一方その頃:仮想世界
────斯くして、別世界。
いまだ誰も知らない『契約』が密やかに交わされようとしている……そんな折。
現実世界の夕刻に至りて、一日の長さが異なる仮想世界は漸く太陽が降りていく頃合い。今なお動き一つなく天頂より遍くを睥睨する『青点』が顕現して以降も、色が失われた真っ黒な空に関わらず朝日と夜闇は存在している。
然らば、見上げれば夜の帳が如き暗天。けれども地上は当然のように視界が利く明るさに満ちており……──それは例えば、常より陰気な環境でも変わらぬゆえ。
「「「「「「…………………………」」」」」」
プレイヤー主街区【セーフエリア】から数えて、距離おおよそ二万キロ超。
五芒星の頂点を描くように等間隔で点在する【青源の深域】その内一つを擁する領域。静かな〝渦〟を抱く暗水の湖畔にて、散々たる光景もまた。
不可思議に存在する確かな日差しに照らされるまま、世界に晒されていた。
つまるところ、仲良く水揚げされている六つの影は────
「………………」
まず一人は【銀幕】ゆらゆら。
臨時チーム内に数えて二人。個人的な事情から労を尽くした前日調査の『経験者』その片割れは、うつ伏せに転がした湿度七億パーセントの身体をピクリとも動かさず、背中から立ち昇る迫真かつ激しい怒りのオーラを余すことなく解放中。
「………………」
次に聖女こと【玉法】サヤカ。
同じく『経験者』の片割れ、チーム内でも抜きん出て布が多い装いが災いして外見上は最たる悲惨。怒りの銀色に倣うかのような体勢でベシャッと地に伏す濡れネズミもとい濡れ聖女は、法衣の隙間から切なげなペシャ顔を覗かせ哀切の無言。
「………………」
そして次なるは【音鎧】リンネ。
チームの最後輩枠にして、他五人のソレ全てを合わせたとて天秤の釣り合いが取れるであろう究極元気枠────しかし普段の天真爛漫さは今に限って鳴りを潜め、トレードマークのポニーテールもヘッチャヘチャで本人は虫の息。
「………………」
続くは【無双】の囲炉裏。
諸々不詳の銀色を除けば、チームに貴重な黒一点。加えて男性としても広く馬鹿根性で知られる無敵の金髪侍は、ともすればリンネ以上の瀕死状態。十人に聞けば九人が『死体』と答えるであろう有様で、薄ッッッすい気配のまま静養中。
「………………」
と、その隣。謎のフワフワモコモコな白布の大塊は置いて過ぎ去り。
「…………………………」
最後の六人目。名高き【剣ノ女王】アイリスも、また同じく。
奥底から決して安らかとは言い難い寝息が聴こえるバスタオルおばけは例外として、他四人と揃いの様────即ち、ずぶ濡れで力なく地面に転がる、その姿。
仮に彼女の右腕こと【侍女】ヘレナが此処に居合わせたのであれば、間違いなく「人目が無くて良かったです」と胸を撫でおろしていたであろう惨状中の惨状。
見る者によっては、目を疑う光景に違いないだろうが……。
「「「「「「…………………………」」」」」」
おおよそ六時間強にも及ぶ奮闘、尽力の末に湖畔のほとりへ打ち上げられた計六名。誰一人として隣に目をやり苦笑いを浮かべる余力すらナシ。
勿論、体力的な意味ではない。
言わずもがな、精神的な消耗である。────然して、
「………………えぇ……っと」
「これは、これは…………」
そんな死屍累々チームを目撃するのは、幸運なことに類を共にする序列持ちが二人だけ。三日の期間を設けた日跨ぎ攻略に際し拠点管理役として同行した【鏡法】ショウおよび【剣法】レンの兄弟、そのロイヤルブルーの瞳が二対のみ。
あれやこれや……北陣営の序列持ちとして慣れ切った旅事の雑用をこなしつつ、長らく部隊の帰還を待っていた果てに訪れた心底からの予想外。
面子が面子なだけに、仕方のない道理。
即ち無意識に〝当然の凱旋〟だけを想定していた二人は、六つ並ぶ死に体を呆然と眺めた後。兄弟で互いに目を見合わせてから────もう一度、六人へ。
つまり、推定敗走部隊へと遠慮がちに視線を戻し……。
「………………その、焚火でも」
「………………用意しますか?」
レン、そしてショウが連ねて問うてみれば、微動した布塊を含めて計六つ。
確かな首肯が返されたことにより、全員生存の確認と相成った。
そして時は巻き戻る。
モコモコ【城主】様(?)かわいいね。ミリも本体は見えてないけど。




