第28話:窓外の足止め劇と、二重の冷や汗
別荘の二階。日当たりの良いバルコニーの近くで、私は可憐なお嬢様らしくハーブティーを楽しんでいた。
昨夜の「極秘・魔獣退治」の疲れもなく(※筋肉痛すら起きていない)、村人たちからの感謝と絶大な信頼を手に入れた私は、まさに絶好調だった。
(ふふふ……完璧だわ。物理的距離もバッチリだし、村人たちも私の熱烈なファン。これでレオン王子が追ってきても、村人たちが私を守る壁になって――)
「――おい! そこの怪しい男! さっさと引き返しな!」
「そうだ! リリアーナ様のお屋敷に一歩でも近づいてみろ、このクワでお見舞いしてやるぞ!」
下の方から、聞き捨てならない怒号が聞こえてきた。
(えっ? なになに……? もうさっそく変なストーカーでも現れたの……?)
気になった私は、紅茶のカップをそっとテーブルに置き、カーテンの隙間からコソッと窓の外を覗き込んだ。
敷地の敷居手前。別荘へと続く一本道の入口で、村長さんを筆頭にクワや斧を構えた村人たちが十数人、人垣を作って一人の人物を取り囲んでいる。
そして、その取り囲まれている人物の姿を見た瞬間――。
「ブッフォ!?」
私は飲んでいたハーブティーを盛大に吹き出しそうになった。
(((((王 子 ーーーーーーーーー !?!?!?!?)))))
深めのマントでフードを被り、顔を隠そうとしてはいる。
だが、フードの隙間から覗く艶やかな銀髪! 浮世離れした圧倒的なオーラ! そして何より、あのサファイアのように煌めく瞳!!
間違いなく、レオン王子だ。
(な、なんで!? なんで公務で忙しいはずの王子がもうここにいるのよ!? 王都からここまで馬でどんなに急いでも数日はかかるはずでしょ!? どこでもドアでも使ったのーーー!?)
あまりの仕事の早さに私の背中を嫌な冷や汗が伝う。
しかし、よく観察してみると……なんだか様子がおかしかった。
「旅の者だと……!? 嘘をつけ! リリアーナ様はなぁ、歩くのもやっとなくらいお可憐で、儚くて、昨日も神のご加護で魔獣を追い払ってくださった女神様なんだぞ!」
「あんなに天使のようなお方をお前みたいな怪しい奴に近づかせるか!」
「引っ込め! 引っ込め!」
村人たちが口々にクワを突きつけ、激しい勢いで王子を罵倒している。
対するレオン王子は――。
(……っ、手が出せない……!?)
あの冷酷無比で知られ、やろうと思えば村人十数人くらい一瞬でねじ伏せられるはずのレオン王子が、なぜかめちゃくちゃ気まずそうに、そして困惑したように立ち尽くしているのだ。
(あ、そうか……!! 私が前回の『涙の罪悪感攻撃』で『これ以上ご迷惑をおかけしたくない』って泣いたからだ!!)
王子は私の体調やメンタルを気にして、「強引に押し掛けたらまたリリアーナに泣かれる」と危惧して忍んできたのだ。
だからこそ、ここで村人と大騒ぎを起こして私に存在がバレるのを極力避けたい。
その結果、手出しもできず、かといって退くこともできず、熱狂的な村人ファンクラブの壁を前に完封されているのである!
(ぶっ……!! く、くす……っ! あの完璧な王子が、村人たちの『リリアーナ様お守り隊』に不審者扱いされて冷や汗かいてる……!!)
思わず吹き出しそうになるのを、私は必死で口を押さえて耐えた。
自分の作った「可憐なお嬢様ブランディング」が、巡り巡って王子を完璧に足止めする防壁として機能しているのだ!
(よしっ! このまま村人たちに追い返してもらえれば、私の勝ち――)
高らかに勝利を確信しかけたその時。
風がふっと吹き抜け、レオン王子のフードがわずかに捲れ上がった。
そして――レオン王子のサファイア色の瞳が、ゆっくりと吸い寄せられるように、私が覗いていた二階の窓へと向けられたのだ。
(((((目が合ったーーーーーーーーー!!!!!!)))))
私の心臓が「ドキュン!」と跳ね上がった。
窓辺でフフッと笑いそうになっていた私の顔と、お忍びで足止めを喰らっていた王子の視線が、空中ではっきりと交差してしまったのだった。




