第15話:開幕! 前代未聞の「脳筋×優雅」お茶会
(いよいよ当日が来ちゃった……!!)
王宮の特別私有地にて。
私はガタガタと震えながら、用意された馬車から降り立った。
あれから数日、レオン王子から事前に届いた招待状には、ただ一言『あなたの期待を超える、誰も見たことがないお茶会を用意しました。心してご参加ください』とだけ書かれていた。
(一体どんな恐ろしい趣向が待ち受けているのよ……!? 猛獣の檻? それとも超高層タワーからのダイブ茶会? いや、待って、耐えろ私! あくまで私は『儚げなか弱き令嬢』なんだからね……っ!!)
心の中で必死に自己暗示をかけながら、私はお付きの者に案内されて、開けた庭園の奥へと進んだ。
そこで待ち受けていた光景に、私の足は完璧にピタッと止まった。
(……は……???)
そこに広がっていたのは――。
まず視界に入ってきたのは、一切の妥協がない最高級の白磁のティーセットと、幾重にも敷き詰められた最高級の絨毯。
美しく磨き上げられたテーブルの上には、上品な薔薔の香りの紅茶と、見たこともないほど分厚く、肉汁がジュワッと溢れ出る『超特大・魔獣肉の極上パイ(直径50センチ)』がドヤ顔で鎮座していた。
さらに、その周囲を取り囲むのは――。
「レオン殿下、お待たせいたしました! 特製の超重金属製ティーカップ、完品でございます!」
「こちらの、竜の鱗を加工した超重量級の筋力鍛錬用具もお持ちしました!」
……屈強な王宮の騎士たちが、なぜか魔物の素材で作られた異常に重そうな鍛錬用具や、巨大な肉料理の山を完璧なマナーと執事の所作で運び込んでいた。
「よくやってくれた。退がりなさい」
「はっ!」
騎士たちをスマートに下がらせ、優雅に微笑みながらこちらを振り返ったのは、完璧な貴族の衣装を纏ったレオン王子だった。
銀髪が太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。その姿は絵画のように美しいのに、やっていることのジャンルが完全にバグっている。
「ようこそ、リリアーナ嬢。僕があなたのために企画した『誰も見たことがない、変わったお茶会』へ」
レオン王子はうっとりと瞳を輝かせ、私の手を取り、丁寧にその手背に口づけを落とした。
「……で、殿下? これは、いったい……?」
私が引きつった笑顔で周囲を指さすと、レオン王子はまるで「最高のサプライズを用意した子供」のような誇らしげな笑みを浮かべた。
「ふふ、驚きましたか? あなたが『普通のお茶会には飽きた、誰も見たことがない変わったお茶会を』とおっしゃったので、徹底的に調べ上げましたよ」
王子は自信満々に胸を張る。
「あなたは華奢で儚げに見えて、その実、並外れた強靭な肉体と鍛錬への熱意をお持ちだ。……ですが、それを表立って発散できないストレスもあるでしょう? だからこそ、『優雅な貴族のティータイム』と『極上魔獣肉の摂取&秘められた腕力を存分に誇れる環境』を完全に融合させた、前代未聞のハイブリッド茶会を立案したのです!」
(融合させないでよーーーーーー!!!!!)
「見てください。このティーカップは一客だけで大人の男が持ち上げるのも困難な希少金属で作られております。これなら、あなたがうっかり力を込めて割ってしまう心配もありませんし、優雅に紅茶を嗜むだけで鍛錬にもなる。そして何より、この特大パイで存分に栄養を補給していただけます!」
(どこをどう解釈したらそうなるの!? 私の『可憐なか弱き令嬢』の設定が、一瞬で跡形もなく粉砕されたんだけど!!)
レオン王子の目は、愛する彼女を喜ばせることができて心の底から嬉しそうに、そしてどこまでも狂おしく輝いていた。
(やばい……。怒るべき? それとも「よくぞここまでリサーチしたわね」って褒めるべき!? いや、ここで喜んだら私の「儚げ令嬢の仮面」が全否定されちゃうーーーっ!!)
極限の混乱の中、私の頭の上では盛大に警報ベルが鳴り響くのだった。




