お暇中
────過ぎ去る日々は止まることを知らず、二月の二十日。
最早メイン住居は仮想世界といった具合になりつつある俺だが、ありがたいことに外へ連れ出さんとしてくれる者は多いため引き籠もりには縁遠い。
縁近く引き籠もりを自認するニア太郎は置いとくとして、ソラやアーシェ。それから稀の気まぐれで「良いものでも食べに行くかい?」と高貴な店へ誘ってくれる和さん。その他には勿論、賑やかで得難い友人たちなどなど。
バ先の人々くらいしか親しい縁を持っていなかった高校時代とは真実えらい違いだ。改めて思えば、我ながら引くほど恵まれた今へ辿り着いたものだが……。
まあ、それに見合った苦労やら何やらも背負ってるってなことで一つ。
然らば、その恵まれた環境を今日も今日とて享受するまま────
「ってなわけで、今回【星架】は留守番勢に決定しましたとさ」
「「はえー」」
総員、春の長期休暇にて欠員ナシ。予め決まっていた予定に則り昼過ぎから集まった大学面子と共に、俺は現実世界の電車にガタンゴトンと揺られていた。
人混みは、それなり。ギュウギュウと言うほどでもないが座席はキッチリ埋まる程度。なればこそ多少のヒソヒソ話くらいは目立たない。
とはいえ仮に耳をそばだてられても問題はないよう言葉選びには注意しつつ、移動時間の暇を埋めるように近況を話せば両隣から気の抜けた反応。
翔子はともかく、お前の「はえー」は可愛くもなんともないぞ俊樹君。
「聞いたことはあったけど、そんなにだったんだ……?」
「驚いた。でも、ダメなものは仕方ない」
次いで、正面から二つ。
俺と翔子と俊樹三人掛かりの節介にて折良く開いた座席へ押し込んだ女子二名分の声。常に豊かな感情表現が今は心配へと振られている楓と、本日の主役様。
晴れて十九歳の誕生日を迎えた、我らが締め役こと美稀さんである。
────即ち、そういうこと。
今日の集まりは他でもない、美稀の誕生日を祝うために(本人の「別に気を使わなくていい」発言は無視して)企画したレッツお出かけパーティというやつだ。
「いやまあでも、正直トラウマとか関係なくねとも思うけどなぁ……?」
とはいえ、移動時間は移動時間。特別な日だからといって公共の場で騒ぐような阿呆は仲間内に存在しないため、まだまだ各々平常運転。
ダルそうに吊革で身体を支えている俊樹も遠慮なく駄弁りを続行する。
「ぁー、まあ、だっよねぇ。そんなん私も普通に無理だろうし」
「私も、絶対無理かな……」
「同じく」
然して、他三人も同様に。フォローというより単なる感想だろう、おそらく『自分がソレを体験したら』を想像したと思しき俊樹の言葉に同意が続いた。
皆それぞれ【青源の深域】……つまるところ化物が蔓延る途方もない真っ暗な海中に身を投じるなんて絶対に御免だと言っているわけだ。
そうだよな、俺もそうだった。わかるわかるぅ。
「そんで、のぞみんはトラウマで倍プッシュなわけでしょ? まあダメじゃんね」
「むしろ何故にソロで飛び込んだし。馬鹿なのか?」
「いつも思ってるけど、あんまり無理しないでね……?」
「心配する側の身にもなった方がいい」
なんて適当に同調を喜んでいたら、アホを見る目が四連鎖で飛んできた。
つらい。
「えぇ……いや、だってさぁ。頼られて即『No』は気が引けたし」
「お人好し」
んで、これ美稀。
「言ったけど、俺も正直そこまでとは思ってなかったし」
「相変わらず変なとこ自己認識が甘いよね」
これ翔子。
「最悪、気合いでなんとかなるだろとも思ってたし」
「そんで根本が脳筋気味なんだよな賢いくせに」
これ俊樹。
「あと、ソロ突撃は当然だろ。誰が無様を晒す可能性に人を同行させるものかと」
「わぁ、また子供っぽいこと言ってる……」
これ楓。
ねぇ、四條ご令嬢様のが地味に最大火力だったんだけど?
つらい────そして、おそらく。
「ま、留守番を言い渡されたんならヨシだろ。たまの休暇だな人気者」
「ゆうて、ちょいちょい休暇あるよね。前の温泉旅行とかもだけど」
「あるけど、結局ほとんど全部が〝心配〟と〝気遣い〟で渡されたもの」
「希君って、自分で休憩するの下手だよね。知ってたけど」
「よし諸君、そろそろ止まろうか? 責務の如く俺を詰めてくれるな」
目的地まで残すところ十分弱。
この暇潰しの流れが止まってくれる可能性は、極めてゼロに近いのだろう。
◇◆◇◆◇
────で、目的地。
「俺、人生で二度目だわ」
「あ、俺も」
「まあ、なっかなか来る機会って無いよねー」
現実を代表する非日常へのゲートを潜り、俺は友人たちと共に人混み溢れる遊園地へと入場。頭から冷静を攫っていく喧騒に目を細めていた。
人生における初回。つまりニアことリリアニア・ヴルーベリ嬢との初デート以来のことになるが、件のテーマパークとは違う場所。規模で言えば今回のがデカい。
ニアと二人で来た回は様々な意味でアトラクションどころではなかったというか、そもそも互いに楽しみ方が下手過ぎて随分と特殊な感じになったが……。
「ソ────陽ちゃんも来れたら良かったんだけどね」
「残念。高校生はバリバリ登校期間だ」
「ま、そこは次の機会ってことで? へっへへ」
「別に俺たちは呼んでくれなくても構わんぞ? へっへへ」
「さて本日の主役殿、どこ行くよ? コネに塗れた優待パスが火を噴くぜ」
「「うーわ無視」」
一対一のデートと友人たちとの突撃とでは、なにもかもがそっくり変わることは間違いないだろう。然らば、前回のリベンジとういわけではないが────
「んー……とりあえず、チュロス食べたい」
「うーわ優待パス関係ねぇ。が、任せろ。ちゃんとリサーチしてあるぞ」
「頼もしい。よろしく」
今回は正しく騒がしく、楽しんでみるとしようか。
ヒロイン不在で遊園地へ遊びに行く主人公がいるらしい。
でも理由あって続きます。




