第27話:忍び寄る王子と、鉄壁の「リリアーナ様お守り隊」
王都から馬を限界まで飛ばし、長旅を終えた僕は、身分を隠すための深めのフード付きマントを深く羽織り、リリアーナのいる別荘近くの村へと足を踏み入れた。
(……悩みに悩んだが、やはり来ずにはいられなかった)
胸の奥が焼き尽くされるように熱い。
今すぐにでも屋敷へ踏み込んで彼女を強く抱きしめたい。だが、僕の脳裏にはあの日の悪夢――僕の過剰な愛に圧迫され、ボロボロと涙を零した彼女の儚い姿が鮮明に焼き付いている。
(ダメだ……僕が無理に姿を見せれば、彼女はまた罪悪感に押しつぶされ、傷ついてしまう。……だから、遠くからそっと、彼女が健やかに過ごしている姿を一口だけ盗み見る。それだけでいいんだ。彼女に気づかれずに、無事だけを確認して静かに去る……)
サファイア色の瞳を覗かせ、僕は気配を極限まで殺して、別荘へ続く山道へと足を向けた。
……はずだった。
「――おい、そこのあんた。見かけない顔だな」
別荘へと繋がる一本道の入口に差し掛かった瞬間、木陰からぞろぞろと男たちが現れ、僕の進行方向を完全に塞いだ。
見れば、クワや木こりの斧、頑丈な丸太を手にした強面の村人たちだ。全員が鋭い目つきで僕を睨みつけている。
「……何か用でしょうか。僕はただの旅の者です。この先を通らせていただきたいのですが」
僕は低く静かな声で応じ、波風を立てずにこの場をやり過ごそうとした。
しかし、僕の言葉を聞いた村人たちの警戒心は薄れるどころか、より一層激しく跳ね上がった。
「旅人だぁ? 嘘をつけ! 旅人がそんな顔を隠すような深いフードをかぶって、一直線にリリアーナ様のお屋敷を目指すわけねぇだろうが!」
「なっ……!?」
「最近、都から『可憐で儚げなリリアーナ様』の噂を聞きつけた怪しい男どもがチラホラ来やがるんだ! あんたもその口か!?」
村人たちが一斉にクワや斧を構え、じりじりと僕との距離を詰めてくる。
(な……なんだ、この村人たちの異常な団結力は……!?)
僕の正体など知る由もない村人たちは、僕を「お命を狙う刺客」か「儚いリリアーナ様を狙う不審者」と完全に認定していた。
「いいか、旅の兄ちゃん! あのお方はな、都から体を痛めて静養にいらした、歩くのもやっとなくらいお可憐で病弱なお方なんだ!」
「そうだ! それなのに、昨日なんか俺たちを長年苦しめていた恐ろしい魔獣を退けてくださった、まさに天使のような幸運の女神様なんだよ!」
「あんな儚くて美しいリリアーナ様を、お前みたいな胡散臭い男に近づかせるわけにはいかねぇ!」
「俺たち『リリアーナ様お守り隊』の目を盗んで、あのお屋敷に指一本触れられると思うなよ!!」
(リリアーナ様お守り隊……!? 歩くのもやっと……!? 魔獣を退けた女神……!?)
次々と飛び出す予想外すぎるワードの数々に、僕はフードの下で目を見開いた。
彼女は病弱で倒れそうになりながらも、その可憐さと気高さでこの土地の人間すべてを魅了し、信者にしてしまったというのか?
さすがは僕の愛した女性だ。どこへ行ってもその輝きは隠せない――と誇らしい気持ちになる一方で、目の前の障害があまりにも強固すぎることに僕は頭を抱えた。
物理的な力や王家としての権力を使えば、こんな村人たちなど一瞬で排除できる。
だが、ここで騒ぎを起こせば、屋敷の中にいるリリアーナに僕の来訪が確実にバレてしまう。そうなれば「また殿下が押し掛けてきた」と、彼女に深い絶望と涙を与えてしまうのだ……!
(くっ……! 彼女を泣かせないために静かに見守るつもりだったのに、まさか村人どもの盾に阻まれるとは……!)
「さあ、さっさと引き返しな! さもないと村中総出で叩き出すぞ!」
鼻息を荒くした村人たちにクワを突きつけられ、手出しもできず、かといって退くこともできず――。
冷酷無比と恐れられた第二王子レオンは、人生で初めて「熱狂的な村人ファンクラブ」という謎の壁を前に、激しい葛藤と冷や汗を流しながら完全な足止めを喰らうのだった。




