第17話:極上の肉パイと、執念の甘い包囲網
(近い近い近い!! 顔が良すぎて直視できないし、呼吸するだけで王子の香りの空気が胸に充填されていくんだけど!?)
至近距離で重金属カップを差し出し、美貌に甘く重い笑みを浮かべたレオン王子。
「さあ、リリアーナ嬢。冷めてしまいますよ?……あーんです」
(くっ……!! ここで頑なに拒み続けたら逆に怪しまれる!! 観念して飲むしかないわ……っ!!)
私は恥ずかしさで顔が熟したトマトのように熱くなるのを自覚しながら、意を決して小さな口をそっと開けた。
「……ん」
「……っ」
カップが唇に触れ、温かい紅茶が口の中に広がる。
その瞬間、レオン王子の喉がくっと鳴り、瞳の奥の熱量が一段と跳ね上がったのを私は見逃さなかった。
(な、なんで王子の方が息を呑んでるのよ!? 飲まされてるのは私なんですけど!!)
「……素晴らしい。僕の手からお茶を飲んでくださるあなたの姿……一生忘れません」
(大袈裟すぎるでしょーーー!? たかが紅茶一口で重い重い!!)
「さて、喉が潤ったところで……次はこちらです」
レオン王子が優雅に指を鳴らすと、待機していた騎士が銀のドームカバーを恭しく外した。
ふわり――と広がる、香ばしいパイ生地と極上魔獣肉の焼きたての匂い!
(うぐっ……!! 匂いだけで胃袋が『それを今すぐよこせ!!』って大暴れしそう……っ!!)
「この魔獣肉は、あなたが森で沈めた個体と同種の、最高級部位です。……さあ、こちらも僕が切り分けて、口元まで運んで差し上げましょう」
フォークで一口大に切られたパイ。じゅわっと溢れ出る肉汁が太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。
(あ、ダメ……! 匂いと見た目の威力が凄すぎる……! 筋トレ後の空腹な私の胃袋に、この特大肉パイは毒どころか最高の麻薬よーーー!!)
「さあ、リリアーナ嬢。可憐に振る舞う必要はありません。僕の前では、あなたのその愛らしく食欲旺盛な本質を存分に見せてください……あーんです」
(可憐なお嬢様ライフの死守か、目の前の極上肉パイの欲望か……!!)
目の前に差し出された肉パイの誘惑と、逃げ場を完全に塞ぐ銀髪王子の甘い圧。
私の「儚げな令嬢」のメッキは、過去最大の危機を迎えていたのだった!




