+6h
そして、数分後。
「ただいま」
挨拶を投げた第一陣、そして騒ぎを聞きつけ連鎖した第二陣まで。討ち漏らしなく殲滅したアイリスが当然のように無傷で帰城すれば、驚きの反応────
「おつかれさまでーっす!」
「水に濡れすらしないんだな。随分と便利な能力を得たものだ」
なんてものが、これまた当然あるはずもなく。
元気よく出迎えたリンネ。そして水中から帰還したというのに言葉通りの様子を見て、感心を零す囲炉裏の他。アイリスへ向けられる視線の中に今更『凄い』だの『信じられない』だのといった色は存在せず、在るのは一様に信頼だけ。
「……で、どうだったよ?」
それは、かの限界天邪鬼こと【銀幕】ですら例外ではなく。
少ない交流の機会があった折には、まだアイリスが孤高の女王を努めていたゆえ『お茶目』が漏れ出していなかった……というのも、一応の理由。
それがなくとも、元来より誰かさんとは別方向で『人を見る能力』に熟達している趣味人良家の姫君。ダル絡みもウザ絡みも一度たりとてしたことがない【剣ノ女王】に対して、ゆらゆらの好感度は良い意味でフラットを維持している。
「ん……そうね。貴方が苦戦するというのも、頷けた」
「だろうよ。……ッハ、クソ忌々しい魚類共が」
そのため、アイリスは銀色コミュ避ツンデレ天邪鬼が面倒臭がらずに会話を仕掛ける数少ない相手でもある。────というのが極一部の序列新参を除いた周知の事実。ゆえに、違和感なく言葉を交わす二人を珍しがる者は此処にはいない。
然して、ついでに平常運転の口悪……および、暫しの間を置いて性懲りもなく城を突き上げ始めた第三波の衝撃も、全員揃ってスルーしつつ。
「情報通り、とりあえず『ヒトガタ』と『魚人』……【白影を着る抜殻】および【ディープ・ワン・フォールン】は障害にならない。各々が単身で対処可能よ」
様子見、もとい偵察の役を果たしたアイリスの報告に耳を傾ける。
「とはいえ、確かにオーバーレイド級の賑やかし程度のスペックはあった。身動きの取りづらい水中で群がられたら面倒ではあるし……〝他〟が混じったら大変ね」
「………………わぁ。お姫様が『大変』って言っちゃうのは……」
「俺たちにとっては、まあ『地獄』と考えた方がいいだろうな」
なんて、ぽそりぽそり苦笑いは混じりつつも。
「女王。警戒するように言われていた『ヒトガタ』の捕獲行動に関しては、どんな感じだった? ……いや、確認する間もなく消し飛ばしたというなら別に──」
「ん。掴まれてみたけど、頑張れば脱出可能。貴方なら……おそらく、大丈夫」
「────……そ、そうか。わかった。安心した」
「リンネも平気。あくまで捕縛行動みたいだから、あなたの【音鎧】を即座に砕いてくるような瞬間火力はない。……むしろ、誘って狩るのが楽かもしれない?」
「ぁはい、わかりました。ギュってされるのは流石に絶対イヤですけど、ハイ」
なんて、至極真面目な擦れ違いも交えつつ。
元より臨機応変環境適応は最低条件、かつ『状況に際して限界突破』の素質を大なり小なり持ち合わせているがゆえの最精鋭こと序列持ち。
それだけは満場一致で頂点と仰ぐ【剣ノ女王】の言葉を、各々に適した形へ噛み砕き頷くのも慣れたもの。それは、かの【銀幕】ですら例外でナシ。
「結論から、予定そのまま。突撃役が可能な限り数を減らして、討ち漏らしは火力支援役が落とす。それでも抜けてきた脅威は最終防衛線……〝音〟と〝氷〟で確実に処理。サヤカとメイは全体の生命維持だけを考えて、極力リソースを温存」
了承の声、首肯、あるいは視線。指揮官の淀みない指令に対する否はゼロ。
「このまま『城』が、沈み切ったら────」
斯くして、無為な襲撃に揺れる白亜と黒樹と御伽の城、その最中。
「地に足を付けて、踏破を開始しましょう」
個性豊かなれども、能力に関しては堂々たる隙間ナシ。
やる気も戦意も様々なれど、魔境を切り拓き進む力は類を見ない六人小隊は……いまだ緊張もなく粛々と────着々と、暗水の底へ底へと沈んでいった。
◇◆◇◆◇
「────……………………………………………………成程。それで……」
「結局のところ六時間を掛けても、地に足が付くことはなかったと……」
然らば、その結末がアレである。
「…………問題ない。これも想定していたパターンの内一つ」
パチパチと、ささやかに賑やかに。荒んだ心や水に濡れて冷える身体を温めてくれる焚き火に当たりながら、さしもの【剣ノ女王】様も僅かに不機嫌顔。
出鼻を挫かれた苛立ち……というより、延々と終わらぬ潜行劇が齎した精神的消耗がゆえだろう。アイリスに限って他人に見せるのは本当に珍しい『丸わかりな強がり』を返されたショウとレンも、浮かべた苦笑いは同情の色が濃い。
最終的に生命維持手段……特大セーフルームとなる【城主】の【白亜と黒樹と御伽の城】顕現可能時間が尽きたり、サヤカのバフおよび治癒魔法等の延命措置がMP枯渇により途絶えたりで無念の〝溺死〟にて全滅となったわけだが────
「……溺れ死ぬと、ずぶ濡れでダンジョン外に放り出される仕様は以前のままか」
「あぁ……焚き火あったかぁい…………地面って素晴らしぃ…………」
「振動が……まだ、頭が揺れているような気がします…………」
「…………………………」
「…………………………Zzz……」
死屍累々。
裃を除装して、これまた珍しい軽装姿で天を仰いでいる囲炉裏を始めとして。
死んだ魚の目もとい魚類どもに弄ばれて心が折れたヒトの目で焚き火を見つめているリンネ、気付いていないのか『ような』ではなく無意識に頭を揺らしながら小さな唸り声を零しているサヤカ、拗ねている銀色、爆睡しているタオルの塊。
重ねて、死屍累々である────然して、
「……問題、ない」
盛大にファーストアタックを失敗した小隊指揮官は、溜息を一つ。今度は無様な強がりではなく、純然たる事実として先と同じ言葉を口にした。
呟きではなく、聞かせる音として。
「約六時間。真下に、メイの【白亜と黒樹と御伽の城】の超巨大質量で自然潜行して、底に到達しなかった────つまり、行くべきは〝下〟じゃない」
連なるは、推理考察。
「〝横〟か、あるいは〝上〟……そうじゃなかったら、流石に知らない」
……と、やはり若干の不機嫌味も残してはいるが。
「まあ、同意見だな。攻略可能コンテンツであってくれることを願おう」
「…………〝上〟じゃないかなぁ、と思いますねぇ。〝横〟は、ちょっと……」
「途方もなくて、あまり可能性を考えたくありませんね……」
口語能力を手放していない三名も続き、辛うじて相談の体は成された。
さすれば自然。それぞれの嗜好や思考、向き不向きなどプレイスタイルによって経験値の量は様々なれど、此処に居るのは誰よりも仮想世界に浸る者達。
「……それじゃ、ひとまず潜行プランは凍結」
「あぁ。次は浮上プランを試すとしようか」
「ぃよーっし頑張りましょかー! ……もうちょっと休憩、した後に‼︎」
「ふふ……そうですね。まだまだ初日、これからです」
遍く立ちはだかる困難、途方もない不条理その他とは長い付き合い。
ゆえに────
「……大丈夫そうだね」
「勿論。俺たちは安心して拠点の番を遂行しよう」
小隊の輪から少し離れて、視線と言葉を交わし合った兄弟然り。
見守る世界は、在るか居るかなど知らぬとばかり。成すべきことを……否、成したいことを成すために、意志の歩みは止まることを知らず。
焚き火を囲んでの作戦会議は、ほどよく賑やかに続いていった。
そりゃあ例え世界最強無敵のパーティだろうと、最低限の攻略法も知らず解き明かさずクリア出来ちゃったら流石に〝レイド〟の名折れだからね。
いやこれ六人編成入場型の(形式的には)一般ダンジョンなんですけども。
どこぞのエペル君は名折れじゃなくて曲芸師が曲芸師だったせいなのでギリ無罪。
あと爆睡してるバスタオル羊ちゃん可愛いですね転がし回して城に潰されたい。




