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BLUE ROSE  作者: うさぎさん⭐︎
第五章 あたしだけのブルーローズ

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三. 不可能を可能にする花があるなら


 シエルはゆっくりと獏に歩み寄る。

 獏の手の中のブルーローズに手を伸ばしかけ、ためらう。

「シエル」

 獏はシエルを片腕で優しく抱く。

 シエルは顔の横のほうにあるブルーローズに、そっと手を伸ばす。

 刺は獏が切り落としたのか、ついていない。不自然なバラの茎、そもそも、根から切り離されたこの状態こそが、不自然で。……なのに。

「…………」

 シエルはそれを握る。

 獏の手がブルーローズから離れ、シェルの白い手に重ねられる。

 二人で掴むようにしたブルーローズを、シエルは見つめる。

 青い青い花──……

「……あたしは、あんたの姫になりたい……」

 シエルはもう一方の手を獏の背に回す。

「……あんたに、あたしの勇者になってほしい……」

「……うん。それから?」

「子どもが欲しい……」

「いっ⁉︎」

 獏が赤面する。

「……ほら、有り得ないじゃない……」

「う、う、うぅ~……うーん、うーん……。

 それは、要約すると……」

「あたしは、あんたとずっと一緒にいたい。

 あんたとあたしの子どもが欲しい……」

「あー……やっぱり、そういうこと……?」

 獏は空を仰いで、眉を寄せる。

「一生、浮気は許さない。あたしを裏切ったら即死んで」

 獏は力なく笑う。

「つ、つまり、シエルは、家庭が欲しいんだね?

 温かな、家庭が……」

「…………言葉にすると、そうなのかも」

「い、いや、前向きで、いいんじゃない?

 時を戻せとか、お母さんを生き返らせろ……とかいわれても、さすがに無理だし……」

「………」

 シエルは獏を睨む。

「う、う、うんと……」

「責任取ってくれるんでしょうね?

 不可能を可能にしてくれるって、言ったわよね……」

「え、えーと……」

 想像した。

 鳥が産まれてくる……

 シエルと自分の子どもの鳥が……

「そうすると、ボクは、……。

 日本に、帰れるんでしょうか……?」

 正直、日本にはまだまだ未練がある。

「……でも、青いバラがある世界で生きるっていうのも、いいのかもしれないなぁ……。

 あ、あはは、だって、こっちの世界だって、幻じゃなくて、現実として今確かに存在してるんだから……あ、あはは……はぁ……」

 獏は溜め息をこぼす。

 獏とシエルの目が合う。

「あー! ごめんなさぃぃ!

 ボクやっぱり、日本に帰りたいみたいですぅぅっっ‼︎」

「……サイテー」

 シエルは獏を突き放す。

 尻餅をついた獏を、青いバラ片手に蹴りまくる。

「あー‼︎ シエル、ごめん……ッ‼︎

 じゃ──じゃあさ、シエルがボクの世界に来るっていうのは、ど、どうよ?」

「……え?」

 シエルの蹴りがやむ。

「有り得るの?」

「あー……」

 考える。

 髪の色はオシャレ。目もカラーコンタクト入れてるってことで……。

 いや、よくわからん今のこの黒い目なら、裸眼でも……。

 言葉はどうだろう。果たして、あっちの世界に行っても、シエルは魔法使いのままなのだろうか?

 だとしたら、魔法で言葉の壁は越えられる。

 日本は平和だから、命の危機で暴走することもあんまりなさそう?

 交通事故とかには気をつけましょう……。

 あとはシエルが意識的に人を傷つけたりしないか……この辺は自分がよく言い聞かせて……暴走してなければ平気か??

 しかし、ヒビキに一緒に住もうといってしまった。

 なら、ボクとシエルとヒビキの三人暮らし……。 

 シエルは納得してくれるだろうか? いっそのこと、ヒビキがボクらの子どもってことで……。

 年的に無理だろうか。

 ──それより何より。悲しいかな、ボクはただの浪人生……

「いや、でも大学行って一人暮らしでもすれば……」

 で、それから、就職しちゃえば……

 あぁ、大不況……

 いや、でも、なんとかがんばって……

「少なくとも、一人で部屋に引きこもってるよりも、ずっと、楽しいかな……」

 シエルとヒビキがいたら。

 獏は瞳を──顔を上げる。

「シエル、すぐには無理だけど……と、とりあえず、一人暮らし始められたら、ど、同居、できるかも……。

 ルームシェアリングとかもハヤってるし。な、なんとか……」

 親が黙ってるだろうか……

 いや、すまないが父さん母さん。

 一人暮らし始めて少ししたら、勝手にシエル部屋に入れちゃって……とにかく一緒に住んじまえば、こっちのもんだろう。

 仕事見つけたら、ちゃんと父さんと母さんにお金差し上げますから。

 お許しください……

 そのうちヒビキも一緒に……

「……どうだろう、有り得るだろうか、この穴だらけの計画……」

 シエルの手の中のバラを見て、獏は笑う。

「でも、不可能を可能にできるように、がんばるから!」

「──甘い甘いッ‼︎」

 気絶していたはずのライオンが起き上がる。

 暗獣の間を歩いて、近づいてくる。

「シエル、やめろ、コイツ、危なっかしい。

 男が女に優しいのなんて初めのうちだけだ。

 それよりも、オレと行こう!」

「なっ──ラフガ!」

 獏が不満そうにラフガを見る。

「オレと来い!」

「い、いや、ボクと……!」

 獏の手と、ラフガの前足が、シエルに向けて伸ばされる。

 もしここにヒビキがいたら、彼も手を伸ばしたかもしれない。

 シエルは手と前足と、ブルーローズを見比べる。

 そっと、その花を顔に近づけて、甘い香りを嗅ぐ。

 伏せた瞳を再び開いたとき、それは、葡萄色に戻っている。

「……あたしは……」


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