第11話:次なる一手と、脳筋家族の怪しい協力
(あ、危なかった……! あのまま行ってたら『絵画教室』という名の囲い込み檻の中で飼育されるところだったわ……!!)
レオン王子のあまりに激重なヤンデレ執着と、国家レベルの財力&権力を行使した逃げ場潰し。
絵画レッスンの二時間は、私の人生で最も心臓に悪い二時間だった。
(ダンスもマナーも買収される!? 冗談じゃないわ! 私のプライベートも筋肉トレーニング時間も全部王子の監視下になっちゃうじゃない!!)
自室に戻った私は、ベッドにダイブしてクッションをポカポカと拳で叩いた。
だが、ここで折れる私ではない。
(ふふふ……甘いわね、レオン殿下! 個人で習い事の講師を買収して入ってくるなら、【家族や屋敷の防衛線を極限まで固める】までよ!!)
これぞ作戦③【ローズベル家(脳筋)要塞化作戦】!!
我がローズベル公爵家が誇る父バルドゥールと兄サイラス。あの二人の過保護ぶりと筋肉の圧威は伊達ではない。
王子がどれだけ権力を使おうと、娘・妹を愛する脳筋二人に『絶対に王子の単独訪問を許すな』と命じれば、ローズベル邸は物理的に鉄壁の要塞と化すはずだ!
「お父様! お兄様!」
私はさっそくサロンへ飛び込み、ソファで筋トレ中の二人に向かって可憐に(けれど真剣に)訴えかけた。
「わたくし……最近、レオン殿下からの熱烈すぎるご好意に、少し戸惑っておりますの。もう少し静かに自分の時間を過ごしたいのです……」
「なんだとぉっ!? あの銀髪小僧、まだリリィにしつこくつきまとってやがったのか!!」
「許さん……!! 公爵家の権限で、明日から敷地内に兵士を三倍配置する! 王子だろうが何だろうが門前払いだ!!」
パパとお兄様が丸太のような腕の筋肉をピキピキと爆発させ、即座に乗ってきた。
(よしっ!! 勝った!! バルドゥールパパとサイラスお兄様が門番をしてくれれば、いくら王子でも強行突破は不可能なはず!!)
これにて「ローズベル要塞」の完成である。
――しかし、翌日の午後。
「リリィ、大変だ……! 大変なことになった……!」
青ざめた顔で私の部屋に駆け込んできたのは、あろうことかあの過保護なサイラスお兄様だった。
(えっ、お兄様!? なに!? まさか王子が門を打ち破って突入してきたの!?)
「お、お兄様、落ち着いてくださいませ! 一体なにが……」
「第二王子が……レオン殿下が、『我がローズベル公爵家の騎士団特別顧問』として正式に赴任してきた……!!」
(……は????)
「な、なんですって……!?」
「国王陛下の直筆の親書と、我が家の騎士団への膨大な予算・最新装備の寄付を引っ提げてな……。父さんも『ぐぬぬ……これほどの好条件を断れば公爵家の損失が……』って苦虫を噛み潰した顔で許可を出してしまったんだ……!!」
(お父様ーーー!? 予算と装備の誘惑に負けないでよ!! 脳筋だからって筋肉装備に弱すぎるでしょーーー!?)
「というわけで、リリアーナ嬢」
お兄様の背後から、流れるような銀髪を揺らしたレオン王子が、爽やかで恐ろしいほどの笑みを浮かべて姿を現した。
「今日から僕が、あなたの屋敷の警備および騎士団の指揮を執ることになりました。……これで二十四時間、あなたを完璧にお守りできますね?」
(お館様が一番の危険人物なんですけどーーーーー!?!?)
要塞化どころか、本丸の内部を一瞬で占領され、私は再び頭を抱えて絶叫するのだった。




