通り。可愛いなぁと無限に頭を撫でたい欲を自制しつつ、俺は俺で整えておいた頭の中を伝えていく。
即ち、会議で決した今後の『予定』云々をだ。
「とりあえず、攻略班に成り得る人たちは全員《水精霊の祝福》を取りに行くことに決まった。このまま序列持ち主体で攻略を進めるにしろ、大々的に在野から協力を募るにしろ、旗頭を努めるなら望める力に予め手を伸ばしとくべしってな」
「ぁー……そうなります、よね」
「だな。そのための時間が必要になるから、まあ攻略延期は決定事項として……あとは、とにもかくにも面子を埋めなきゃ話にならないので……」
「……は、はい?」
「序列持ち以外の『候補者』には順番に声を掛けてくとさ、ゴッサンたちが」
「そんな、意味深に見つめられながら言われましても……」
まあ然りの云々諸々だが、至極当然というか順当というかな『お話』を俺も預かっている。ゆえ、別に勿体ぶるのも可笑しな話なのでサクッと済ませよう。
「ソラさん、いける? ……ダメな相棒としては、すげぇ格好悪いんだけども」
当の大将様から「聞いといてくれや」と軽く投げられた、依頼の話を。
これが同行を頼むという話であれば、俺も無二のパートナーとして一蓮托生は今更のこと気にしたりはしない。が、俺は参加できないというのに参加してくれと頼むのは……なんて微妙な内心を隠さず切り出せば、ソラさんからは苦笑い一つ。
「そんな、気にすることじゃないと思いますけど」
「いやぁ、格好付けたい男としては……」
「パートナーとしては、苦手を補えるのは本望ですよ?」
そして苦味を消して優しさを宿し……ガキっぽく頬を掻く俺の、肩を小突く。
「ハル、普段は弱点とか全然ないんですから」
そして、ぶつけた自分の肩をそのまま。
「こういう時くらい、素直に頼っては如何でしょう」
「…………」
至近。こちらを見上げる琥珀色が微妙な顔で固まる俺を────否、あまりに天使かつ至極いじらしい様に秒で惚気た顔の俺を映す。やだ超かわいい。
体当たりから十数秒、離れていかない体温を押し退ける道理ナシ。
「……真っ暗な水の中、超怖いぞ」
「それは、その……た、頼もしい皆さんがいれば、おそらく大丈夫かと…………」
「出現エネミー、超グロいし」
「グロ……た、耐性、ついてますし。私も、始めた頃に比べれば……!」
態度は戯れ半分。けれども実際は冗談抜きの警告をしたつもりだが、どうやら意思は揺るがないらしい。……声は少しだけ揺らいでいたが、
心については、目を見りゃわかる。パートナーだもの。
「そか……じゃあ、ソラさん」
「はいっ」
然らば、問答に際してグッと迫ってきていた可愛い顔との距離調整。指先でソラの額を押した後────我慢できずに手が動いたので、いっそのこと思い切り。
「ちょ、わっ……!?」
「俺の分まで、お頼み申した!」
非現実の仮想世界をいいことに、わしゃわしゃと金色の髪を盛大に撫で遊びながら……しかと、依頼提出。そしてソラが顔を上げて文句を言い出す、
もとい、なにするんですかと叱られる前に。
「無理はしてくれんなよ。俺の方まで、無理したくなるからな」
押さえた頭にトンと額をぶつけて、本心ぽつり。
その後、俺の両手を捕まえてから顔を上げたパートナーは────
「……了解、です」
頼もしく微笑んで、お返しとばかり俺の頭を撫でてきた。
その後イチャついているところをテトラ君に目撃された。




