第4話:過保護な家族と、王子の宣戦布告
(重い重い重い!! 殿下の執着が重すぎて胃が痛い!!)
耳元で囁かれた激重ヤンデレ台詞に、私の心臓はバックバクだった。
だが、私がパニックで固まっている暇など与えないとばかりに、後ろから凄まじい地鳴りが響き渡る。
「おいコラ第二王子!! 我が家の天使の耳元で何コソコソ話してやがる!!」
「リリィから離れろ!! 貴様がどれだけ王族だろうが、俺の拳が黙っちゃいないぞ!!」
ガタタッ!! と床が鳴り、熊のような父バルドゥールと、シスコン全開の兄サイラスが怒髪天を突く勢いで割り込んできた。
二人とも丸太のような腕の筋肉をピキピキと怒らせ、レオン王子を威圧している。
(ナイスタイミングお父様! お兄様! そのまま王子を遠ざけて――!)
「お二人とも、夜会の場でそのような立ち振る舞いは見苦しいですよ」
しかし、レオン王子は眉ひとつ動かさなかった。
流れるような銀髪を揺らし、氷のように冷ややかな笑みを浮かべたまま、静かに二人を見据える。
「それに……公爵。令嬢を気遣うのは結構ですが、僕と彼女の『大切な会話』を邪魔なさらないでいただけますか?」
「なぁッ!? た、大切な会話だと……!?」
「リリィ! こいつと一体何の話をしてたんだ!?」
バルドゥールパパとサイラスお兄様が目を見開く。
(違うの!! 大切な会話っていうか、一方的に追い詰められてただけなの!!)
「殿下、お戯れを……。わたくしと殿下は、本日が初対面でございますわ……」
私は必死で可憐なお辞儀を保ちつつ、プルプルと首を振った。
ここで認めたら最後、私の「可憐なお嬢様ライフ」が完全に終わってしまう。
だが、レオン王子は私の嘘など最初から織り込み済みといった様子で、ふっと艶やかな笑みを深めた。
「ふふ、構いませんよ。今はそうやってしらばっくれていらしてください」
スッと、レオン王子が私の目の前で優雅に片膝をついた。
周囲の貴族たちから「まあ!」「あの冷酷な第二王子殿下が……!?」と悲鳴のような歓声が上がる。
レオン王子は私の手を取り、その手背にそっと口づけを落とした。
冷たい唇の感触に、私の全身に電撃が走る。
「ですが、逃げられるとお思いですか? あなたがどれほど可憐におしとやかなフリをされようと無駄です。あの日、僕の命と心を奪っていった責任……しっかりと取っていただきますからね」
(責任!? 命助けてあげたのに責任取らされるの!? 意味が分からないんだけどーーー!?)
「なっ……! お前、リリィの手になんてことを……!!」
「ぶっ殺……ゲフン! 許さんぞ第二王子!!」
激怒したパパとお兄様が掴みかかろうとした瞬間――
「あなたたち、少し静かにしなさい」
ズーン……と、背後から凄まじい威圧感が放たれた。
上品に微笑む母ベアトリスが、扇子でポンポンと自分の手を叩いている。
「……ッ!? べ、ベアトリス……」
「母さん、でも……!」
「夜会の場です。ローズベル公爵家の品格を疑われますわよ?」
一瞬で沈黙する脳筋男二人。さすが我が家の真の支配者ベアトリスママ……!
けれど、ママのその目は「あらあら、面白いことになってきたわね」と言わんばかりに輝いていた。
(ママ!? たすけて!? 面白がらないで!!)
レオン王子は満足そうに立ち上がると、銀髪を軽く払って私を見下ろした。
「それでは、ローズベル公爵令嬢。またすぐにお会いしましょう。……逃げようなどと、無駄な抵抗はなさらないでくださいね?」
そう言い残すと、レオン王子は冷酷で美しい笑みを浮かべたまま、優雅に去っていったのだった。
(終わった……。私の平和な引きこもり筋トレライフが、完全に詰んだ……!!)
去っていく王子の美しい後ろ姿を見送りながら、私は絶望のあまり遠い目をするのだった。




