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アルカディア ~サービス開始から三年、今更始める仮想世界攻略~  作者: 壬裕 祐
君がために在る世界、誰がために去る未来 第三節

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-6h


「────んじゃ俺は用事があるので、これにて失礼」


「同じーく」


 激励に類する言葉など今へ至り消化済み。ゆえに至極さらっとした挨拶と共に、風も起こさず大翼を振るい舞い上がった竜の上より手をヒラヒラ。


 そして、王たる〝ねずみ〟の声に代わる魔力の音鳴りにて真価解放。背に乗せる者たち諸共、輝く青い一つ星となった〝りゅう〟が────まさしく、瞬きの如く。


 空の彼方へと、あっという間に消え去った。……然らば、


「うわはぁ、すーっご……! そりゃ一時間くらいで着いちゃいますよねぇ」


 颯爽と帰っていった送迎役。【星架クラウン】および、彼の調伏獣の本領を発揮させるために同行した【糸巻】を見送る八名の中から、ほんのり興奮した称賛の声。


 例によって出会いからハルの厄介オタクと化してしまったリンネの言葉だが、流石に歴然たる事実となれば苦笑いもツッコミも湧くことはない。


 現状唯一の飛行型調伏獣、サファイアの特殊能力『星還飛行ライトスピード』。


 自らの全速と主の全速を足した上で追加乗算が掛けられる異常出力は、推定極超音速────つまりは音速の五倍(マッハ5)以上の馬鹿げた速度を実現しているらしい。


 『推定』だの『らしい』だのと断言ができない理由は、現状のアルカディアにはアレ・・の速度を正しく観測する術がないから。今回など【フロンティア】から約一万キロほどの道程を〝星〟と化して飛んできたのだが、所要時間は一時間強。


 単純に考えれば時速一万キロ・・・・・・。言わずもがな音速の五倍どころか十倍に迫る数字だが、本人曰く『実害的な反動がない範囲に留めている』とのことで……。


北陣営おれたち、お株を奪われちゃってるよね」


「間違いない。移動能力だけで旅適性が異次元化してる」


 加速を止めない彼の〝脚〟は、戦いの分野だけに留まることを知らず。愉快そうに流れ星・・・を見送ったレンとショウの言葉にも、周囲から異議は起こらなかった。


 ……その代わり、


「あぁっ、お姫様そんな惚気顔いいんですか見せちゃって! いいんですか!」


「……見せてない。気のせい」


 今日も今日とて誰しもの目を引く想い人────もとい事実上の婚約者へ向けたモノに間違いない、推し隠すことに失敗したのか否か惚気た微笑が約一名分。


 然して、即座に飛び付いてくる元気な後輩女子を物理的にも精神的にも軽く受け流しつつ。それはそれとして、心の栄養は逃さずストックしながら……。



「それじゃ……────早速、攻略に移る。準備はいいかしら」



 パチリ、アイリスはスイッチを切り替えた。


 蒼星の瞬きに連れられて、此処……五つある内の一つ、遠方の【青源の深域】へと降り立ったのは計八名。実働攻略部隊が六名の、補佐が二名。


 指示の言葉は必要なく、あるいは視線を向けることすら不要だったであろう。



「〝剣〟」「〝鏡〟」「〝玉〟────三律護法」



 求められるまでもなく、成すべきことを。


 声音と動作は一糸乱れず。一塊の音となった調を世界システムが承認した瞬間、北陣営が誇る『巴』を中心に比類なき光の守護が顕現する。


 《三律護法結界ミタマノトバリ》と名付けられた真円は、その能力一つだけで【玉法】【鏡法】【剣法】の三人が序列上位にあり続けることを肯定するに足る無法。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。展開条件は、範囲内の敵性存在ゼロただそれだけ。それだけの制限を以って一切の脅威を隔てる安全空間を作り出してしまう、アルカディア有数の『プレイヤーの域を踏み越える力』である。


 現状の最大展開範囲は約一キロ。重ねて顕現時間は無制限。更には結界内に居るプレイヤーのHPおよびMPの回復速度を数倍に高める上、各々のスキル等に関する再使用待機時間の消化までをも加速。オマケに復活拠点の役をも果たしてしまう。


 有数どころか、人によっては『最優』と断じて然り。甚だ埒外の権能だ。


「────と、それでは結界の維持や拠点設営など、諸々お任せを」


「頑張ってねサヤ姉。あまり皆さんに迷惑を掛けないように」


 加えて一度でも三人揃って成立させてしまえば、陣を崩しても不都合がないという点も極めて優秀。結界内にショウかレンの片方だけでも残っていれば、今回のようにサヤカが異空間ダンジョンへ入場したとて《三律護法結界ミタマノトバリ》は問題なく維持される。


 斯くして、理解する自分たちの役目を果たすため早々に輪を離れる兄弟二人。ふわふわ微笑みヒラヒラ手を振るサヤカを他所に……アイリスは、首肯一つ。


 それ即ち、彼らを含めて返されなかった『準備は良いか』に対する否へ向けて。


「ん……リンネ?」


「だ、だいじょぶでっす! がんばりまーっす……‼︎」


 ほんのり緊張の顔も一つだけ。それとて可愛らしいは程々に、頼もしいの範囲内。チーム内では最後輩とはいえ序列持ちとしてのキャリアは既に二年、今や北の【音鎧ベルメイル】も立派なプレイヤーの頂点にして〝星〟である────


 そして、最後輩がソレなら他は言わずもがな。


「わかってんな。掴まれたら・・・・・秒で終わりだと思え」


「わかってるさ。秒も在れば、どうとでもする」


 真っ暗で水面下を見通せない湖畔のほとり。並んで歩み寄り湖中央の大渦を見据えながら、親しいのか親しくないのか微妙な空気感で静かに話す東の二人。


「頑張りましょうね、リンネさん」


「やーもう頑張りますよサヤちゃん先輩と一緒ですからね百人力ですねっ!」


 ふわふわほわほわ、同陣営直下の後輩を笑顔で癒す北の聖女。


 最後に────


「……メイ?」


「ん………………んん、ぅ……起きて、……るぅ…………」


 アイリスの、すぐ隣。


 常に則り浮遊する寝台の上。自らが埋もれてしまうほど長い淡紫の髪を鬱陶しそうに除けながら、気だるげに身体を起こした【城主】メイが薄っすらと……。


 薄っっっっっすらと目蓋を持ち上げれば、紫紺の瞳が『友』を見る。


 その綺麗な輝きに、やはり常のまま。緊張など欠片も存在しないことを確かめて、友人にして『主』でもある【剣ノ女王】は小さく微笑み手を伸ばした。


 ────然して、


「なら、立って。水中にベッド持ち込みは大変なことになる」


「ぁぁぁ……ご無体ぃ…………」


 伸ばされた手は優しく頭を撫でるためでも髪を梳くためでもなく、その細い首根っこを捕まえて寝床から引きずり出すためのモノ。か細い悲鳴も迫真の無視。


 勿論、横暴なる王政などではない。


「起きてるぅ……立つ、立つからぁ……引っ張らないでぇ…………」


「いい子。立った後は歩いて、ね」


「ぁぁ……やっぱ引っ張ってぇ…………」


 コレ・・で、やる時はやる人間であることを────正しく彼女が南陣営序列第三位【城主】メイであることを、深く信頼しているがゆえの遠慮ナシ。


 ぽそぽそもにょもにょ寝言とも寝息とも聞き違えそうな極小デシベルの声音を発しつつ、寝台から引っ張り出された少女が地に降り立つ……その瞬間。


 忽然と地面に現れた短丈のブーツが、まるで自ら口を開けるようにして小さな裸足を呑み込んだ。────そして忽然・・は、靴だけに留まることなく。


 浮かぶヘアブラシが長い長い髪を梳き、その毛先が地に着いてしまうより先に飛来したリボンやピンが瞬く間に淡紫を纏めて整える。


 次いで、いつの間にやら消え去ったベッドに代わり大きなドレッサーが傍らへ出現。中から出てきた煌びやかなドレス……は、気に入らないとばかりメイに引っ叩かれ残念そうに逆戻り。二番手に現れたのはドレスはドレスでも実用性重視バトルドレス


 お眼鏡に叶ったというより適当に選ばれたといった具合ではあるが、今度は却下されることもなく……──飛来した一揃えを迎え入れるように小さな指先が触れた瞬間、寝巻のネグリジェ姿から本人の性質はどう在れ活発そうな戦衣に早着替え。


 さすれば、相変わらずなのは極まって眠たげな紫紺の瞳だけ。けれども、それだけで他の転じた印象を塗り潰して有り余る『眠り姫』は……欠伸を一つ。


 小さな身体で、大きな大きな欠伸を一つ。



「ふぁ……────……、あぇ…………あい。じゃ、頑張ろ……っかぁ…………」



 彼女なりの臨戦態勢にて、数歩先行していたアイリスの隣へと並ぶ。


 ……そして、それを見ていた視線が計五つ。見守っていたり、愛でていたり、苦笑いを浮かべていたり、特に興味はなさそうだったり。


 各々、様々ではあるが、とにもかくにも、


「ん。それじゃあ……行きましょうか」


 準備は万端、そして完了。並んだチームが、バラバラの歩幅で、しかし一斉に足を踏み出して────揺れて弾ける水の音が、六人分。


 無音の湖畔に響き渡り、静謐を暴く攻略が始まった。







メイちゃんのバトルドレスはスリーブレスシャツ&ミニスカ黒タイツでいきましょう。引き籠もりのドギャップ活発ファッションは世界樹の雫だから。

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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 『城塞』とか『城壁』ではなく『城主』の理由、これか 納得
み…みえっっ
ギャップ萌えってやつか、、、最高だぜ
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