悲劇か喜劇か惨劇か
「「────……」」
癖毛が目立つ黒のショートヘア、両目を半ば隠す長さの前髪、その切れ間から覗く同じく黒の瞳。見覚えのない女性プレイヤー。
纏っているのは、一般基準なら『それなり』と評して良いグレードの旅装。しかし少々やぼったいオーバージャケット……もとい動きやすさ重視の実用機能服、その下から覗くタイツ&ブーツからは戦衣らしき性能を読み取れない。
十中八九、非戦系プレイヤーだろう。
そんな者が、一体どういう経緯で単身こんな大規模戦闘領域で悲鳴を上げていたのやら────そんな疑問までを、とりあえずの一区切り。
チラと振り向き目を合わせた一瞬で、アイリスは思考した後。
女性……少女? やや童顔気味のキャラメイクとはいえ顔立ち以上に幼く見えるのは、状況に際して張り付いてしまっている『表情』のせいだろう。
即ち、怯えと諦観に満たされた、その顔へ。
「……怖かったら、目を閉じていて」
通りすがりの【剣ノ女王】は、自然なソレと比すれば少々下手な微笑を一つ。
「大丈夫。すぐ終わる」
されど世に刻み続ける実績を以って、その言葉に『下手』はない。────然らば、正しい自信家であるアイリスが澄まし顔で確定事項を口にした瞬間。
割り込み一閃にて頭部を斬り飛ばされるどころか消滅させられたハーフレイドエネミー【渦に棲まう竜喰蟲】……通称『不死身ミズ』の身体が断面だけを地上に残す岩山地帯中央部の巣全体が、吼えるように激しく震動した。
次いで、それまでは遊びだったと言わんばかり。ジワリジワリと獲物を引き寄せていた奈落の流砂が、まさしく渦潮の水流が如き勢いで加速激化。
「んぎゃっ……!?」
ポカンと呆けていた女性が女性らしからぬ悲鳴を上げて攫われかけるも、アイリスの片手が襟首を捕まえる。然して砂まみれの要救助者を確保しつつ。
自身は流砂の流れを無視して固定空間に立ち続ける『最強』が見やる先。
『ッ──────────────────……!!!』
地を食い破り綺麗な顔を出現させた巨大蟲が、形容し難い咆哮を撒き散らした。
◇◆◇◆◇
アルカディアにおける『レイド』という呼称は、システムが用意したものではなくプレイヤー側が〝基準〟を設けて呼び始めた判定通称である。
六人の通常パーティを三連結させた十八人編成。六連結させた三十六人編成。
そして、上限のない無制限連結編成。人数の区切りはダンジョン等の特殊領域同時最大入場制限数が由来ではあるが、ゲーム側にレイドという呼称はなかった。
つまり、本来エネミーにも同様の区分は、少なくとも明確には用意されていない。ハーフレイドボスだのレイドボスだのオーバーレイドボスだのといった判定は、ほぼ全てにおいてプレイヤー側が下している自前の共通認識なのだ。
では、その判定基準とは如何なるモノか。
至極単純────少数では対処不能な能力あるいはギミックを有しているか否か。またはその強度によって、ハッキリとした格付けが成されている形。
ポピュラーなものでは、再生能力。
単一のパーティ火力では、とてもではないが削り切ることが不可能に思える化物的な不死性。ただただ硬くて倒すのが大変ではなく、努力を無慈悲にも無かったことにしてしまう性質が多くの場合、少数攻略不能存在の箔を押される要因だ。
そう、たとえば……────【渦に棲まう竜喰蟲】のような。
「ぅーわ、こっわ。きもちわる…………」
「お、大きい、ですね……わぁ…………」
誰かさんが『どこかの誰かさん』を彷彿とさせる超速全力疾走にて先行した後、一分弱。職人の耐久力が堪え得る速度で後に続き、追い付いてきた二人組。
天使に抱えられた妖精および妖精を抱えた天使は到着と同時。岩山にポッカリと空いた窪地内部を覗き込んでは、その領域を支配する『主』の異形に慄いた。
ミミズというより、最早『蛇』や『竜』の様。
鱗や甲殻は見当たらないまでも柔らかそうには思えない砂色の長胴は、地中と地上を行き来しつつ晒されている部分だけでは判然としないものの……少なくとも、五十メートルは下らないだろう。総質量など全く想像が付かない巨躯だ。
ただし、そんな肉々しい強靭な体躯を示してなお『蟲』としか称せない頭部の造形。ただでさえ凶悪なフォルムデザインと名高き『アリジゴク』を、より凶悪に、より悪辣にしましたと言わんばかりのソレが丸ごと『ミミズ』と地獄の合体。
完全に、モンスターパニックホラーに登場する空想怪物の様相である。
……然して、けれど、阿鼻叫喚を定番とする映画と異なる点は────
「そんで姫よ。無敵かな?」
「一歩も動いてないですね……」
言わずもがな。恐怖を『剣』にて蹴散らす【剣ノ女王】の威容である。
【渦に棲まう竜喰蟲】が暴れ狂うほどに広がっていく、流砂の罠その中心。本来は主こそ居座っていて然りの位置に悠々と構え『剣』を振るい、次々と襲い来る〝頭〟を斬り飛ばし吹き飛ばし消し飛ばし続けるアイリスは……スンと無表情。
緊張感の欠片もない。
傍から場面を目撃したニアが「きもちわるい」などと暢気な感想を零し、ソラが『加勢した方がいいのかな……』と戸惑いの思考を浮かべたのが、その証左。
────とはいえ、
「ぁ。こっち見た。……行ってくる?」
「あ、はは……行ってきます」
【剣ノ女王】をして負けることはないが、埒が明かない状況に押し留められてしまうこともある。それが『レイドボス』と名の付く怪物が持つ異常性だ。
重ねて、緊張感はない。最早、危機も失せているのだろう。
しかしアイリスはともかくとして。その手に捕まえられながら今なお顔を青くしている『要救助者』は、一刻も早い安寧を欲しているに違いないから。
「っ、《剣の円環》────」
飛び込み一閃……もとい、百閃。
「《地轟百塔》ッ!」
巨大砂塵の連塔が、怪物の悲劇その第二陣として降り注いだ。
【渦に棲まう竜喰蟲】
攻略適正レベル:100
攻略適正人数 :ハーフレイド 12人~(18人推奨)
推奨構成 :前衛偏重(盾6火力6など攻守前衛ペアが組めると尚ヨシ)
弱点部位 :本体
有効属性 :地属性(重質量実体系、地形操作系※)
特記事項:魔法耐性が高い上に後衛を入れると護衛難易度が激高になり全体的にクソ化するため魔法士参戦は基本キツイ。なお戦士もキツイ。特にコレといった鉄板解法があるわけでもないので各々が気合い入れてモグラ叩きを頑張るしかない。
クソボス。
【竜喰蟲の核宝石】はアクセ素材としてメチャ優秀なのでドロップしたら美味い。
なおレア素材なので出ない。【竜喰蟲の核壊石】はハズレのゴミにつき注意。
肉は不味い。総評クソボス。
※周辺環境が『岩場』なので土属性は厳しい。要〝地〟属性。




