第20話:閃きの病気(フリ)作戦と、急展開の予感
(……待って。私、何か根本的なことを忘れてない……?)
倒れたアーマード・ベアを背に、夜の森で月を見上げながら、私はポンと拳を手のひらに打ち付けた。
今まで私は「多忙」にしたり「要塞化」したり「無茶ぶり」をしたりと、自分からアクティブに動く作戦ばかり立てていた。
だけど、私の本来のコンセプトは『病弱で可憐なか弱き公爵令嬢』のはずだ!
(そうよ!! なんで今までこれに気づかなかったのかしら!!)
これぞ作戦⑥【『原因不明の体調不良でお休みします』作戦】!!
「重い病」だと嘘をつくと大ごとになって医師や王宮の診察が入ってバレるリスクがあるけれど、「連日のお茶会や習い事の疲れ(知能熱的なもの)で倒れてしまい、医師から『しばらく誰とも会わずに安静にするように』と言われました♡」なら完璧じゃない!?
(これならどんなに王子が権力を使おうと、病人のお見舞いを強行突破したら『冷酷で配慮のない王子』になっちゃうもの! 完璧だわ……! 『倒れた儚げな私』を演じきって、そのまま数ヶ月くらい部屋に引きこもって王子の情熱が冷めるのを待つのよ!!)
我ながら完璧すぎる起死回生の一手に、私は夜の森でフフンと鼻を鳴らした。
「よーし、そうと決まればさっそく明日から『儚げに倒れるお嬢様』を熱演するわよー!」
テンションが上がった私は、そのまま軽快な足取りで屋敷へと戻り、ふかふかのベッドに潜り込んだのだった。
◇
そして翌朝――。
「……うう、お母様……なんだか頭がクラクラいたしますの……」
私はベッドの中で、前髪を乱し、涙目で儚げに胸元を押さえながら、お母様と侍女に向かって消え入りそうな声を出した。
「まあ、リリアーナ! 大変、顔色も優れないようですわ……! すぐに医師を呼びますね!」
(よしっ!! かかったわ!! 昨日の夜、森で暴れまわって少し寝不足だから、目の下の隈もリアルだし顔色もいい感じに青白くなってるはず!!)
医師の診察でも、私は「最近少しお心が疲れておられるようです。数日は静養なさるのがよろしいでしょう」という素晴らしい診断(※ただの寝不足と筋肉疲労)を勝ち取った。
(勝った……!! これで『医師の指示』という絶対的な大義名分ができたわ! 王子も静養中の私には手出しできない――)
勝利を確信し、ベッドの中でニンマリと笑みを浮かべていた、まさにその時。
バタン!!
部屋の扉が、尋常ではない勢いで開け放たれた。
「――リリアーナ嬢!!」
息を切らし、流れるような銀髪を大きく乱して部屋に飛び込んできたのは――顔色を激しく変えたレオン王子だった。
(えっ……!? 嘘でしょ、扉を破る勢いで入ってきたんだけど!?)
「殿下!? な、なぜここに……静養中と……」
「静養中と聞いたからこそ、駆けつけたのです!!」
普段の冷徹な余裕など欠片もなく、サファイア色の瞳を激しい動揺と焦燥に揺らしたレオン王子は、一瞬で私のベッド脇まで詰め寄ると、ガバッと私の手を両手で包み込んだ。
「僕がお茶会などで無理をさせたからですね……!? 僕の配慮が足りなかったばかりに、あなたを病床に伏せさせてしまうなんて……っ!!」
(ち、ちかいっ!! ていうか、罪悪感とヤンデレ執着が限界突破して目が本気になってるんだけどーーーー!?)
「ご安心ください、リリアーナ嬢。僕が腕利きの王宮医術師を全員集めました。そして今日から僕が、あなたの枕元で二十四時間体制で看病させていただきます」
(二十四時間密着看病!?!? 逃げるどころか、一番回避したかった『完全監視ド密着ルート』に突入しちゃったじゃないのーーーーー!!!!)
病気作戦が裏目に出て、かつてない超ド級の密着ピンチを招いてしまい、私は布団の中で盛大に白目を剥くのだった。




