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BLUE ROSE  作者: うさぎさん⭐︎
第五章 あたしだけのブルーローズ

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二. 闇姫か陽姫か


「ん……?」

 獏の瞼《まぶた》が震える。

「おはよーう、バーク」

 獏の肩を揺さぶるのをやめ、シエルは微笑む。

 獏は身を起こす。

「ヒビキ……? ラフガ……!」

 ヒビキの姿は見あたらないが、ラフガは気絶したまま、少し離れた場所でシエルの暗獣たちに取り囲まれている。

「……シエル……?」

 獏はシエルの黒い瞳を見つめる。

「魔法で癒してあげたわ」

 獏の傷も、ラフガの傷も治っている。

 服も血に濡れていないし、切れていない……

「あなたたち二人だけを、怪我を負う前のコンディションに戻してあげたの」

「……そんなことが……」

「風の魔法っていうより、時の魔法かな?

  ほんのちょっと前の時間の状態にしか直せないんだけどね。

 この世界の時間は正常のまま流れてるし。

 あたしさ、ほんとはさ、地震起こしたりもできるしさぁ、こんなこともできるしさぁ、普通の回復魔法もできるし、幻術土のヒビキよりすごくない?

 本当はあのとき、枯れた花を青く戻すこともできたのよ」

「ボクたちを助けてくれたんだ……?

 でも、ヒビキはどこ……?」

「ヒビキは元の世界へ帰ったわ」

「え?」

「あたしさぁ、どーしても聞きたいことがあるのね」

「な、何……?」

 シエルが顔を近づけてくる。

 獏は腰を落としたまま、少し後じさる。

「あのライオンと、あたし。どっちがいい?」

「え? え?」

 獏はライオン──もとい、ラフガとシエルを見る。

「え、えーと……?」

「あのライオン、殺ろうと思えばいつでも殺れる。けどね、獏さ……」

 シエルは獏がしていたペンダントを掴み、何か呟く。

 すると、光が溢れ、獏の目の前に、剣が出現する。

 それを獏に握らせ、シエルは笑う。

「あたしと、陽姫、どっちがいい?

 陽姫がいいなら、陽姫のほうに歩いて、彼女のこと助けてあげなよ?

 でも、あたしがいいならさ、あたしの手を取ってよ。

 それかその剣でさ、あたしのこと斬り捨ててよ」

 シエルは立ち上がると、獏に背を向け歩く。

 立ち止まって、振り返る。

 ラフガは気絶したまま。暗獣に取り囲まれたまま。

 獏も立ち上がる。

「何、言ってんだよ、そんなこと……。それに、シエルを斬ろうとすれば、暗獣やかまいたちなんかが出現するって」

「そうね。そうしたら、獏、今度こそ死んじゃうかもね。

 あ、いっとくけど、少し前に枯れた花はともかく、死んじゃった人間や壊れた建物なんかは、あたしは生き返らせられないし、元に戻せないからね」

「…………」

「ちなみに、あたしを選んだ場合は、いらない陽姫は殺すから」

「……なんか、いろいろ矛盾してないか?

 君は──暗獣やなんかのせいで殺せないし、ラフガが死ねばイコールボクも死ぬんだよ?」

「だから?」

「…………」

 獏は溜め息をついた。

「そんなに、君はボクに選ばせたいの?

 『陽姫の勇者』であるボクに、アンハッピーエンドでもクリアして──君を選ばせたいんだね……」

 獏は陽姫のほうへ振り向く。

「でも、ボクはさぁ……できれば人を殺したくないから、陽姫に死んで欲しくないし、ボクもまだ死にたくないんだよね……」

 シエルの目が狭まる。

「つまり、陽姫を取るってことね?」

「でも、そしたら、君はさぁ、たぶん」

 獏は握っている剣を見下ろす。

「ボクを殺す、って、言うんだろうね……?」

 シエルは身構える。

「えぇ、そうよ、陽姫なんか選んだ漠なんか、殺すわ……‼︎」

「でも、君を選んでも、ボクは殺されちゃうんだろう?」

「…………」

「君は、もう少し、自分の心を生理したほうがいいよ。

 何が、したいか、優先順位《プライオリティ》を決める──って、いうか……。

 あぁ、偉そうでごめんね……ボクももこんなこと言えるような人間じゃないんだけどさ……。

 つまりさ、どうでもいいことよりもっと大事なことを、口にしたほうがいいっていうか──」

  獏は困ったような顔で頭を掻く。

「どういうとき、どういう行動を取るか、考える──っていうか、あぁ、ボクも何言ってんだろうって感じだけど……

 たぶんさ、」

 獏はウエストバッグに手をやる。

「たぶん、君にはわかってるんじゃない?

 君が強く望んでいることが何か。

 だったら、それを、もっと具体的に、相手に伝わるように口にしたほうがいい。

 それに向かって行動してみたほうがいい」

 青いバラを取り出す。

「……ううん、ごめんね。シエル。

 ボクが、いけなかったのかな……?

 ふがいなくて……」

 獏はブルーローズを、その場に立ったまま、シエルのほうへ差し出す。

「強引に君の手を取って、君を空へ連れてゆくような……そんな奴のほうが、よかった?

 異世界からやってきてさえ、世界を越えて、君だけを選んでくれるような、そんな奴が、よかった?

 君の涙を拭って、悪夢を食べてくれる優しい獏が、よかった?

 君を陽姫に変えてくれ、君が産まれた頃に時を戻せる魔法使いなら、よかった?

 ねぇ、シエル──」 

 獏は笑う。垂れ気味の、人のよさそうな頼りないような、その瞳で。

「ボクは日向獏。君は、シエル。──それじゃ、だめ?」

 獏は手の中で、ブルーローズを回す。

「それとも、ヒビキのほうがいい……?」

 シエルは立ちつくしたまま、言う。

「具体的に言ったら、あなたはそれをかなえてくれるの?」

 獏はシエルの目を見ていった。

「──可能なら」

 シエルは目を伏せて溜め息をついた。

 獏は小さく笑った。

「今、不可能だって、思ったね……?

 口にもしていないのに」

「だって……有り得ないわ」

「さて、今、ボクの手の中に、不可能を可能にする花があるよ。

 ……ボクは、ただの人間だから、なんでもできるわけじゃない。

 でも、そもこの花にあやかれるように──ボクも普通なら不可能と一笑することを、今は、少しでも可能にできるように、努力したいと思う。

 言ってみてよ、シエル?

 案外それは、不可能じゃないことかもしれないよ?」


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