練り歩く青春野郎ども
────そんなこんな、物理的な意味で現実に存在する夢の世界への入場後。
コネもとい「先日お世話になったから」と……まあ件の配信でコラボした件についてだろう。世界のホワイト家の姫君がプレゼントしてくれた特別優待券が火を噴くぜということで、定番甘味を齧りながらアトラクション一号を求めた結果。
「なあ俊樹」
「なんだ希」
「男二人で『お化け屋敷』って、一周回って風流じゃね?」
「お、どうした。嫁持ち特有の余裕発言か張っ倒すぞモテ男」
男子が二の女子が三。多くの男子学生が羨むであろう比率を誇る我がグループだが、色気ナシという冷静に考えれば異常事態とまで言える事実が存在する。
いや楓や翔子や美稀に色気もとい魅力がないとか失礼も甚だしいことを言うのではなく、単純にグループ間で色恋の視線が飛び交っていないという意味。
楓は自称『恋愛感性お子様レベル』だし、美稀は『三十代から考える』などと興味ナシ発言をしているし、最モテ翔子さんは……まあ『あんな感じ』だし。
そんで男側も俺は様々な意味合いで論外として、俊樹に関しても……。
「威嚇すんなってオバケより怖いから。……まあ、その後どうよ?」
「あん?」
「ほら、例の彼女さん────」
「だぁから、まだ、彼女じゃ、ねぇってのに……」
とまあ、そういう感じ。
そう、この男、普通に想い人がいらっしゃるのである。
『まだ』と言ったのも今更うっかりや無意識ではなく、その意志を俺が既に聞かされているからだろう。タイミングは以前の温泉旅行中のことだった。
男二人部屋ということで自然とアレコレくっちゃべっていたところ、俊樹が頻繁に俺の恋愛事情を弄るものだから自然と派生した流れ。
そういう貴様は結局のところアレだ翔子とは如何な感じなんだ正直に全部ぶっちゃけたまえよと、まあそんな感じに揶揄い半分で『腐れ縁の幼馴染(異性)』とかいう現実的ファンタジーを親友特権の様子見でつついてみたところ……。
────いや俺、好きな人いるし。翔子じゃねぇ方の幼馴染。
……と、まさかのマジレスを喰らった次第。
慄いた。そりゃもう慄いたさ。コイツ、まさか、ダブル幼馴染(女子)……だと…………なんて風にガチの戦慄と世界の作為を感じたものだ。いろんな意味で俺もアレだが、この現実青春ラブコメ野郎も大概なラノベ主人公だったわけで。
実は過去に翔子へ告白したことがあるとか、その際に全力の平手打ちで張り倒されたとか、そのせいで一時的な女性恐怖症を患っていた時期があるとか、とにもかくにも度肝を抜かれたエピソードは事欠かないが……今は今。総括すると、
「まだまだ〝弟〟扱いだかんなぁ……」
「励め友よ」
「こんにゃろう他人事を決め込みやがって」
遠山俊樹十九歳。おおよそ四年に亘り二つ上の〝お姉さん〟に片思い中。
嘘偽りなく心の底から応援してる。ちょいちょい二人で会っているとのことで翔子さん曰く『とっとと付き合え』状態ではあるらしい。励め友よ、幸あれ────
なんて各々の事情から、俺たち五人は今日も今日とて男女関係なく仲良し。
「ってか希。お前ビビらなすぎだろ、おもんな」
「このオバケたちは別に俺のことを殺そうと襲ってこないからなぁ」
「戦士的観点の発言やめてくれ。それは笑う」
色めきガン無視で男二人を『お化け屋敷』へ放り込むのも平常運転と言った次第。ノーリアクションで闊歩する様に、オバケたちも困惑していることだろう。
「まあ、確かに仮想世界で冒険してりゃ度胸も付くか……」
「怖いからな、普通に。ご丁寧に〝殺意〟で刺してもくるし」
「そんで実際に殺されんだから、そりゃ『無理』って投げる人も多いわな」
そんで、アルカディアの話題と知らずに聞けば逆に戦慄しているであろう。言葉の並びだけなら物騒な会話をしつつ、恐怖演出を観覧しながら歩いていく。
比較対象というか慣れ切ってしまった環境が仮想世界もとい至極やりたい放題な限界ファンタジーであるため、いっそ申し訳なくなってくるほど驚けない。
勿論のこと現実の俺が実際オバケに襲われでもしたら、アーシェが助けてくれでもしない限り悲しい結末を迎えるだろう。……が、流石にな。
作り物ゆえ危害がないと理解しているのだから、まあ道理。
「ふーむ……アレだ。やはりアルカディアは部分的にホラゲー」
「モンスターパニック極振りだろ。此処は和製ホラーだぞ」
「いや想像してみたまえよ俊樹君。ぼやっとした怨霊に『呪い殺されるかもしれない……!』という曖昧な恐怖と、全長二十メートルを超える巨大砂漠鱓に追い回されて『食われるッ……‼︎』という致死の確信。実際どっちのが怖いって話だ」
「どっちも怖ぇーよ。舐めんな」
「ゆうて俊樹も全く怖がってなくね?」
「オバケよか、キレた翔子と律姉のが怖ぇー」
「わかる。キレた女子ほど怖いものはない」
作り物だが本物の〝死合い〟に満ちた仮想世界に浸かっていると、何より度胸や物怖じしないメンタルというやつが醸成されていく。
今更お化け屋敷程度で、ワーワー騒いだりは出来なくなってしまった。
────しかしまあ、俺が全てということでもナシ。
「…………おーおー、盛り上がってるわ」
「楽しそう」
後方、遠く。俺たち二人の後から入場した女性陣三人……主に楓と翔子だな。高らかで賑やかな悲鳴が耳に届き、ついニヤリとほくそ笑む男子が二名。
全人口がアルカディアンかつ仮想戦闘に親しむ戦士となったわけでもあるまいし、こういった楽しみの需要が尽きることはないだろう。
それに加えて、少なくとも身近に三人。非戦闘系の約一名は除くとしても、相変わらずだったり余計にだったりで怖いモノがダメな実例もいることだし……。
「良い商売だ。頑張っていただきたいね」
「希お前、楽しみ方わかんなすぎて自棄になり始めてんだろ」
アトラクションの定番文化。末永い活躍を、お祈り申し上げます。
アルカディアにも和製ホラーめいた怨霊系ダンジョンあるんだけどね。
道中が無駄に長いわ全域が暗くて視認性最悪だわ環境も狭苦しい閉所が多くて基本的に戦闘難だわ出現エネミー共通で物理完全無効だわデバフ系が多くてストレス多々だわ報酬が微妙だわで全ッッッッッ然まったく人気ないらしいですけど。




