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BLUE ROSE  作者: うさぎさん⭐︎
第四章 ブルーローズの花言葉

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二. 滅びの姫と救いの勇者

 

 シエルとラフガのケージがある場所。

 そこは実は、シエルの離宮の地下室であった。

 獏は少しも気づかなかったが、ヒビキはずっと、離宮の一室に寝泊まりし、とりあえずそこを拠点としていたのだ。

 塔は、獏とのバトルフィールド用に都合のいい場所を見つけただけだ。

 ケージの中、夢を見ていたシエルが、急に葡萄色の瞳を見開いた。

「い、嫌、嫌ぁぁぁぁぁぁあああッッッ‼︎!」

「お、おい?」

 ラフガは慌てて檻の中、彼女のほうへ近づく。


「ヒビキ──‼︎」

 塔の屋上の端で、獏は叫ぶ。

「ヒビキ……ッッ‼︎?」


 かまいたちが、ケージを切り裂く。

 落ちたケージだった物が、床に当たり耳障りな高音を立てる。

「お、おい‼︎ 闇姫──シエル……‼︎」

 壁にも傷が走り始める。

「やめろ、ここは地下だ……‼︎ 崩れるぞ……‼︎」

 どこからともなく暗緑色の翼ありし暗獣たちが現れ、階段へ──地上へ駆け出して、または飛んでゆく。

「シエル……!」

 シエルはすでに気を失っている。

 だが、かまいたちと暗獣の出現は止まらない。

 ラフガは舌打ち、その場に四つん這いになり──ライオンへと姿を変える。

 翼が生えるだけのシエルとは違い、完璧な獣の姿となる。

 服は破れ、赤みがかった金色の毛並みに、濃い青い目。

 すでにヒビキの幻術の拘束は消え、実際のケージもその役目を果たしていない。

 シエルを乱暴にその背に乗せ、無理やり暗獣を押しのけ、階段を駆け上がる。


「ヒビキ……?」

 階段を駆け下りた獏は、塔の外、ヒビキの姿を探す。

「ヒビキ……!」


「……はぁ。なんなんだよ」

 ライオンの姿のまま人語で呟き、ラフガは空を仰ぐ。

 シエルの召還した──否、しつづけている暗獣たちが、翼広げ、空を旋回し、或いはどこかへ向かっていく。

「──‼︎」

 その場に伏せる。

 かまいたちが頭上を駆け抜けていく。

「お、起きろ、シエル‼︎ と、止めろ……‼︎」

 シエルはラフガの背の上で気絶したまま動かない。 

 窓の割れる音が走り抜ける。

 離宮のほうから、甲高い悲鳴が聞こえてくる。

「ヤ、ヤべ!」

 暗獣たちは、王宮のほうへ街のほうへ飛んでゆく。

「なんでだよ、シエル! せっかく、やっと、逢えたのに……‼︎」


「ヒビキ、ヒビキ……⁉︎」

 ヒビキがどこにもいない。

「どこだよ、ヒビキ……?」

 ブルーローズの幻は消えている。

 そこには、雑草があるだけ──……

「テ、テレポートで、どこかへ行ったんだ、きっと、地面に微笑するまえに……。

 ど、どこへ……?」

 獏は塔を見上げ、街のほうへ目をやる。

「ヒ、ヒビキ……シエル……」

 まなじりを決し、走り出す。

「とりあえず、離宮‼︎ たぶん、こっち──‼︎」


 人々が罵りながら押し寄せる。

「災いの子」「闇姫」「おまえなぞ滅びよ」

 イヤ、イヤダ……

「どうして生きてるんだ」「なぜ産まれてきた」

「滅びろ」「おまえが滅びろ」

 イヤダ……

 イヤダ! ホロビチマエ! コンナクニモ、コンナセカイモ、ミンナミンナ、ホロビチマエ──‼︎

 ……だって、優しい獏は帰ってしまうもの。

 悪夢を食べてはくれないもの。

 あたしは、独りで偽りの空しか飛べないもの。

 ねぇ、ヒビキ。あんたはあたし。

 そう、あたしだってほんとは今でも──いつもいつも思ってる。

 すべてホロビテシマエ。

 いい子になりたかった。

 ブルーローズがもらえるいい子になりたかった。

 有り得ない子どもなら。滅びの姫なら。

 ねぇ、なんのために産まれてきたの?

 でもね、ヒビキ。

 あんたは国を歌う勇者。

 あたしとは違くない?

 むしろ、それって、あたしの敵?

 ほんとはあんたさ、獏連れてあたし捨てて帰っちゃうんでしょ?

 飽きたら、帰っちゃうんでしょう? 

 だってさ、あんたさ、命狙われるほど差別されてるわけじゃないんでしょ?

 あたしと、違うじゃん。

『魂を同じくするなんていっても、所詮ぼくらは他人だった──そういうことだね』

 その通りじゃん、

 期待外れはあんたじゃん、ヒビキ。

 あたしのためだけのブルーローズ。

 そんなものは、どこにも有り得ない。

 ブルーローズは咲かない。

 陽姫は国を幸福に導く姫。獏は陽姫を救う勇者。

 ……なんでさ。あたしだけ。

 闇の姫なの……?

 あたしはさ、ただ普通に生きたいだけなのよ?

 お父様がいて、お母様がいて、あたしがいて。

 一緒に普通に暮らせたら。それだけでよかった。

 ねぇ、お母様? どうして死んじゃったの?

 それって本当にあたしが罪深いせいなの?

 お母様がいてくれたら。どんなによかったか。

 ──それとも。いっそさ、お母様と一緒に死んじゃってさ。産まれてくる前に死んじゃってたらさ。

 そしたらさぁ。あたしさぁ。もしかしたらさぁ、そっちのほうがよかったの??

 ネェ、ホロビチャイナヨ。

 ホロビチャオウヨ。

 アタシトイッショニサ、ネムッテヨ?

 モウ、アクムナンカミナイセカイニ、イッショニイッテヨ。

 ホロビチマエ。


 シエルの瞳が見開かれる。

 黒い暗い──闇色の瞳。


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