普通と特別
「────うーん……慣れてきちゃってる自分がいる」
斯くして、喧騒過ぎ去り訪れた静寂の中。
跡形もないと評するべきだろう破壊の限りを尽くされた場を安全地帯より改めて眺め、いまだ残存する『炎』の熱波に目を細めるニアが呟いた。
ソラの放った金焔の巨塔が空けた大穴へアイリスが飛び込み、地下から更なる撃光が上って数秒。隠密を継続して戦闘不参加といはいえど、パーティ員との情報共有によりニアの視界にも表示されていた戦闘状態を示すUI諸々は────
当然と言うべきか、悉く消失済み。つまるところ、
「ま、置いといて……────大丈夫? ほらほら終わったよ、もう安心安心」
状況は終了。怪物は退けられ、もとい哀れに思えるほど……それこそ、跡形もなく退治された。ゆえに危機は去ったと隣へ告げる。
然らば、
「………………………………へ、ぇ……???」
「ぁー……はは、そだよねソレが一般人だよねぇ。見習え自認一般人ぃ……」
でっかい虫に最後の一撃を見舞いに行く直前。ソラの一撃から退避すると共にアイリスが置いていった女性プレイヤーは、甚だ思考が追い付いていないらしく。
擦れた声音を零しながら無限に目をパチパチしている様子を見て、ニアが順調に壊れている己が認識を密かに嘆いた……──そんなタイミング。
「……っと、ねね」
「は、はい……?」
十数秒前から感知スキルが捉えていた気配が近付くのを感じると共に、耳へ届き始める足音複数────まあ、当然の流れと言えよう。
『姫』が介入を決めた時点でソラと共に了解していたことである。ゆえに溜息をつくなど今更と、ニアが再び女性に声を掛けつつ振り返れば……。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、締めて五つ。
異常と称すのも生温い過剰異常の大騒ぎを聞きつけて、泡を食うような勢いで飛んできたのだろう。男性が四の女性が一、無事到着。
五人分の視線は、まず救助された女性へ向かった後に安堵の色を見せてから、
「お仲間さん、で合ってる?」
その隣に立つ【藍玉の妖精】────関わるのであればと割り切ったニアが隠密を掃えば自然、晒された藍色の瞳へと全てが吸い寄せられて……。
「ッッッ……ちょ、っと…………────ネネさん!!?」
「マジなにしてんすか???」
「どんだけ幸運なのあやかりたい」
「不運かつ爆運なドジっ子だったか……いいね」
「に、ぇっ、ニアちゃ……ぇ、え゛ッッッ本゛物゛ッ゛…………!!!!!」
当然とばかり、勢いよく幕を開けた騒ぎを前に。
「ぁははー」
自認一般人こと名高き妖精は、とりあえず営業スマイルを顔に貼り付けた。
◇◆◇◆◇
────斯くして、数分後。
「誠に……まっこと、に、大変ご迷惑をお掛けしまして申し訳なく…………」
「まーまー、まままー、無事でよかったってことでね」
「無事どころの騒ぎじゃないでしょ。もう逆に万歳でしょ」
「それな」「ねぇ」「なぁ」
大ドジ、からの忽然消失。からのテンパった末にNG行動へ走った挙句メッセージ途絶。そんな手本の如き悲劇の連鎖を受けて必死に駆けていたという仲間たちとの再会を果たし、女性────【寧寧】が一応の落ち着きを取り戻して暫く。
主諸共に半ば吹き飛ばされた岩山地帯中心部。即ち次なる【渦に棲まう竜喰蟲】が誕生するまでの数日間は静けさが約束された安全地帯にて、
「うぅ…………っ、ぁ、あの、本当に……」
「いえ、そのっ」
「気にしなくていい。あなたも怖かったでしょう」
「ですっ。間に合って、良かったです」
「や゛さ゛し゛ぃ゛…………!」
三人娘と六人パーティは並び、軽い交流を交わしていた。
勿論、辻勇者────サラッと助けてサラッと去る、時に極まって英雄的あるいは場合によってノーマナー行為にも成り得る立ち回りとて選択肢には在った。
けれども、助けられてから延々と恐怖からの開放感ゆえか申し訳なさゆえかメソメソしている女性、そして彼女の臨時パーティ面々が人の良さそうな……。
アルカディアのプレイヤーである時点で一定の人格は元より保証されているのだが、とりわけ良識と善意を持ち合わせている『お人好し』のカテゴリと見抜けたがゆえ。問題ナシと判断しての居座り択。
三人娘、三者三様。
それぞれの備えた人を見る目が下した、問題ナシである。
────とはいえ、
「ふぐぅ…………しゅごい……きれい、かわいい……やヴぁい…………」
「「「「「…………………………」」」」」
システムが用意する過剰な涙と共にバグを来しているネネは置いておくとして、他五人。如何に推定人格者と言えども、その理性と胆力にも限度がある。
────いろいろと、お喋りしてみたい。
────この機会、みすみす逃して良きものか。
────どこまでの歩み寄りならば、許されるものか……などなど、
まあ、人ならば当然。仮想世界に住む者であれば、なおのこと然り。責められるべきではないだろう欲求を各々で滲ませる五人の様子を……流石に、そこまでを自分の立場と絡めて深く深く見透かしたのは、歴戦の姫君だけであったが。
「…………ん、そうね。とりあえず」
やはり、自然なソレと比べれば少々下手ながら。それだけで十二分とヒトを魅了する微笑を浮かべて見せた、他ならぬ【剣ノ女王】の振る舞いが答え。
答えにして、立場を正しく自覚している者の、真摯で正当な上からの赦し。
つまるところ、
「…………素材の処理。手伝ってもらっても、いいかしら?」
交流をヨシとする旨を示す言動。
然らば、周囲に散らばっている山のような『素材』……【渦に棲まう竜喰蟲】の討伐達成パーティとして認められたアイリス、ソラ、ニアの三人ともが、インベントリを山ほどの〝お菓子〟で満たしていたがため、ぶちまけられた容量超過物。
ハーフレイドボス討伐の報酬に相応しい、これまた山程の戦利品を眺めながら、アイリスが努めて優しげな声音で頼ると同時。
「「「「「ッッッ────ハイ喜んでぇ!!!!!」」」」」
場に生じるのは、忠実なる家来が五名。やり取りの脇で金色と藍色が密かに苦笑いを零していたのは言うまでもなく……もう一人、ついていけていない者は、
「お邪魔でなければ自分もぉ゛……!」
現実なら既にミイラ化しているだろうと思しき、滂沱の涙を流し続けていた。
ネネちゃん以外の五人も詳細設定あるんですけど、おそらく多数の方がパンクすると思うので描写は省く方向でいきます。言動の癖から自由に想像しなされ。




