実在文化
────重ねて、そんなこんな。
果たして初っ端の択として相応しいのか疑問なホラーアトラクションから始まり、大学生のバイタリティに任せた絶叫マシーン巡り等へ極自然に派生しつつ。
如何に『遊園地』というコンテンツと根本的に噛み合わない俺といえども、適当なことを駄弁っているだけで無限に楽しい友人たちとの遊びに〝暇〟が生じるはずもない。然らば時間は飛ぶように過ぎていき……あっという間の夕方手前。
長期休暇中、加えて半分大人の年頃、日暮れ間近など甚だ終幕には程遠い。ゆえに今日を惜しむのは今暫し先になるだろうが、流石に小休止くらいは必要だ。
然して満場一致、遊びの最中のブレイクタイムという最高の贅沢に臨むべく。
運良く頃合いに空いていた園内カフェの席に滑り込み、意気揚々「任せときな野郎ども」と親指を立てた翔子が他女子二名も引き連れて注文に向かい早五分。
おそらくは混雑している注文カウンター周辺への配慮────だけでなく、野郎どもに有無を言わせずテーマパーク特有の面白メニューを叩き付けるための悪戯心が半々なんだろうなぁ……と、俊樹と二人で未来を恐れつつ見守ること、
早、五分ほど。
「なあ俊樹」
「なんだ希」
「東京へ越してきて実際に見るたび驚くんだけども、ナンパって実在するんだな」
「するぞ。紛うことなきノンフィクションだ」
置いてかれた野郎二人が確保する席に座るまま、遠巻きに眺める先。翔子と楓と美稀の三人────即ち大学内外を問わずに他者……主に男の目を引きがちな美人女子大生三人組は、至極当然ですよと言わんばかりの流れで声を掛けられていた。
相手方は二人、言葉を選ぶのであればフットワークが軽そうな雰囲気の歳近男子のダブル茶髪。まあ普通にモテそうというか、あの三人に怯まず話しかけたことから察せられる自信に見合ったルックスでいらっしゃる。推定猛者。
然らば俺たちは、そんな勇者二名を見守りながら。
「……ラノベとかなら、こういう時は男子が颯爽と助けに行くもんだよな?」
「そうだな。ラノベならな。……まあ、仮にラノベだったとしても────」
頬杖を突きつつ暢気なことを宣い、視線を投げて行動を問う俺。そして同じく暢気に首肯を返しつつ、椅子から腰を上げる気配は欠片も見せないまま……。
「────あの三人に、ヘルプは要らんだろ……」
「歴戦の猛者どころじゃないからなぁ……──ぁ、南無」
わかり切ったことを俊樹が呟いた数秒後。華麗な笑顔と可憐な笑顔と眼鏡の輝きを以って勇者たちを袖にした女子三名が、何事もなかったかのように談笑開始。
もう、その場から動く素振りすらナシだよね。哀れな彼らが其処に居るのに。
傍から見ている俺たちまで謎に居たたまれない気持ちになってくるが……当の彼らの心中など余程だろう。しょんぼりしながら二人の勇者は立ち去ってゆく。
哀愁の漂う背中に心の中で合掌不可避だ。めげんなよ、いいことあるって。
「度胸は買う。奴らは漢だ」
「何視点だよ。わかるけども」
俊樹の称賛も、冗談交じりであると当時に本音も微かに混じって然り。俺もアルカディアの高難度ダンジョンも斯くやの『無理ゲー』に苦笑いを零すばかりだ。
冗談でも誇張でもなく、マジのガチで街を歩けば高確率で声を掛けられるらしいからな御三方。都とは斯くも恐ろしき異界の地よ……────と、
「おい野郎ども。颯爽と現れてヒーローしてくれても一向に構わないんだけど?」
それから、また数分後。
これまでも何度か目撃した光景に対して、都度リピートしている定番やり取りで暢気に駄弁っていた俺たちの目前。順番待ちの印であろう数字が記された札がスコーンッと机に置かれると同時、帰還した激モテ翔子さんの声が降ってきた。
さすれば、
「いや、プロに任せた方がいいかなって……」
「俺らが出てって無駄に口論でも起きたらダルいだろ」
俺と俊樹の返答までが、いつもの流れ。
顔を向ければ翔子も翔子で顔に怒りや不満の色は皆無。両脇の楓と美稀も同じく『いつものこと』以上でも以下でもないといった風に真実平静だ。
重ねて、つよい。
アーシェ……は、またなんというか生まれとか様々な意味合いを含め別次元として。これに関してはソラやニアなんかも大なり小なり持ち合わせているモノ、美女美少女が自然と備え得る共通必須スキルというやつなのだろう。
「まあ、いざって時は男子するんで。ハイ」
「あはは。頼りにしてるよー」
とはいえ、ってな具合。一応の意思表明をしとけば楓がコロコロと笑う。
流石に危ういと感じたら飛び出せるように目は向けているのだ。いるのだが、今のところ俺や俊樹の出番が生じた試しが一度もないというだけ。
誠、各々見事な手腕である。────ゆえに、
「で、どんくらい待つってよ?」
「んーわっかんない。ドリンクはすぐだけど、フードは最悪三十分くらい掛かる────ぁ、アレ私らのじゃね? オラ行け出番だぞ野郎ども貰ってこーい!」
「この人混みの中で液体運ぶの地味しんどくね……?」
「任せろ俊樹。給仕盆ナシ素手の五つ同時でも余裕だぜ……!」
「ヨシ行け希。プロの腕前を見せてもらおうか……!」
「いやアンタも行けや。働かざるもの食うべからずの刑に処すわよ」
ラノベや漫画やアニメみたいに、ナンパされている女子の元へ颯爽と男子が助けに入る一幕など……現実では中々、起こり得ないことであると────
◇◆◇◆◇
「ちょっと、いいかな」
────そう思っていた、数時間前の俺よ。これが現実だ。
既に日は落ち、辺りはアトラクションの電飾が映える夕闇の中。場所は園の端にて喧騒の外れ、ぽつぽつと置かれた長椅子を中心とする目立たぬ休憩所の一角。
登場人物は、計四人。
お節介に踏み入った俺と、元から居た見覚えがある勇者たちと、
そして────
「………………」
彼らに声を掛けられ延々と困った顔をしていた、見知らぬ少女が一人。
さて、どうしてこうなったのか……時は数分前に巻き戻る。
巻き戻るのは次話らしいです(暴挙)
男二人で出会いを求めて遊園地に来てる勇者君たち可愛いね。
顔は良さげなのに夜まで戦果ナシで可哀想。




