暇を明かした役者たち
なりたい自分になれる夢境、仮想世界アルカディア。
振る舞いだとか、在り方だとか。そういった内面的な部分でのロールプレイも醍醐味だが、それよりなにより。もっと直接的に『違う顔』となれる……既存ゲームのように分身をデザインするのではなく、自分自身が生まれ変わって成る。
体感型どころの話ではなく、真実リアルと見分けがつかない二つ目の世界へ没入して、好きな顔で生きられる。仮想世界黎明、その一要素だけでも一体どれほどの人を惹きつけたことか────けれども、実際のところ人とは贅沢な生き物で。
いざ『俺の考えた最強の俺』や『私の夢見る最高の私』のガワを纏って幻想世界へ飛び込んでみれば、多くの者たちが似たような感想を得たという。
あぁ、こんなもんか、と。
カッコイイ俺になっても、可愛い私になっても、たくましい僕になっても、皆が同じ条件にあって埋没するのは甚だ道理。周囲を見渡せば目に入るのは美男美女ばかり、ネタへ割り切った風貌や現実的な地味顔の方が逆に目立つ有様であった。
さすれば自然、仮想世界アルカディアにおける『容姿』は急転直下、現実と比して著しく〝人間〟の価値を表す指標としての重要度を下げていく。
勿論、全くの無価値ではない。
あくまでゲームの中と考えれば、目に入る顔が軒並み綺麗だったとして不利益があるかと言う話。それこそ創作物の中に居る人物たちが美形ばかりであるのとイコール、在るべくして在る夢の世界の実像として多くの者は違和感なく順応した。
そして、それはそれとして、誰もが好きに整えられた顔以外の要素……即ち変更不可な『声』が第一印象のモテ要素として台頭する他、リアルよりも一層のこと本人の『性格』や『人柄』などが重要視されるようになっていく。
言わずもがなプレイヤーとしての実力も人望を集める多大な要素だが……ともかくサービス開始以来、アルカディアの人的価値観は長らくソレで固定されていた。
『顔』はオマケという、現実ならざる価値観で────だがしかし、だ。ある時〝新たな要素〟が夢の世界へ足されて以降、価値の基準は再び変動する。
つまるところ……。
「おー、この頼りない感じ。懐かしき元祖一張羅のソレ」
不本意というか、別に求めていないにも拘らず。俺が二つ目の顔面にて世界中から恐ろしいほど『ワー』だの『キャー』だのを集めてしまったことが好例だ。
作りモノというよりは、貰いモノの顔。
言い換えれば、親から貰う容姿の如く神様から貰った容姿。
即ち、現実に増して偽ることのできない仮想にして真実の〝素顔〟として。
重ねて甚だ不本意である。仮想世界を求めたキッカケからして、元より変身願望ゼロでしたと言えば流石に嘘となるが……────や、まあ、うん。
ままならない今は、置いとくとして。
慣れ親しんだものとは、ちょっと異なる長めの〝読み込み〟を挟んだ後。穏やかな風が吹く草原で目覚めた俺は、身を包む『頼りなさ』に呟きながら軽く笑う。
サラサラと風に揺れるのは日差しを受けて煌めく草葉だけではなく、視界のほとんどを覆い隠す長い長い長い長くて長過ぎる純白の絹糸も一緒。
然らば、鷲掴みにした髪を掻き分け青い両眼を晒しつつ……。
「……っ、ハル────わぁっ!?」
感覚だけで確かめていた服装を目視。改めて懐かしい元祖一張羅……しっかり女性用ゆえ俺が自身で着ていたモノとは造りが違うが、相棒の姿で見慣れていた初期コスチュームを眺めていた折。すぐ隣から声が上がる。
目覚めの吐息、名を呼ぶ声音、そして驚きに叫ぶ可愛らしい悲鳴。
立って歩いて、ギリギリ床を擦らない程度。日頃から『本当に切っちゃダメなんです???』と思い続けている馬鹿アホ長い白髪を両手で掻き分けたまま視線を向ければ、そこにいたのは……──ハイ今日も今日とて最高に可愛い。
「お、オバケかと思いました……」
「わかるわかる、こんなの妖怪にいるよな」
白い耳と尻尾を生やしたソラが、己の髪に埋もれている俺を見て琥珀色の瞳をパチクリ瞬かせていた。無意識連動して揺れている耳の動きで世界取れそう。
────斯くして、俺たちが自らの手で『緑繋』攻略第二幕を了と成した後。生まれ出でたアルカディアの新たなワールドこと仮称【第二世界】の最中。
転身、あるいは纏身体に強制固定。
そして【第一世界】からのプレイヤースペック持ち込み不可。
即ち『もう一人の自分』から更に裏返った姿にて。現実世界と大差のない身体能力かつ、何一つ超能力やら装備品やらを備えていない素姿のまま。
なんとなし、風に吹かれながら見つめ合った俺たちは……。
「────先輩、新種のエネミーみたいだよ。縛ったら?」
「縛れるもんなら縛りたいんすけどねぇ?」
別に、二人きりのデートで此処を訪れたとかいうわけではなく。
「マジで、なんにも持ってないんすけど。どっかにヘアゴム落ちてたりしない?」
「その辺の草でも編んで作りなよ」
「えぇ……」
声音が三つ目。また近くから掛けられた言葉を辿って振り返れば、金色と琥珀色と白色とで基本的に眩しいソラさんとは対照的な真っ
「ところで大丈夫かテトラ。黒くないけど」
「別に僕、黒尽くめじゃないと死ぬ病気とかじゃないんだけど」
……黒くろすけ黒尽くめではなく。
こちらは過去に俺が着ていたものと同じ男性用初期服、つまりは麻的な素材感のファンタジー村人ライクな格好にて違和感がヤバい自称後輩第一号。
普段は首元で括り流している長い黒髪が俺と同じく解放されているものの、俺とは異なり常識的な毛量ゆえ『あらまあ新鮮ねぇ』程度で済んでいらっしゃる。
元より中性的なアバターの容姿だが、なんか普段に増して少女っぽい。《纏身》時に追加される黒猫の耳と尻尾も、よう似合っておるわ────とまあ、
「さて」
「どう……」
「なるかな」
ここまでが既存。つまり、お楽しみはここからだ。
三月初頭、土曜日昼。
トラウマに屈した俺の不参加が決定した件の大渦、悪名高き『ご自由に溺死ください』こと【青源の深域】の案件だが、暇ができたのは俺だけに非ず。
内容は知らんが首脳陣の厳正なる会議の結果、俺たちのクラン【蒼天】は晴れて(?)メンバー全員が攻略部隊の選定から外れるに至った。
正直ういさん……我が師【剣聖】様は絶対的な戦力として確定枠、自慢のパートナーおソラ様も俺を遥かに凌ぐ万能枠として候補に上がるものと思っていたが、
はたして、身内の欲目が多少なりとも無意識に入っていたのかなと。
いざ確定した部隊内訳六人を知らされたら、まあ納得せざるを得ない布陣。おそらく苦労係の面も背負い込まされるのであろう我が友【無双】も含めて、いざ見せ付けられたなら『そうですコレが最適です』と同意一つで済んでしまった。
ってなわけで、序列持ち含むクラン【蒼天】メンバー全員に暇が出来た次第。
────なら折角だし、身内の仲を深めない手はないよなぁ?
となるのが当然の流れであり、油断するとソロに浸っている後輩二号の首根っこも有無を言わせず捕まえながら空へ繰り出すに待ったナシ。
然らば天使のパートナー様と穏々お師匠様、俺に基本だだ甘い二人が快く付き合ってくれるのは常のこと。勢いで動き始めた俺に首を横へ振ろうが意味を成さないことを知っている後輩一号も溜息交じりに頷けば……。
クラン【蒼天】仲良しピクニック、無事成立。
雲の上、サファイアの背上にて出発後に行き先を募ったところ我が師とカナタ君が『転身システム』を放置しているという聞き捨てならない情報を得て、気持ち亜音速のアクセル全開【鍵樹街】までカッ飛ばして来たってな寸法だ。
さて、それでは改めまして『お楽しみ』タイム。
そういやニアの纏身体ことドラゴンニアちゃん、まだ見せてもらえてないんすけど一体いつ拝謁する許可が下りそうですかね……とかとか考える俺の耳が、
「おっ」
「ぁ」
「来たね」
二人分。
転身未獲得&初入場の常として、やや遅れて導かれた転移音を聞き取った。
はいズバーン!!!(人の心が無いカット音)
それでは六章第三節、張り切って参りましょう。




