剣の乙女たち
アルカディアに存在するマップ、エリア、フィールドは、比率にすれば少数の『破壊不能地形』と大多数の『破壊可能地形』に分けられる。
前者に類するのは多くの即時生成異空間内環境あるいは、フィールド上に存在する特殊エリア『領域』内環境など────つまり、後者に類する通常エリア。
【隔世の神創庭園】を形作る果てしない〝世界〟は、サービス開始初期にプレイヤーが森を切り拓き【セーフエリア】を築けたように、故意的変動を許容する。
要するに『剣を地面に突き立てれば鋒が埋まる』といった、現実的には当たり前かつ既存ゲーム常識的には当たり前じゃない理が在るということ。
即ち、当然。
連なる巨塔が降り注げば、大地が穴だらけになるのも然りということ。
「ひぃえっ……???」
とはいえ……降り注ぐ百の巨塔、現代兵器も斯くやといった威力迫力を以って炸裂する轟音衝撃、容を与えらえた砂塵の暴威により弾け飛び散逸する流砂の渦、そして現れた傍から砕き穿たれる硬い岩盤────それら全て、知れた光景。
「……やっぱり、いい勝負になりそうだけれど」
破滅的な力が降り落つ只中、まさしく中心にて。
悲鳴ともつかない放心の声を漏らす要救助者を抱えたアイリスが、援護砲撃の到来に合わせて展開した剣風加護の只中で微笑むように。
間違ってもターゲティングされないよう、窪地の縁にて気配を消して留守番中。大人しく状況を見守るニアが、やはり緊張感なく「うわはぁ」と笑ったように。
────そして、今は不在の誰かさんが、いつもいつも言っているように。
今に至って、少女がアルカディアの『筆頭バグキャラ』であることを知り尽くしている者たちにとって、その程度は驚くほどのことではない。
ゆえに、
「っ、アイリスさん!」
「ふふ……大丈夫! 加減は必要ないっ!」
穴だらけになった地、穴だらけにした天とで、確認の交信。
そう、つまり、今のが単なる様子見の牽制であることも────
「《双剣の円環》」
知る者であれば、呆れはすれど驚きはしない。
「〝砂剣〟──〝炎剣〟────『魔剣融劫』」
加減は必要ナシ。姫君からの指令を素直に受け取った天使が、自ら大地へ突き立てた塔の一つ……その柄頭に降り立ち唄うと共に。
「《神穿ノ弌塔》……──限界顕現ッ!」
顕れ侍るは、赫灼の天剣。
地形ごと戦況が変わってもなお怪物の縄張り中心、即ち最も見晴らしと都合の良い場所にて。当然の狂乱を以って暴れ狂う【渦に棲まう竜喰蟲】を抑えながら。
自身へと、そして突如として現れた『天災』の元凶と見定めた少女へと向かおうとする〝頭〟────もとい、ソラが穴を開ける前から無数に開いていた岩盤の穴を通り、尽きず絶えず現れる〝触手〟の全てを両断することで牽制しながら。
見上げるアイリスの瞳に映るのは……剣を象った小さな太陽、あるいは太陽を象った巨大な剣。全長三十メートルを超えるであろう、金焔の塔。
────さて。
ソラの魂依器【剣製の円環】が揃える四種の魔剣には、それぞれの〝基〟となった魔法の性質を色濃く受け継いだ特性がある。
〝砂剣〟────始まりにして基礎、原初にして万能の砂塵剣が備えるのは、素材となった【砂塵の涙滴】……朽ちた瞳の主たるシークレットレイドボス【砂塵の落とし子】が操る砂嵐、その威力性質を引き継ぐ物理と魔法の双属性。
〝炎剣〟────次いで第二。炎熱の化身たる赫灼剣が備えるのは、属性傾向に則った単純な高威力に加えて非実体の刃が成す物質貫通能力。
〝氷剣〟────更に第三。極冷を秘める雪華剣が備えるのは、舞い降る雪が如き無数と凍結。冷気による行動阻害と触れたモノの力を奪うステータス簒奪能力。
そして……〝雷剣〟────新たな第四。閃き輝く雷光剣が備えるのは、己と主に幅広い意味で電気の性質を付与する『雷伝導』および、アイリスが籠めた大魔法《紫電恒星》の性質を捻って受け継いだと思しき『魔法無効化消去』能力。
然らば、今この状況で特筆すべきは第二魔剣〝炎剣〟の特性。
炎で容成す非実体の魔剣。その刃が持つ物質貫通能力、あらゆる盾や壁を擦り抜ける無法の貫通遂行限界は────他ならぬ、刃の全長に比例する。
つまり、三十メートルを超える小太陽の鋒は、
「────《鋳溶かす天焔の業禍》ッ‼︎」
多少厚い程度の岩盤如き、容易に貫いて隠者を穿つ。
斯くして着弾のコンマ数秒前。囮役および護衛役および牽制役を果たしたアイリスが一足にて退避、傍ではニアが利口に両目を腕で庇った────次の瞬間。
殺風景な岩山地帯に、眩い極陽の焔が屹立した。
そして五秒、十秒……炸裂した金焔が吹き荒れる爆熱と共に、威力の余波たる溶岩が其処彼処に舞い散る中。そもそも『物質貫通』など無くとも届いていたのではと呆れるばかり、エリア中央にポッカリ空いた大穴の底。
『────────……、…………ッ……』
なおも息のある、流石の化生。
形容するのであれば、岩石で作られたイソギンチャクとでも言うべき異形の怪物が蠢く────その元へ、降り落ちるは次なる光輝。
先の金色に勝るとも劣らない鮮烈な青銀が、
「────《無境天剣》」
『剣』を振るえば、幕が下りた。
そうだよ。馬鹿みたいな猛攻を掻い潜って穴掘りを頑張った末に本体のイソギンチャクをボコるのが対ニネルヴェ君の正攻法だよ。そりゃ単一小隊じゃ無理ですわ。
なお『不死身ミズ』という通称は全貌が明らかになっていない「あのクソボスどうやって倒すんだよ」時代に浸透したものであり、正体が判明した今も親しみをもって受け継がれている形。記録上の初代討伐者は東の無敵侍だそうです。




