第24話:可憐な令嬢の夜の情報収集
「――えっ、この近くの山に、凶暴な魔獣が出るんですの……?」
翌日。村の広場で領民たちとお茶を嗜んでいた私は、村長さんの言葉に小さく息を呑んだ。
「そうなんです、リリアーナ様。最近、山奥から『グレート・ウルフ』という巨大な魔獣が降りてきて困っておりましてね。畑を荒らされるくらいならまだしも、いつ村人に被害が出るかと夜も眠れず……」
「まあ……! それはなんと恐ろしいことですの……」
私は胸元に手を当て、今にも倒れそうなほど儚げに瞳を潤ませてみせた。
「あんなにお優しい皆さまが、そのような恐怖に晒されているなんて……わたくし、胸が痛みますわ……」
「おお、リリアーナ様……! なんてお優しいお心遣い! 安心してくだされ、このような件で病床の令嬢の手を煩わせるわけにはいきません。俺たちがなんとかします!」
熱い涙を流して感動する村人たち。
(……良心が痛むわね!! でも、可憐な令嬢のブランディングは完璧に維持できてるわ!)
◇
その日の夜。
別荘の自室に戻った私は、速やかに可憐なドレスを脱ぎ捨て、動きやすい漆黒の夜行服(※領地持ち込み済み)に着替えていた。
「よし……! 営業活動(情報戦)も大事だけど、私を温かく迎えてくれた村人たちが危険に晒されてるのは見過ごせないわ!!」
私の作戦はこうだ。
村人たちに「守ってあげたい可憐なお嬢様」と思われている以上、表立って「私が倒してあげますわ!」なんて暴れ回るわけにはいかない。
もし表で拳を振るったら、せっかく築き上げた『儚げなアイドル』の地位が瞬時に瓦解してしまう。
(だからこそ――夜の間に極秘で情報を集めて、サクッと裏で処理するのよ!!)
私は部屋の窓から素早く飛び出すと、月明かりを浴びながら気配を消し、静かに山奥へと潜入した。
木々の枝を軽やかに飛び移りながら、耳を澄ませる。
(グレート・ウルフの群れなら、必ず縄張りの匂いと足痕が残っているはず……。足跡の深さからして、個体数はどれくらい? ボス狼の体格は……?)
長年の脳筋トレーニングと実戦勘で培われた野生の勘が、凄まじい精度で暗闇の中の情報を取り込んでいく。
「――いたわ」
山奥の開けた谷間。
そこには、体長三メートルを超える巨大な黒狼を中心に、数十匹のグレート・ウルフが集落を作っていた。
(なるほどね。群れの規模は中程度。ボスを素手で一撃で沈めれば、残りの群れはパニックを起こして山奥へ逃げていくわ)
戦力を完璧に分析し、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる私。
「明日の夜、村人にバレないように一瞬で全滅させてあげるわ。……ふふ、可憐な令嬢の平和は、私の拳によって守られるのよ……!」
裏での「完璧な討伐計画」が整い、満足気な笑みを浮かべる私だったが――。
この時、王都のレオン王子が「愛するリリアーナが心配すぎて、仕事(公務)をすべて三日で終わらせて別荘に向かっている」という超緊急事態が起きているとは、まだ知る由もなかったのである。




