リザルト報告
────そして、翌日。
「うわぁ……そういう…………」
「…………理不尽。不愉快」
現実世界で時間を掛けアーシェを甘やかしメンタルを回復させ、仮想世界で時間を掛け【剣ノ女王】様を含む攻略部隊を迎えに行き、無事に帰ってきた今。
俺は自陣営の戦時拠点天頂、居慣れた『東の円卓』にて苦笑いを披露していた。
場を同じくするのは、昨日のように一目瞭然な落ち込みようは晒さずとも相変わらず不機嫌そうな無表情。ピタリと隣に張り付くアーシェ。それから……。
「いやぁ……引っくり返されたなぁ? ま、こりゃ流石にしゃぁねぇ」
俺と同じ色合いの苦笑いを浮かべ、視線で「災難だったな」と年下の友人を宥める【総大将】ゴルドウ。更に加えて……。
「だから嫌いなんだ。理不尽の権化というやつは」
わかりやすく不貞腐れてはいないものの、酷く疲れた顔で────珍しく頬杖なんて突きながら、ほんのり忌々しげな碧眼を〝スクリーン〟に向けている囲炉裏。
四人集まり、何をしているのかなど言わずもがな。
「んなギミックなくとも、単純戦闘力だけで十分レイド級だろコイツ……」
アーシェたち攻略部隊が持ち帰ってくれた録画映像を確認、無念であろうダンジョンアタック失敗の流れを見せてもらっていたところだ。
なお映像再生に際して三人から一斉に『本当に大丈夫か』と心配されたが、俺のトラウマは映像に対して発動しないので問題ナシ。実際に自分が落ちる危険性がないシチュエーションなら、魚類畜生連中とて平穏な心で眺められるゆえに。
とはいえ……トラウマは置いても視界最悪な暗闇水中、奇怪な『ヒトガタ』だの『魚人』だのと馬鹿おどろおどろしい造形のエネミー群には精神を削られる。
即ち、序列持ちを代表して攻略に臨んでくれたアーシェたち六人の苦労が知れるどころの話ではない。マジで大変だったろうなと労しく思える映像の果てで……。
コレ。こんな〝理不尽〟が待っていたことを思えば、猶更に。
「……エネミー名は【暗く深き界域の奥者】」
アルカディアのプレイヤー標準機能である『録画』────世界観を壊さぬ正式名称を述べるのであれば、その名も『神権の代眼』による映像記録。
これには基本的にプレイヤーのUI……HP表示やら何やらといった視覚的ゲームアシスト機能群インターフェースが表示されることはないため、映像内のエネミーも注視したとて情報は出ない。それゆえの必要な解説がアーシェの口からぽつり。
行き届いた配慮。こちらはプレイヤー由来の利便性拡張ツールである『メモ帳』の一種、空間筆記の魔工製アイテムにより洒落乙な上下の当て字もバッチリだ。
さて、アルカディアのボスエネミー群らしく意味深な名前を冠しているが……。
「……減ってねぇなぁ」
「だなぁ。完全に無敵化してら」
暗き水の中を懸命に探査した果て。結局のところ『正解』は下でも横でもなく〝上〟であり、道標も何もない先に在ったのは馬鹿げているほど荘厳な宮殿。
【城主】様の『城』も斯くやといった、水の只中に見合わぬ巨大建築物。
地にも海底にも足を着けず、悠然と暗闇の中に浮かんでいたソレに満を持して侵入すれば────在ったのは、間取りも何もない超広大な単一空間。
在ったのは、映像内で仮想世界最精鋭とも言える六人を手玉に取っている、アーシェ曰くの【暗く深き界域の奥者】……────その姿は、
端的に形容すれば、海の神様。
自身が巻き起こす海流に乗って荒れ狂う髪、雄々しく豊かな髭、しなやかなれど筋骨隆々な彫刻の如き巨躯の美体。その手に携えるは、荘厳に輝く三叉の槍。
時に二本足、時に魚尾。まさしく変幻自在な水の如く容を遷しながら激しく、しかし優美に暴れ回る様の威力は、錚々たる面子のパーティが『いい勝負』をしている点からも明白────だというのに、それだけでは飽き足らず。
戦闘開始より十数分が経過した頃合い、一切の攻撃が通用しなくなったという激甚なオマケ付き。HPが映像内に表示されておらずとも見りゃわかる。
アーシェの『剣』も、囲炉裏の刀も、リンネの音もサヤカさんの光も【城主】様の質量爆撃も……ゆらの本気と思しき怒涛の弾幕も一切合切が効いちゃいねぇ。
文字通りの、無敵化である。
「二日目に到達してルートを確立。以後、七度挑んだが結果は全て同じだ」
「五本あるHPバーの内、私たちの攻撃が通るのは何度やっても一本だけ」
然して、補足の説明が入る。
沸々ほんのりキレ気味アーシェが言うには【暗く深き界域の奥者】のHP表示は無制限大規模戦闘に類する仕様……つまり所謂『大HPバー』こと、感覚的には通常ボスのHPゲージ十本分に相当する過密度特別製のソレが計五本。
────ってなわけで……さて、割かし推測の材料は揃っているなと。
「いやぁ、まさかの……?」
「要、五箇所同時攻略……かぁ?」
本当に、簡単な思考。単純な推理。
俺とゴッサンが、益々のこと苦笑いを深めて思い付きを連ねれば……。
「だろうな」
「でしょうね」
その身で苦労と無力感を積むだけ積んで不本意な帰還を果たした二人は、ノータイムかつ仲良く同時。疲労感を増し増しにした声音を並べ、頷いた。
プレイヤーだもの。システムの壁はどうしようもないね。




