第16話:超重金属ティーカップと「あーん」の罠
「さあ、リリアーナ嬢。まずは温かいお茶からどうぞ。このカップなら、どれほど力を込められても絶対に割れませんから」
完璧な貴族の微笑みを浮かべたレオン王子が、銀のトレイに乗せられたティーカップを差し出してくる。
(どれほど力を込められてもって!! 私をどんなゴリラ扱いしてるのよーーー!?)
出されたのは、異様な光沢を放つ黒銀色のティーカップ。
見るからに尋常じゃない重量感で、案の定、テーブルに置かれた瞬間にゴトン!と重厚な音が響いた。
(絶対ダメ!! これ片手で軽々持ち上げたら『やっぱり腕力ゴリラじゃないか!』って自分で証明することになっちゃうじゃない!! 私の『可憐でおしとやかな公爵令嬢』のプライドはどこへ行ったのよ!!)
危機感を察知した私は、すかさず胸に手を当て、儚げに目を潤ませて困り顔を作った。
「まあ……とても素敵なお色のカップですけれど……殿下、わたくしのような力のない者には、少し重すぎるようですわ……。持ち上げることすら叶いません……」
(よしっ!! 完璧な可憐ムーブ!! これで『まあ、それは失礼した』って普通のカップに替えてもらうか、お茶は諦める流れに持っていけるはず――!)
私は心の中でドヤ顔を決めた。
しかし――レオン王子は呆れるどころか、瞳の奥にどろりと濃密な熱を灯し、うっとりと目を細めたのだ。
「……なるほど。あえて可憐なお嬢様を貫かれるのですね。ふふ、本当に愛らしい……」
(えっ……???)
「ですが、ご安心ください。あなたが持てないというのなら――僕が口元まで運んで差し上げましょう」
「……はい???」
レオン王子は優雅な動作でその超重金属カップを軽々と持ち上げると、私のすぐ隣へと席を移動してきた。
逃げる間もなく、息が詰まるような甘い香水と体温が至近距離まで迫る。
「さあ、リリアーナ嬢。口を開けてください。……あーんです」
(あーんだとーーーーーー!?!?!?)
「で、殿下……!? お、お気持ちは大変嬉しいのですが、そのようなこと、お戯れでも滅多なことに……っ!」
「お戯れではありませんよ。僕は大真面目です。……さあ、僕の差し出すお茶が飲めませんか?」
至近距離で見つめ返してくる、銀髪の隙間から覗くサファイアのような瞳。
丁寧語のまま、けれど「逃がさない」という絶対的な威圧感と、顔の良さがキャパシティを完全にオーバーしてくる!
(やばいやばいやばい!! 顔がいい!! 距離が近い!! 物理的に逃げられない上に、この後にはあの香ばしい匂いを放つ特大肉パイも控えてるのよ!? どうやってこのお茶会を乗り切ればいいのよーーー!!)
「持てません」作戦がまさかの「王子からのあーん(密着)」という最悪の甘い罠を引き寄せてしまい、私の頭の上ではまた盛大に警報ベルが鳴り響くのだった。




