第1話:可憐な公爵令嬢(※中身は騒がしい物理最強)
「まあ、皆様……。わたくし、そのようなおそろしい魔物のお話をお聞きするだけで、胸が痛くなってしまいますわ……」
爛漫と咲き誇る薔薇の庭園。豪華絢爛なお茶会の中央で、私――リリアーナ・フォン・ローズベルは、可憐に胸に手を当てて儚げに微笑んでみせた。
小さく小柄な体躯に、白百合のような肌、守ってあげたくなるような潤んだ瞳。
周りの令嬢たちは「まあ、リリアーナ様ったら本当にお可憐ですのね」「守ってさしあげたくなりますわ」と頬を緩めている。
ふふ……我ながら完璧なおしとやかムーブ。完璧な猫かぶり。
――だがしかし。
私の心の中は、大騒ぎの嵐だった。
(いやいやいや! お茶会なっが!! もう三時間も座りっぱなしなんだけど!? ていうかさっきから見てるけど、その高級マカロン小さすぎでしょ!! 一口で五個はいけるサイズだよ!? チマチマかじってたらお腹空いて死んじゃうわ!! 早くお家帰って筋トレさせろ―――!!)
表向きは「ふふ……」と上品に微笑みつつ、心の中では絶叫の嵐である。
そう、私、リリアーナ・フォン・ローズベルは世間から「儚げなお姫様」と思われているが――実態はまったく違う。
理由:我がローズベル公爵家が、代々脳みそまで筋肉でできているゴリゴリの【物理最強一家】だからである。
「ただいま戻りました~」
お茶会という拷問を無事に乗り切り、屋敷に帰宅した瞬間、私は背筋をピンと伸ばす「お令嬢モード」を解除した。
すると廊下の奥から、地鳴りのような足音が響いてくる。
「おおお! 我が家の天使、リリアーナ!! 今日も社交界で無事に生き残ってきたか!!」
「リリィ! 変な男に言い寄られなかったか!? もしいたら俺が素手で捻り潰してやるのに!!」
豪快な声を上げて現れたのは、熊のような体躯をした父・バルドゥールと、同じく筋肉の塊のような長兄・サイラスだ。
私の姿を見るなり、ゴリラのような笑顔で目尻を下げて駆け寄ってくる。
(相変わらず過保護で筋肉がうるさいなこの父親と兄は……!)
「お父様、お兄様、ただいま。大丈夫よ、変な虫なんて寄ってきてないわ」
「そうか! よかった! ほらリリィ、今日のおやつだ! 母さんが特製のスタミナ肉パイを焼いてくれたぞ!」
「わーい、さすが母さん!」
おっとり優雅に見えて、実は家の中で一番戦闘力の高い母・ベアトリスが腕を振るった肉パイを受け取り、私は心底ホッとした息を吐く。
そう、私のこの圧倒的な筋力と戦闘センスは、この脳筋&過保護な家族によって幼少期から英才教育を施された結果である。見た目は華奢で可憐だが、中身は拳一つで岩を砕くゴリゴリの物理強者なのだ。
(あ〜、やっぱりお家が一番落ち着くわ……)
自室のふかふかベッドにダイブし、私は買ってきた肉パイを頬張りながら大きく息を吐き出した。
(社交界の「可憐なお嬢様」を演じるのも楽じゃないのよ。まあ、世間にこの強さがバレたらお嫁に行けなくなるし、猫かぶりは徹底しないとね!)
ふと、先週の出来事が頭をよぎった。
あまりにストレスが溜まって、姿を隠してこっそり屋敷を抜け出し、森へ散歩(※魔物狩りという名のストレス発散)に行った時のことだ。
なんかデカい魔物が調子に乗って暴れていたから、ド派手に殴り倒してボコボコにしてやったのだが……そういえば、その足元で怪我をしたイケメンが倒れていた気がする。
一応応急手当だけして「じゃ!」って走って逃げちゃったけど、大丈夫だったのかな、あのお兄さん。
(まあ、布で顔の半分隠してたし、正体がバレるわけないよね! そもそも森で倒れてるような影の薄いイケメンなんて、二度と会うこともないでしょ!)
フラグとも知らず、私は能天気に「明日のメニューはスクワット千回にしよ~」と決意しながら、気持ちよく目を閉じるのだった。
――この時、助けたその「影の薄いイケメン」が、グランヴェル王国で最も恐れられている『冷酷な第二王子』であり、現在狂気的な執念で私を探しまくっているとは、夢にも思わずに。




