第10話:密室の絵画レッスンと、溢れ出るヤンデレ執着
「さあ、リリアーナ嬢。まずはそちらのソファに腰掛けていただけますか?」
レオン王子は優雅に絵の具を混ぜ合わせながら、一切のスキがない完璧な動作でキャンバスをセットした。
(やばいやばいやばい!! 逃げ場ゼロの密室で二人きり!? 侍女たちも『王子殿下のお邪魔になっては』って気を利かせて外に出ていっちゃったし!!)
心の中で冷や汗をダラダラと流しながら、私は引きつりそうな頬をなんとか固定し、可憐なお嬢様らしく優雅にソファへ腰を下ろした。
「ほ、本日描いていただくのは……どのような絵でしょうか、レオン殿下?」
「もちろん、あなたですよ」
レオン王子は筆の手を止め、流れるような銀髪の間から、ぞくっとするほど美しく重い視線をまっすぐに私へ向けた。
「可憐で、儚げで……けれどその内側に、巨大な魔物をボコボコに殴り倒すほどの圧倒的な強さを秘めた、僕の特別な愛しいお嬢さん。そのすべてを、このキャンバスに刻み込みたいのです」
(隠す気ゼロじゃん!! 完全にバレてる前提で話してきてるじゃないの!!)
「で、殿下……お戯れを。わたくし、そのような野蛮な力などございませんわ……」
私は胸に手を当て、儚げに目を潤ませてみせる。
だが、レオン王子はクスクスと嬉しそうに小さく笑うと、すっと立ち上がり、静かな足取りでこちらへと歩み寄ってきた。
コトン、と靴の音が静寂なサロンに響く。
「ふふ、まだそうやって猫をかぶられるのですね。本当に可愛らしい……」
気がつけば、レオン王子は私のすぐ目の前に立ち、逃げ場を塞ぐようにソファの背もたれに手をついていた。
目の前には、息をのむほど整った銀髪の麗人。ふわりと漂う上質な香水の香りと、手袋越しでも伝わってくる圧倒的な体温に、私の心臓が「ドクン!」と跳ね上がる。
(近い近い近い!! 顔が良すぎて直視できない!!)
「ですが、お忘れですか? あなたのその華奢な指先も、細い手首も……あの日、僕の命を救ってくれた感触を、僕の体がすべて覚えているのです」
レオン王子はそっと手を伸ばし、私の頬に触れるか触れないかの距離で指先を滑らせた。
丁寧語のまま、けれどその瞳の奥には、ドロドロとした濃密な執着と独占欲が渦巻いている。
「あなたがどれほど多忙を装って逃げようと、僕はあなたの行く先すべてを買い取ります。ダンスの講師も、マナーの先生も、お茶会の主催者も……すべて僕が代わって差し上げますよ」
(外堀を埋める規模が国家レベルなんだけど!? 財力と権力の使いどころが完全に狂ってるーーー!!)
「僕から逃げようとすればするほど、僕はあなたを逃がさないための檻を強固にしていく……。ふふ、ですから諦めて、僕の腕の中に飛び込んできてくださいね?」
甘く、重く、逃げ場のない宣戦布告。
(ダメだ……!! このままじゃ私の『可憐でおしとやかな公爵令嬢ライフ』どころか、全身全霊で囲い込まれてヤンデレの飼い殺しルートに突入しちゃう!!)
冷酷王子の激重な執着に包まれながら、私は心の中で「次こそ絶対逃げ切ってみせる!!」と拳を握りしめるのだった。




