第12話:最後の希望! 母上への泣きつき作戦
(お父様もお兄様も頼りにならないなんて……! 予算と筋肉装備に目が眩んで王子を引き入れるなんて、我が家はどこまで脳筋なのよーーー!!)
屋敷の警備という名目で、二十四時間体制で外掘りを埋めにかかってくる銀髪の冷酷王子、レオン殿下。
このままでは私の「可憐でおしとやかな公爵令嬢ライフ」どころか、自室以外の全域が王子のヤンデレ領域になってしまう!
絶体絶命のピンチに陥った私が向かったのは、庭園を望む日当たりの良いテラスだった。
そこにいたのは、優雅に紅茶を嗜む我が母、ベアトリス。
ローズベル公爵家の猛者(脳筋)たちを一言で沈黙させる、我が家の真の絶対権力者である!
「お母様……ッ!!」
私は涙目に目を潤ませ、儚げなお辞儀をしながらベアトリスママの隣の席へ滑り込んだ。
「まあ、リリアーナ。そんなに慌ててどうしたの?」
「お母様、お助けくださいませ……! レオン殿下が我が家の騎士団顧問として常駐なさるなんて、わたくし、あまりの緊張にお胸が押し潰されそうですの……! どうかお母様のお力で、殿下をお引き取りいただけないでしょうか……!?」
必死の演技と切実な本音を織り交ぜて訴えかける。
お母様なら! パパやお兄様を一瞬で黙らせるお母様なら、王族相手でもうまく理由をつけて王子を追い返してくれるはず……!!
しかし、ベアトリスママは上品にトングで砂糖をカップへ落とすと、ふっと意味深で美しい笑みを浮かべた。
「ふふ、まあ。断る理由なんてありませんわよ?」
(え……? ほんと!? たすかったーーー!!)
パァァッと表情を輝かせた私に、お母様は扇子でそっと口元を隠しながら言葉を続けた。
「だってあんなにも美しく優秀な第二王子殿下が、我が家とリリアーナのために巨額の予算を投じ、わざわざ身を低くして通ってくださっているのですもの。ローズベル家としても、一人の母としても、これ以上ないほど誇らしいことですわ」
(え、ちょっと待って……? お母様……??)
「あのレオン殿下が、これほどまでに執着し、熱烈な視線を向けるお相手が我が娘だなんて。……リリアーナ、あなたもそろそろ腹をくくりなさい?」
お母様は優しく、けれど絶対に逃がさない微笑みを浮かべて私の手を握った。
「あなたがあの森で何をしたのか……お母様にはだいたいお見通しですよ?」
(ば、バレてるーーーーー!?!? 母親の勘、怖すぎるんだけど!?)
「殿下はあなたの『本当の姿』を知った上で、丸ごと愛そうとしてくださっているのよ。あのような素晴らしいお方を無下に逃がすなんて、もったいないでしょう?」
(逃がすどころか、私が必死で逃げ回ってるのよーーー!! 助けてくれるどころか完全に王子側の味方じゃないの!!)
ローズベル家最後の砦であったお母様すらも、すでにレオン王子の味方(というか公認の仲)になっていた事実が発覚。
「……というわけですので、リリアーナ嬢。お義母様のお許しもいただけましたし、心置きなく僕とのお時間を楽しんでいただけますね?」
「ひぇっ!?」
背後からスッと聞こえた、低く甘い丁寧語。
振り返ると、そこには流れるような銀髪を揺らし、完璧で冷酷な美貌にドロリと重い笑みを浮かべたレオン王子が立っていたのだった。
(終わった……! 我が家に私の味方はもう誰一人としていない―――――!?)
絶体絶命の密着空間で、私は引きつった笑顔を浮かべることしかできないのだった。




