三人娘疾走中
いろんな意味で高カロリーという言葉が似合う【お菓子の楽城】であったが、仮想世界に在って真実ゼロカロリーの甘味は乙女の重石になり得ない。
然らば、食休みの必要もなく。無限に『────っ! ────っ!』と……おそらくは『もう一回っ! もう一回っ!』と駄々を捏ねる困った王菓子と再来訪の約束を交わした後、スイーツバイキングから退店した三人娘は────
「ハルが恋しい」
「わかるわぁ」
「………………今に限っては、移動手段として言ってますよね二人とも」
神創庭園中央第一拠点【セーフエリア】の西部にある楽城から、更に西行継続。第二の目的地を【鍵樹街】と定め、果てなく延々と地上を駆けていた。
勿論、約一名は被お姫様抱っこにて荷物役を遂行中……──王子様役の『お姫様』が最近ヒト運搬スキルを取得したことで快適性が向上したのも理由だろうが、それよりなにより強制的に積まされてきた経験値の顕れだろう。
「せめてサファイアちゃんの出張レンタルとかできたらねぇ」
「そうね。空を飛べるって、やっぱりズルい」
「空飛ぶ【星屑獣】の調伏に挑戦する前提条件が『空を飛べること』なの、やっぱ基本スタンスとしてはプレイヤー側の飛行NGってことなのかなー」
「間違いない。そして、その理由がハルそのものなんでしょう」
「あっは、ゲーム壊れちゃうかぁ」
全くもってトップスピードには程遠いものの、あくまでソレは【剣ノ女王】にとっての無理なき走行。実際問題のんびり歩いてなどいたら、約五百キロもの道程を『ちょっと遊びに行こう』くらいの感覚で踏破できるはずもない。
それゆえアイリスは普通に時速三百キロ程度、起伏や障害物の存在しない平原であれば五百キロ近くの速度で駆けているのだが────これ、この通り。
憐れむべきか賞賛すべきか、藍色娘は超高速機動下へ身を置くことに慣れていた。平然と談笑に興じる様は『音速以下であれば余裕』と言わんばかりである。
「────それでも、以前より大分……ずっと、楽になった」
と、ゆうて運ばれているだけに過ぎない謎ドヤ妖精は置いておき。
「それ、は……アイリスさんの場合、かなり特殊なケースだと思います、けど」
「ソラに言われたくない」
「わた、……は、はい。あの、私も相当、特殊ですけど」
どこかの現最速こと誰かさん、および元最速の地図屋には遠く及ばない速度ながら、時速三百から五百キロ……即ち単純AGI換算300から500程度の疾走維持。
かつてはソレを『無理』と断じた【剣ノ女王】が、既に三十分近く転ばず疲れず走り続けていることこそ仮想世界新時代の顕れである。
────アイリスがツンと言い返した通り。その横へ雷光を散らしながらピタリと遅れず並び、瞬き駆けている例外中の例外は……やはり置いておくとしてだ。
「アイリスさん、レベルおいくつでしたっけ……?」
「157」
「……『竝枝界拓』のセンス、いくつ取ってます?」
「たくさん」
それが全ての答え。『できなかったことをできるようになった』が一斉に溢れ出して止まらないのが、今現在のアルカディアであるからして。
「あまりハッキリと身体操作系に絡んでくるモノは、私も最初どうかと思っていたのだけれど……これ、『AGI』ツリーの《廻走》はオススメ。上手く言えないけれど、邪魔なアシスト感を全く感じない。感じないのに走れてる。純粋に便利」
「は、はぁ……ちなみに、何段階目のセンスですか?」
「ん…………………………十三、段階?」
「私には遠い道のりですね……」
確かに全プレイヤー中でも推定トップと言われている157レベルさんは特殊枠であるものの。『緑繋』攻略以前と以後で……それはもう劇的という言葉では足りない程度に、仮想世界の環境は激変したというのが事実である。
そんな激変事例の最たるものこそ、速度基準の底上げ。
思考補助系あるいは身体操作補助系のセンスが齎されたことにより、ほぼ全てのプレイヤーが各々の『速度域』を大幅に引き上げたとされている。
つまり極端な例ではあるが、多くの者がコレこんな感じ。
大なり小なり……否、例外なく大きくスペックアップした現状ということだ。
────とはいえ、置いておかれたものを拾い上げれば。
「ん…………いや、もう、うん。ソラはそのままでいい」
横目を向けたアイリスが思わず溜息を零したのも、然り。
「ぇ、あ、そ、その……」
センスだの何だの、ほぼほぼ関係ナシ。
それは、確かにノリノリで全力全開渾身の限りを籠めたのは己だが、ここまで可笑しなことになるとは思っていませんでしたとばかり。異常の限りを極める魂依器とソレを十全に従える才を以って、甚だ呆れ返るような十足跳びの躍進を……。
それこそ、誰かさんのパートナーとして似合い過ぎて悔しくなってしまうような成長速度を────いや、成長どころか進化を見せ付け続ける少女へ。
「ソラ」
「はい……?」
「今度、私と本気で試合してみる?」
「へぁぇっ!?」
本気半分冗談半分の丸ごと好奇心で『手合わせ』を打診してみれば、バチン。
思わぬ不意打ちで集中を乱したのだろう。身に纏う雷光……────その極小サイズと眩い光の併せ技により、目視困難な無数の魔剣が制御喪失。
つまるところ雷の波に乗ることで超高速機動を実現していた少女の身体は、慣性そのまま宙へと遊び勢いよく地面へ……飛び込む、ことはなく。
「……っ、…………ふふ、冗談。まだまだハルのようにはいかないみたいね」
パッと、それこそソラの〝雷〟に勝るとも劣らない稲妻の如き挙動。寄り添い伸ばされたアイリスの片手は、取り零すことなく小さな手を捕まえて────
「じょ、ビッ……! ご、ごめんなさい待っ一旦スト、止まッぁわあぁあ!!?」
「ちょちょちょ何してん片手は怖い流石に片手ハグは姫ちょバカバカぁッ!!!」
即ち、両手に華。
「ん……これはちょっと、難題」
斯くして、突発危機継続中。
止まれと言われても、この速度域で両手にヒトを抱えながら上手く制動するには……はて、如何なる体捌きを以ってすれば安全に事を成せるものかと。
これは自分も、まだまだ誰かさんのようにはいかないなと。アイリスが二人を鯉のぼりのようにしながら、澄ました無表情で頭を捻る暫くの間。
「ひぁああぁぁあぁああぁぁぁぁああぁぁぁぁあッッッ!!?!?」
「んぎゃぁああぁぁああぁぁぁあぁあぁあぁぁぁッッッ!?!!?」
乙女およびギリ乙女(?)の可憐な悲鳴が、寂しい荒野を彩ったという。
なお、ソラさんを空に一旦「えい」した後に急ブレーキにて停止&ニアちゃん「ぽい」から全力ダッシュでソラさんキャッチの流れで事なきを得た。
事なきを得た?
事なきを得たな。




