間日
「────プールに行きたい」
「……………………えぇ、と」
メイドとのデート、もとい契約締結を無事に(?)果たした月曜の翌朝。
「まず、おはよう……?」
「おはよう」
まだまだ早い時間、起きてから朝食を済ませた直後のタイミング。
俺は例によってアポなしで突撃してきた『お姫様』の、例によって前置き全てを置き去りにする結論倒置法にエンジンが掛かり切っていない頭を襲撃されていた。
なんだこれ。そして、今日も朝っぱらからウルトラ美しい。
ぼけっと『何もしない』という最高の朝活を堪能していた頭に突然の困惑を投げ込まれりゃ、浮かぶ思考なんて大概その程度。然して────
「プールに行きたい。三月中、忙しくなる前に……どうかしら?」
「あれ、俺いつの間に侵入を許した……?」
おそらく数十秒後。玄関で向き合っていたはずが、気付くとリビングのソファに二人で並んでいた謎の時間跳躍現象は置いとくとして……なに? プール?
「忙しくなる前に、って……お前もう既に忙しいんじゃ」
「一日や二日、空ける程度は問題ない範囲よ」
「人それを忙しいと言う」
旅行に行こうだの旅行に行けだのよりは随分と可愛らしい突発ではあるが……しかしまあ、だからといって決して戸惑わずにいられるわけでは
「……私と、プール。嫌なの?」
「嫌じゃないです。よろしくお願いします(?)」
しかしまあ、だからといって嫌とかそんなわけ在るはずないので俺は理性よく本能のまま綺麗に垂直に首を振っていた。頷いたというより礼、お辞儀である。
さすれば、いつも通り世界一可愛い無表情に浮かぶは柔らかな微笑。
そして、最近は少しずつ慣れ────るわけも在るはずないが多少は落ち着いて受け止められるようになってきた、素直な甘え動作。
肩に身を擦り寄せてくる真白の姫君に魂を持っていかれつつ……その他人に比べれば乏しくとも、今へ至り俺の目には豊かな表情の奥。疲れの色を見逃さない。
「……大丈夫か?」
「ん……大丈夫。私も流石に慣れない環境だったから、少し大変なだけ」
昨日から始まった、というか俺が送り届けたとこから始まったアレ。
他ならぬ【青源の深域】攻略について。それこそ昨日の夜、夕飯前に帰って来てから簡単な報告は聞かせてもらったが……どうも、この通り。
「お前、やっぱニアの前では格好付けたがるよな」
「………………ふふ、そうね」
この場では全てを曝け出すように、身体を預けてくる様子とは別物。
「どっちも、特別だから」
その場に元恋敵の親友が居合わせたゆえ、俺にも気付かせないほど完璧な演技を纏っていたらしい。『どっちも特別』というのは、まあ、そのままの意味。
「なら仕方ないか」
「でしょう」
ニアは格好良い姿を見せたい親友で、俺は甘えた姿も見せたい……あー、恋人、では、まだ一応なく。婚約者……うん、婚約者だな。そう婚約者。
まあ、将来的な伴侶ということで────ともあれ、
「……プール」
「うん? あ、はい。プール」
「水着」
「は、はい。水着。はい、水着ですね」
「選ぶ?」
「はい? えらっ、はい???」
「お披露目サプライズはニアに先を越されてるから、私は好みで攻める」
「…………あぁ、はい。バレてるだろうたぁ思ってたよ。なっせんも居たし」
「ハル」
「はい」
「選ぶ?」
「…………………………い、一緒に、で、意見を求められる、くらい、なら」
「ふふ……。ん」
急な我儘……もとい『したいこと』を素直に求めてくるのは俺にとってアーシェの常だが、流石に今回のコレはタイミング的に内情を見透かすなど容易。
【青源の深域】がアレ過ぎて、自分まで水が嫌いになりそうとか大体そんなところだろう。俺との水遊びがマイナス打ち消しに役立つのなら是非もない。
────いや、勿論のこと。
「…………ちなみに、ソラはどんな風だったのかしら」
「ちょっと待て何故それを知っ」
「そう。やっぱり、ソラにも先を越されてたみたい」
「ぁっお前このカマかけやがったな!?」
そんな建前が、一つも無かったとして。
「ったく……時間、大丈夫か?」
「……ん、もう少し」
「あいよ」
恋に惚気た今の俺には、是非など在りはしないわけだが。
最近これが足りてなかったと思うんですよね。
砂糖が。
本日もう一本更新(時間未定)です。




