天使と菓子の舞踏会
【お菓子の楽城】特有。いまだ解読が成されておらず言語かも定かではない謎音階、所謂『お菓子語』による怒声を高らかに叫んだ〝王〟に気圧されて一歩。
思わず後退った少女は……しかし、
「あ、あの! ────いいんですよねっ!?」
あくまでも思わずの反射的な一歩に後退を留め、振り返ると是非を問うた。その確認が意味するものは、攻略者として言わずもがな。
「勿論」
「やっちゃえソラちゃーん!」
「っ……はい!」
果たしてアレは倒して良いモノかと、それ以外に在りはしない。
然らば、開戦。
癇癪と共に砂糖菓子の玉座を蹴倒して立ち上がった王。そして平時の信頼が成せる業か否か、どことなく溜息をついていそうな気配を漂わせつつも強制を要さずして戦闘態勢……ゲームではなく、真に〝戦〟へ臨む構えを取る元駒役たち。
ポーン、ルーク、ビショップ、ナイト、クイーン、そしてキング……の、代役を演じていたと思しき【テルパドーレ・キング・ショコラティエ】の影武者。
六種十六体が、白黒二面。そこは王を圧倒する指揮を見せ付けた勝利者に対する敬意の顕れか、ほんのり白駒は殊更に申し訳なさげな雰囲気……だが、
やはり〝王〟は厚く信を集めているらしい。女王に対するように反旗を翻すことはなく、キッチリ三十二体が勢揃いとなって挑戦者の前に立ちはだかった。
チョコレートで形作られたポップでファンタジーでスイートな兵士たち……とはいえ、流石は王の親衛隊と言うべきか他の兵士とは放たれる情報圧が違う。
一体一体が二メートルを超える大柄ということも相まって、取り囲まれたならば受けるプレッシャーは馬鹿にできないほど並々ならぬモノである────と、
「……では」
相棒と同じことを言うようだが、基本的な感性は普通寄り。思考基盤的には自他共に認める常識人である少女は、身を置く状況を正しく認識しつつ……。
「いきますっ……‼︎」
今に至っては、世界が認める仮想世界アルカディア最高位。
東陣営イスティア序列第三位【星架】の相棒として相応しく在りたいと頑張る少女は、退くなどという選択肢は無いものとして当然のように前進した。
斯くして一歩、踏み出すと同時。
『────────────、ッ』
親衛隊総員三十二体が六十四個と相成り、王の怒声が困惑に途切れる。
そして、
「《雷剣の円環》」
眩い軌跡を描いて迸った閃光を追い、菓子の王が振り向けば────
「《纏雷唯華》……!」
瞬く間。背後に在ったのは、紫紺に輝く雷の大剣を手にした金色の風。
────パチリ、少女が身に纏う雷から放たれるは先行放電。その輝く糸が菓子の肌を突くと同時、異なる意味で立て続けに無様を晒した王の空気が変わる。
即ち……愚かな王より強き王へ。
瞬間、
「ふッ……‼︎」
『────ッ!』
二つの気勢、瞬く閃光、そして打ち上がるは戟の音。
まさしく雷光と化して迸ったソラの振るった大剣の刃。迎え撃ったのは『お菓子の王剣』こと、どこからともなくテルパドーレの手中に現れたパレットナイフ。
ふざけているというか〝おふざけ〟な絵面だが、アルカディアのボスエネミーが持つという時点で十中八九なまくらでも飾りでもありはしない。
躊躇いも容赦もナシに放たれた剣閃に急所を狙われてもなお、その頭上に出現したHPバーが欠けていないのが証左────そして、それは同時に、
この菓子の王が比較的低難度ダンジョンのボスとはいえど確かに『アルカディアのボスエネミー』であるという証左でもある。つまるところ、
『「──────、」』
二度の交錯を経て、仕切り直し。雷速と見紛う瞬く間の往復を経て元の位置へ戻った少女が、ニコニコ笑顔へ器用に戦慄の色を差した〝王〟に対して……。
「〝属性装填〟」
『天秤の乙女』が、ギアを定める。その指標となってしまったことを意味する。
数えて二度、眩い軌跡を描いた雷の大剣が宣言と共に消失。けれども失せた魔の行く先は、変わらず華奢な少女の両手その最中。然らば────
白を基調とした乙女のオペラグローブに〝力〟が宿り、
淑々たる少女の手足に顕現するは、戦衣と調和する繊細な手甲脚甲。
始まるのは、
「《剣の円環》」
ここまでの数秒と同じか、それ以上の、
「《千剣の一つ》」
少女単身による、ソロ舞踏。
────迸る三度目の雷光。そして、
『──、ッ──────、────ッ……ッッッ!?』
いつまでも光り瞬くまま終わらぬ三度目。大広間な空間内を所狭しと駆け巡る紫紺の光、雷に運ばれて舞い踊る千砂塵の剣、強制的に踊らされる王の悲鳴。
焼菓子の手から零れたパレットナイフが余波に弾かれ、彼方へ飛ぶ。
千々に散るチョコレートの外套が雷光に灼かれ、焦げては燐光と消えていく。
クッキーの身体も、飴玉の関節も……脆いように見えて、その実『並の戦士は絶対にタイマンで打ち合うな』と言われる程度のフィジカルを備えた菓子の王は、
哀れなほどに、成す術なく。
戦闘……もとい、蹂躙開始より十秒フラット。
「ッ────ごめんなさいっ……‼︎」
一際に強く瞬いた雷光の下。
数え切れない剣閃の果てに奔り抜けた必殺に穿たれ、粉微塵に砕け散った。
かわいそうだけど魔王様に喧嘩売るから悪いんだぞ。
なおこのテルパドーレ君。実は特殊な固有スキルを持っていたりで、真正面から一対一なら覚醒ハヤガケ氏を一方的にボコボコにできる程度の力量はあるそうです。
だからどうした。




