お菓子の可笑しな茶会にて
────斯くして、蹂躙完了より数分の後。
「いやぁ、初めて見たけど凄かったねぇ四本目」
「ん」
「んでそこ姫がドヤるんかい」
「あ、はは……」
三人娘は、いまだダンジョンの中。つい先ほど王を討った楽城最奥の大広間にて、丁重に用意された甘い甘い茶会の席に納まり平和な談笑に興じていた。
そのものもビスケットで作られた巨大なラウンドテーブル。ほんのりと座るのが憚られないこともない椅子は低反発素材めいた柔らかさのマジパン製。そして卓上に広がるのは、思い付く限りを載せましたと言わんばかり多様なスイーツの数々。
添えられた飲み物も当然のように限界甘々仕様────と、人によっては見るだけで過剰な満足感を得られてしまうであろう、やりたい放題の席である。
つまるところ、遍く乙女が一度は夢に見るであろう幻想の最中。
「ふふ、私が籠めた」
「そんな『私が育てた』みたいに言われましても────ぁ、ありがとーぅ」
お喋りを楽しむ元挑戦者にして客人を甲斐甲斐しく持て成すのは、お菓子たち。
仮想世界で口にする食物あるいは飲料には、星空イベント時の特別仕様期間などを除いて『食事感』が存在しない。そしてそれゆえ、裏を返せば『飽き』や『くどさ』をも感じづらいという仄かなプラスの側面も持っている。
これが、ある意味で甘味食べ放題と極めて相性が良い。
普通なら一杯で満足できよう激甘ホットチョコレートを飲み干したニアが、わーいとキャンディの兵士から罪悪感もゼロに〝おかわり〟を注いでもらっているのが……元から甘党ゆえ証拠になるかは怪しいものの、一般的な認識も同様だ。
それに加えて、
足元を楽しげに駆け回る、リコリスの番犬。盛り上げるための気遣いか単に自分たちが楽しいからか、愉快にクルクルと踊り回る綿菓子の妖精。
そして様々な菓子製楽器を手に取り、楽しげな背景音楽を奏でる王様親衛隊のチョコレート兵たち……と、スイーツ山盛り嬉しいなどころではない非現実空間。
何から何まで絵本のような世界観が、客人から緊張と遠慮を攫っていく。
題して、ご褒美タイム。
『王』ルートあるいは『女王』ルートどちらを引き当てるかに関わらず、グッドエンド攻略後に開催される『お菓子の可笑しな〝おもてなし〟』────
ここ【お菓子の楽城】が尽きぬ人気を博した、何よりの要因と言えよう。
然して、
「結局、どういう経緯で姫が四本目担当したんだっけ?」
歓待を受けるか否かは任意選択。受けるのであれば心ゆくまで好きなまで。疲れ知らず飽き知らずな菓子たちの止むことはない宴を楽しみながら、同じく尽きることなく饗される甘味天国を供に延々お喋りに興じるのが楽城を愛する者の常。
ならばと伝統に倣いながら、会話は聞いているものの少々忙しくしており相槌が精々の天使を一旦置いて、無限お喋りを担当するのは妖精と姫君。
「ん、四本目は〝雷〟が良さそう……という話は、階梯が上がる前からしていて」
「ふんふん」
「私も相談を受けていたから、それを知っていて」
「はいはい」
「また双翼に頼むの? と聞いたら『はい』ってソラが言うから」
「うんうん」
「〝雷〟なら、ここにも適役がいるけれど────って、拗ねてみた」
「なにしてんすか【剣ノ女王】様」
「独り占めなんて、ズルいもの」
「独り占めというか二人占めというか……」
と、そんなこんな。
悪びれもせず恥ずかしげもなく実に大人げないエピソードを語りつつ、まさしく姫かといった所作でケーキをパクつくアイリスから視線をシフト。
ソラの方へチラリとニアが目を向けてみれば、
「……っ、えと、まあ、その…………えへ」
やはり忙しそうな少女は、困った風にしながらも満更ではない表情で曖昧に笑った。どうやら取り合いをされるのは嫌ではないらしい。
わかっていたことだが、慎ましやかだけではないところも魅力である。
「まあ、本人たちがいいなら……んで、本人たちといえばミナリナちゃんたちは? わがまま言った姫に譲ってくれた感じ?」
などと、ほっこりしつつ視線を戻して問いを続ければ────
「いいえ、正々堂々と決闘した」
「なにしてんの???」
そんな少女の年上二十歳が、この有様である。これはこれで死ぬほど魅力的だと頷けてしまうのが無限に罪、転がされる世界と自分に対してニアは黙祷を捧げた。
「あの、ちがっ、決闘ですっ……! 最初はグー……!」
「ミィナに不意打ちを仕掛けてパーで勝った」
「うわ大人げねぇ」
とはいえ、アイリスはアイリスでミナリナはミナリナ。双方共に癖は在れど根本の部分ではニアが知る上澄みアルカディアンの中でも道徳的人類の枠である。
なんのかんの言いつつも互いに納得しての結果なのだろう。そう適当に解釈して、ドン引きのツッコミは程々にミルフィーユをパリパリもぐもぐ────
「以前から仲良しとは言い難い関係だったけれど、晴れて〝宿敵〟に認定された」
「いや和解してないんかいっ!」
が、もぐもぐ後に行儀よく呑み込んでから、結局のところツッコミを引き出されてしまう。天然ボケならぬ我が道を往くゆえの結果的ボケムーブ。
つまるところ、いつものことだ。
「ふふ……未来が楽しみ、ね」
「戦闘狂お姫様め……────まあ、ダメ姫エピは一旦さておき」
「……ダメ姫、エピソード?」
いつものことなので、適当にハイハイ可愛い可愛いと投げやりに愛でて仕舞い。不服そうに無表情を僅かばかり崩すアイリスは宣言通り置いておき……。
「ソラちゃん、だいじょぶ?」
再び視線と意識を移しながら声を掛けるのは、もうずっと忙しそうな少女の方。
さて、一体なにを忙しくしていらっしゃるのか。そんなもの────
「ぇ、あ、あの、は、はい……その────」
『────、──っ! ──────!』
「ご、ごめんなさっ……! えと、その…………──はい。チェック……です」
『────っ!!? ────!!!』
これ、この通り。
もう、ずッッッッッッッッッッと、王様の遊び相手をさせられているから。
それはそのもの、先程ソラが二重の意味で粉微塵に打ち砕いた【テルパドーレ・キング・ショコラティエ】……の、ミニチュアライズされた一口サイズ。
掌に乗せられるほど小さくなってしまった王様は、やはり先程までの彼同様に極まった負けず嫌い────それはそう、同一人物ならぬ同一菓子なのだから。
【お菓子の楽城】に棲まう愉快な者たち。それは甘い身体に宿る精神魔法生命。
つまるところ菓子を失うことは彼らにとって死でも消失でも終わりでもなく、材料さえあれば何度でも甦る……即ち尽きぬ材料が在る『城』に在って、ほぼ不滅の存在であるということあるらしい。ファンタジーここに極まれり、だ。
打ち砕くのに、罪悪感を感じなくて良い。これも楽城が親しまれる理由だろう。
────斯くして、
『────! ────っ!』
「も、もう一回……? え、と────っは、はい! 大丈夫です! お相手しますからっ……! 落ち着いてください、あの、王様っ……!」
「懐かれちゃった」
「懐かれちゃったねぇ」
少女と小菓子の戯れによる賑やかも加えて、茶会は穏やかに長々と。
全員が満足するのは一体いつになることやらといった具合……甘い香りと楽しげな音楽に彩られて、結局それから一時間以上も続いていった。
◇特殊称号を獲得しました◇
・『可笑しな王菓子のオトモダチ』
効果:【テルパドーレ・キング・ショコラティエ】に友人として記憶される。
またいつでも遊びに来たまえ、我が親愛なる好敵手よ。




