進捗良好、地獄行き
────イベント二日目、夕方。
「………………いい感じ、だったと思うけど……どうだ?」
俺は区切りの付いた作業の果て、今日も今日とて当たり前のように膝上を占領した相方へ問うた。然らば、振り返った頭は……小さく、コクリ。
「これなら、しっかりエンターテイメント」
「………………そっ」
頷きと共に、そのものエンタメの極致とも言えるであろう身分こと、トップアイドル様から明確な肯定の言葉を頂戴して────
「っっっ……………………かぁ……! っしゃぁ……‼︎」
「っ、わ、とっ」
俺はリィナの背凭れ事情に気を回す余裕もなく、喝采を上げて床へと倒れた。
背中を強かに打ったがダメージなどない気にするな。なんならバランスを崩した妹爆弾が鳩尾に降り注いでも耐えてみせよう掛かってこい(?)。
そんくらいの達成感だ。いやはや、とりあえず一区切り、やり遂げた……。
「おつかれさまぁ」
「ぉー……」
と、降ってきたのは妹の頭でも背中でも肘でもなく、暇に違いなかろうに一日中じっっっっっと傍で『ご一緒』していたニアの労いの言葉。
プラス、ぺふぺふと頭を叩き撫でる華奢な指を受け入れながら。
「……完全に、まとまったな。残りの要所も全部この感じで収録しよう」
「うん」
『緑繋』攻略第二幕。例の限界強制スクロール鬼ごっこ活劇は別枠として……ようやく第一の見せ場こと【勇者】の試練、その本収録を終えたところ。
時間は掛かったが明確な成果を得て、俺はフワフワと浮ついていた。
────イベント期間を半分消費して、やっとそんだけ。それは確かな事実であると共に、完成を見たという点で確かな勝利宣言でもあるのだ。
なぜって、俺は忘れないから。
どんなことであろうとも、一度でも成功を成してしまえば、仮想世界において俺の〝経験〟は反復練習を要さず仮想脳に『記憶』され〝技術〟と化す。
つまるところ、こっから先どのシーンの収録に挑もうと勝ち確ってなわけで。
「残るは【賢者】【聖女】【王帝】の試練とラスボスお手玉で四シーン……あとはシーン転換部分でネタ的に挟む鬼ごっこ風景を適当な数だけ撮っとけば……!」
「お務め、完了?」
「少なくとも、体裁は保てるレベルになるだろ。そっからは我がフォローチームの編集でブラッシュアップされれば完璧……と、思いたい。うん、完璧だ」
「おー」
首を傾げたリィナに返しつつ、基本的に作業自体にはあまり興味がない様子のニアから適当な相槌を頂戴しつつ。どうなることやらと始める前は思っていた『お務め』が無事に終わりそうな気配に、ぶっちゃけ心底ほっとしていた。
こう見えて────というか、序列持ちに就任して自身の能力を自覚して以降。
無意識に『記憶』の才能に頼ってしまう俺の弱点分野は、他ならぬ未経験事象全般。魔工然り、覚えを頼りにできない初見物に苦手意識を持つようになっている。
立場と男子を鑑みて、表に出してはいないけどな……と。
「ってわけで、今日はここまで……明日も頼むわぁ…………」
「了解」
それはそれとして、達成感と共に無視できない疲労感。
進捗順調は籠めているモノがあればこそ。気を抜き過ぎず明日三日目、そして最終日四日目も作業に臨むべきだろう。了解なんて当然のように返事を寄越して、大事な時期の貴重な時間を渡してくれている自しょ……妹様に報いるためにも。
それと、
「癒し要因も一緒しますよぉー」
「おう、いくらでも一緒してくれ」
「ねぇツッコミなしで受け止められると恥ずかしいやつです。でした」
自称だけではない癒し要因となってくれている、ニアに格好良いところを見せるためにも。────いやほんと、冗談ではなく非自称。
ちょいちょい仮想世界の仮想体ゆえ完全に無意味なのだけども肩揉みとかしてくれるの、確かに身体的には無意味だけど非常に精神の助けになっている。
好きな女の子が自発的かつ健気に引っ付いてきてくれるとか、そんなもん遍く男子にとって例外なき極大支援バフに決まってんだろ心より御礼申し上げます。
ともあれ、そういうことで。
割かし確実と言える作業見通しが経った今、俺も空いた時間は真にイベントを楽しむ方向へ気持ちをシフトできるだろう。誠に結構、結構だ……────
────なんて、床に転がるまま気楽なことを考えていた俺は、まさしく至極お気楽だったとしか言いようがない。それは、ある種の思い上がりが招いた悲劇。
『お務め』だなんだと自分が責任ある立場として成すべきこと、その最前列ばかりを見つめていたからこそ、考えが回らなかった主線の裏側。
それ即ち……。
「そっかそっかぁ。順調、順調、おそらくもう問題ナシ……──って、ことは?」
「うん」
それ、即ち。
「………………? ぇ、なに。なんすか」
俺以外が俺に向ける視線および思惑に一切、気付く余裕のないままで。逃げられぬ運命へと、しッッッッッかと身体を浸していたのだという事実が……。
回避不能も甚だしい今、顔を出す────然して、
「「──────……」」
献身的な労わり顔をニヤニヤ顔へとシフトしたニアちゃん。および、いつもの無気力顔に仄かな悪戯色を映した駄妹。二人に真上より見下ろされながら、
「な…………………………………………………………なん、すか」
第五回、星空イベント二日目の夜。
比喩なく比類なき俺史上最大の地獄が、幕を開ける。
祭りの始まりだぜ。




