一. 光の勇者
「シネ‼︎」
大地が大きく揺れる。
かまいたちが、ラフガの肌を切り裂く。
不可能を可能にする青いバラ。
子どもの誕生を祝福する青いバラ。
ねぇ、どこに咲いてるの?
どこに行けば逢えるの?
有り得ないのに有り得ないのに──
「うわぁぁぁああッッ‼︎?」
眩しすぎる光が溢れる。
肌を切り裂かれ、倒れたラフガの目の前──
「ば、獏……?」
体のあちこちから血を流したが、陽姫を庇うように、立ち現れ、その場に膝をつく。
──光の姫を助ける勇者。
「はぁはぁはぁ」
息を乱し、獏はシエルを見上げる。
「シ、シエル……?」
それから、ラフガやヒビキを見る。
「何? ヒビキがテレポートさせてくれたの?」
「……ぼくじゃない」
「じゃあ……」
「たぶん、それはおまえの力だ。獏」
同様に息を乱したラフガが言う。
「頼む、獏。シエルを……助けて……」
そのままラフガは気絶する。
獏も気絶しそうになる──なんとか、こらえる。
ヒビキは彼のそばに膝をつき、獏を支える。
「大丈夫か、獏……?
いいよ、おまえ、もう、帰れよ」
「え?」
「日本に帰してやるよ、オレの力で。
このままじゃ、マジでおまえ、死ぬかも……。
い、いや、びょ、病院に……!
あぁ、ど、どうすれば……?
元の世界に戻ったら治るのか? ど、どうなんだ?」
「……ヒビキは……?」
「もしも伝説が本当なら……。アンキを倒し、国を救うのは、このオレ……」
ヒビキは獏のマントを切り裂いて、それをきつく結び、獏の肩と胸と脚の傷を止血しようとする。
「ご、ごめ、慣れてないから、うまくできない……あぁ、それに、陽姫もどうにかしなきゃ……」
ヒビキはラフガに近寄り、今度は自分のマントを切り裂き始める。
「陽姫を助けに来たのね? 獏──」
シエルは泣きそうな顔をした。
「なんでよ、獏? 陽姫じゃなくて、あたしを助けてよ……!」
シエルは獏のほうへ手を伸ばす。
「ねぇ、あたしを助けてよ? あたし、あたし、陽姫になりたかったの……そうして、陽姫の勇者のあなたに逢いたかったの……‼︎」
「シエ……」
血の気の引いた顔で、獏は笑う。
「ごめん、ね……君の勇者になれなくて……」
「大空を──本当の青い空を、あたしと一緒に飛んでくれる人が、欲しかったの……!
青いバラを、あたしに青いバラを……」
青いバラが欲しかったの。
あたしだけのブルーローズ。
「シエル……君は、飛べる……。
きっと……空を……青いバラと共に……」
──青いバラを贈ってくれる人が。
「シエ……ごめ……」
獏の体が傾ぐ。彼に手を伸ばし、その体を抱き、ヒビキはシエルを睨む。
「アンキ……てめー‼︎」
その体を静かに地に横たえ、ヒビキは立ち上がる。
「いい奴だったじゃんかよ、コイツ──バク、いい奴だったじゃねーかよ‼︎
オレと、おまえに──青いバラを贈ってくれようとして──……なのに、てめー‼︎」
「だ、だって……」
ヒビキの幻獣たちが、シエルを取り囲むように現れる。
シエルの風の暗獣たちも、シエルを護るように現れる。
「だって、ヒビキにはわかんないよぉ‼︎ 陽姫にも、獏にも──わかんないよぉ……ッ‼︎」
「アンキ、でめーいい加減にしろよなッ!
そんなんじゃ、一生誰も、てめーのことなんかわかってくんねぇよ‼︎」
わかりたくても、いくらを手を差し出しても……
「青いバラなんかなくったってあったって──もうどっちでもいいじゃねぇか!
おまえには、バクがラフガが……ぼくだって、いるのに……ッ‼︎」
いや。もう、シエルは何度も差し出されているはずだ。
ブルーローズを。
受け取らうとしないだけで。
「……獏がいつか、あたしの部屋の花瓶に、ブルーローズを生けてくれたの……。
嬉しかったな……」
シエルは小さく言って、笑う。
「さようなら。ヒビキ」
「……は?」
「帰っていいよ、あんた。
伝説は、所詮、伝説よ。
あんたにあたしは倒せない」
「何……?」
「もう、いらない。バイバイ」
ヒビキはシエルに近づこうとする。
それを風の暗獣が阻み、ヒビキの幻獣も動く。その隙に──……
早口に、シェルは唱えた。
「異世界への扉よ開かれん。我の勇者よ元の世界へ元の時間へいざ帰れ‼︎」
ヒビキの姿がそこから消える。
幻獣たちも、すべて消え去る。
召還と違い、送還には儀式がいらない。
それをシエルはヒビキに話していなかった。
ヒビキはこの世界から自由に脱出はできるが、自力でこの世界へ戻ってくるのは、不可能だ。
「さて……と」
地上に降り立つと、シエルは倒れたまま動かない獏とラフガに歩み寄る。




