これはこれで
────数分後。
「で? カナタは結局どうなってんそれ」
「え、はい、あの……」
逃れられず限界突破の大和撫子パワーに瞬間ノックアウトされはしたものの、流石に好きな人アリというかアリアリアリの男一匹としてデレついてはいられない。
ゆえに早々と立ち直り、こちらからも一手を返し、精神力を振り絞って平静を手繰り寄せた俺は姿の変わらぬ後輩二号へ意識を向けた。
然して俺の無理矢理な切り替えにカナタは戸惑い少々。
ほんのり苦笑いを零しながら向こう……つまり俺が変わり身として捧げたソラさんが、剣聖様(大)に構われながら限界化一歩手前で耐えている光景を眺めた後。
今へ至るまで性別不詳の少年は、自らの〝姿〟を見直して。
「えーと……顔、変わってないんですよね?」
重ねて、この場に手鏡なんて気の利いた物はナシ。それゆえの問いを向けてきたので、俺は共にソラを死地へ置き去りにした共犯事テトラと二人で頷いた。
注釈をつけるのであれば、
「あぁ、いや、目の色だけ変わってる」
「だね。赤い」
と、しかしまあ変化は唯一その程度だ。元のヘーゼルから深紅に近い赤瞳へ……『特徴部位』と言っていいのやらも不確かな、微か過ぎる〝表〟との差異。
「それ、纏う方だよな? 《纏身》?」
つまり、うっかり見落としても不思議ではないほど変わっていない。なんか色々と自信が持てなくなったので問い返してみれば、カナタは数秒ほど黙した後。
「…………はい。纏う方ですね」
こくり、カナタ自身も不思議そうな顔で頷いた。
そりゃそうだ、俺だって別人ガチャあるいは別種族ガチャで自分(素人間)になったら「え???」って思う。戸惑った様子も当然であろう。
────なお第二世界入場へ当たり装備品類も全てが一時的に没収される都合上、俺含め全員の格好が初期コスチュームで統一されている。
つまり、服のデザインでアバターの男女性別が判断できる……。
「「………………」」
「あ、あの……? なんです、か?」
と、思っていたのだが。
「………………なんか、洒落てんな? 初期コス」
「カナタそれ、デザイン持ち込み?」
判別、つかず。
どういうことかと言えば、カナタの着ている初期服のデザインが男性のとも女性のとも違う。いや雰囲気は似ているのだが、形がどちらにも寄っていない。
綺麗に、中間だ。男用女用どちらとも取れる絶妙な塩梅。
「え、あ、はい。……あの、趣味で服飾を齧っていたもので」
「ふーん。やるね、こっちでも製作いけるんじゃない?」
まあ、つまりはそういうこと。
アルカディアのプレイヤーとして登録する際に必要となる諸々の事前登録。パーソナルデータ等の検査云々と並行して行われるアバター作成だが、確かに初期コスチュームのカスタマイズ設定みたいなのも存在していた記憶はある。
あるのだが……なんかよくあるゲームの簡単選択とは訳が違う雰囲気を感じたので、当時の俺は見なかったことにした敷居激高要素に他ならない。
普通に『設計図』を求められたからな。そりゃ無理だって────
ともあれ、
「いえいえ、ほぼほぼ素人レベルですので……」
「誰に謙遜してんのさ」
テトラが感心しているように、中々見事な腕前だ。
相変わらずギリ少年(男)に見えるような見える気がするだけのような、可愛らしい顔と併せて絶妙に中性的な体格にバッチリ似合っている。
即ち、結局、マジわかんねぇ。
ここまで来ると流石に意図的なキャラロールであると受け取った方が良いのだろう。ならばこちらも、これまで通り突っ込んだ詮索は控えようぞと。
「んで、結局なにがモデルなんだろうな? それ。そのまんまだけども」
「それね。ほぼ人……吸血鬼とか?」
無用な疑問は無用と忘れることにして、特に配慮する必要のないシステム的コンテンツに対する疑問をピックアップ。テトラと一緒に首を捻るが……。
いや、そっちもマジわかんねぇ。ヒントがなさ過ぎる……。
「うーん…………牙、も無いですし」
然らば、テトラが挙げた『吸血鬼』という実に有りそうなモデルは否定。話す口からチラリと覗く白い歯には、確かに血を求める鋭さなど見受けられない。
肌も、別に病的な白さを獲得してはいない。男基準では白い方だが、まだしも健康的な範囲内だ。となると……────いや、もう本当に何も思い付かん。
「なんだろうね。ういさんとか『お姫様』みたく、亜人や幻人系がモチーフだと思うんだけど……カナタ、なんか他に違和感とかないの?」
後輩一号も俺と同じらしい。そりゃそうだよなと。
「…………〝鬼〟がモデルとしてあるなら、怪物とか怪異も纏身のモチーフ対象内ってことですよね。それなら……人そのままの、怪異……────」
然して、カナタは暫く考えた後……。
「……………………ドッペルゲンガー、とかでしょうか?」
「「えぇ……?」」
自分でも半信半疑な様子で零した予測に、俺とテトラは揃って疑念の声。
いや、だって、そんなことあるぅ……?
モデルによって何かしら特殊な能力が付与される類のコンテンツならまだしも、アルカディアの『転身システム』はシンプルなステータス変動型の要素。
どちらかといえば、目玉は外見の劇的な変化であると言えよう。
それなのにドッペルゲンガーは如何なものかと。そんなもの、どこぞの『耳だけ変わった姫様』に匹敵するどころではない……なんというか、その…………。
流石に本人へ向かって口では言えないが、面白みゼロというかなんというか。
たとえば俺なんか確かに転身体がらみで無数の精神的負荷を被ってはきたが、それはそれとして楽しんでいないと言えば間違いなく嘘になる。
別に『かわいい』を直接的に楽しんでいるわけではないが、それはそれとして完全に別人の容姿で過ごすってのは何とも言い表せない高揚感が生じるもの。
それと同じような感覚は、転身でも纏身でも獲得した者たち全てが大なり小なり体験しているものだろう────が、おそらくというか間違いなく……。
「あー、えー…………なんだ、うん。レア?……には、違いないよな、うん」
「ま、まあ、似合ってると言えば、似合ってるんじゃないかな。カナタらしいよ」
残念ながら、後輩二号はソレを望めないらしい。
流石に不憫に思ったのは俺だけではないようで、珍しくあからさま気を遣った様子のテトラと一緒になって必死かつ必至のフォローを試みるが語彙力が来い。
「いえ、その、まあ、はい……────あ、はは…………これは、これで」
とはいえ、本人は見た限り大して気にしていない様子。唯一変化している赤い瞳をパチパチと瞬かせて困ったように笑う顔に、少なくとも悲壮感は見られない。
「俺、仮に思い切り体格やバランスが変わったりすると『魂依器』の運用的に致命的ですし……実用的に考えると、違和感ナシでほっとしたまであります」
なんて言いつつ、向こう側。まさしく思い切り体格および身体バランスが激変してしまった『大人ういさん』に視線をやりつつ、もっともらしい言葉を繋ぐ。
……まあそれも、一理あるってか事実っちゃ事実か。
俺も俺で、この小まっこくて細っこくて体重が軽く手足も〝表〟より短い少女の身体に慣れるまで、そりゃもう……そりゃぁもう本当に、苦労したもんだから。
本音か強がりかまでは読めないが、本人がヨシと言うのであればヨシ。
────そしたら、そろそろ。
「さて……テトラ、どう斬り込むべきだと思う?」
「知らないよ。先輩のパートナーなんだから先輩が助けなよ」
「カナタ、なんとかしてくれ」
「え、無理です。俺ドッペルゲンガーなので」
「それはどういうこと???」
変わり身にされて息も絶え絶えな限界天使様を、助けに行くとしましょうかね。
ドッペルゲンガーかぁ。そうかぁ。
まあ流石にもう大体わかるよね。




