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BLUE ROSE  作者: うさぎさん⭐︎
第四章 ブルーローズの花言葉

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一. 幻と現実と


 高くそびえる塔を見上げ、獏は息を呑む。

「ここは、どこだ……?」

 辺りには青いバラが咲き誇っている。

「必要、なかったかな……?」

 少し笑って、獏は持っていたブルーローズを見つめ、しばし考えて、邪魔にならないように、してきた大きめの青いウエストバッグにしまう。背中側にバッグを向けている。

 誘うように──実際誘っているのだろう、扉が勝手に開く。

 獏は塔の中に入っていく。

 ふと、強い風が吹く。

 後ろを──辺りのブルーローズを見つめる。

 瑞々しい鮮やかなブルー。


 塔の一階。

 奥の端に上がり階段があるだけの、石造りで円形の広いフロア。

 獏は、剣──すでにペンダントから形を変えている──を握り締め、目の前の一頭のホワイトウルフを睨んでいる。

《まずは、小手調べだよ。バク。

 仮にも勇者だ。まさかこんなザコにやられたりしないよな?

 もちろん、陽姫の援護は有り得ない》

 どこからか、ヒビキの声がする。

 獏は瞳を閉じる。そこには、何もいない。

 ──あれは、幻。

「ヒビキ……。所詮は、幻なんだよ……」

 悲しそうに、獏は呟く。

「君の居場所は、ここじゃない……。

 君は、シエルとずっと一緒には、いられない。

 もちろん、ボクも……」

《何を言う? オレはちゃんと、ずっと、これから一生彼女のそばにいる。

 おまえみたいな偽善者とは違う。

 無責任に優しい言葉だけかけて去っていくなんて、そんなおまえみたいなことはしない!》

「それは、誰のため?」

《もちろんそれは、彼女とオレ──オレたちのためだ‼︎

 ウルサイ──》

 ウルフは跳躍する。

「ボク、考えた。ボクは、日本に帰って、ヒビキ、君に逢いに行く」

《な──ッ⁉︎》

 ウルフの前足のクローが獏の肩を切り裂く。

「ボクは、まだ、一人立ちもできてないけど、もうすぐ成人する。

 だから──ボクは、今はまだ、こんな、ガキで、一人じゃなんもできないけど……ッ、でも……!

 いつか必ず」

 後ろへ飛びすさったウルフが、再び獏に迫る。

「青いバラのない世界で、一緒に住もう‼︎  ヒビキ──!」

 獏の胸を、クローが切り裂く。

「ヒビキ、違うんだよ──幻術は、万能じゃないんだよ。

 匂いが──しない……血の匂いが、しない……。

 シエルが、言ってた……。

 表に咲いてた、ブルーローズも傷物だね? 強い風が吹いたのに、香りを運んでこなかった……」

《……だ、だから、なんだよ……》

「だから……!」

 獏は、宙に向け、剣を振るう。

 ウルフの姿が溶け消え、獏の傷が治る──いや、最初から、傷なんて、負っていない。

「ボクには、効かない」

 獏は静かに瞳を開く。

《う、嘘だ⁉︎ アンキにだって陽姫にだって効いてる。

 それとも、それが、おまえの力……?》

「解き方のわかっている問題は、焦らなければ、間違えない。

 タネのあかされた手品は、もう、手品じゃない──。

 それを知っていて、心を強く持てば──幻術なんて、所詮は幻。

 そうなればもう、ラフガの剣と魔法よりも、シエルの魔法よりも、君は弱い。

 まだボクより子どもの君よりも、肉体的にボクのほうが強い」

《………》

「そうだろうと思ったから、来たんだ。

 少しの可能性《ポシビリティ》を見つけたから。それに賭けてみた。

 でも、かなりデンジャラスな賭けだったろう?

 ──死ぬかと、思ったよ……」

《な、な、なんで、そんな、》

「教師になるより──君と、一緒に住みたいんだ、ヒビキ」

 『君じゃシエルを救えない』といったヒビキ。

 だけど、たぶんそのセンテンスの本当の意味は──

 『君じゃぼくを救えない』。

「ごめん、ヒビキ。

 期待に応えられなくて。

 なんかボクの一生分の勇使い果たしちゃった感じだけど……。こ

 んなんじゃまだだめ?」

 獏は階段に歩み寄る。

「どこにいるんだ、ヒビキ?

 最上階か?

 渡したいものが、あるんだ」


 二階に上がる。そこに、牧村がいた。

「心理作戦か?  ムダだってば、ヒビキ」

 獏は牧村に歩み寄ると、その頬をグーで殴る。

「牧村、悪いな」

 牧村の姿も溶け消える。

「てゆーかさ、ヒビキ?

 ボクのほうが君に比べればずっと牧村を知ってるんだよ。

 なんか雰囲気違うし。

 つーかそもそも牧村がこんなトコいるわけねーじゃん」

《あぁ! なんであっさりやっつけちまうんだよ!

 シナリオ無視すんなよッ‼︎》

「どんなシナリオ?」

 獏は階段へ向かう。

《チクショー、こんなの有り得ねぇッ‼︎

 実はヒビキの正体は牧村でした、って嘘かまして、おまえを惑わせるつもりだったんだよ!》

「ふーん?」

 獏は階段に片足をかけた状態で、何もないフロアを振り返る。

「ボクは助けたつもりのおまえに嗤われて、裏切られたような気持ちになった。

 ──でも、牧村、本当に裏切ったのは、ボクのほうだったのかなぁ……?」

 少し考えて、つけ足した。

「成人式で、会えるかな……?

 その頃までには、もう少しボク、まともな人間になれてるといいけど……」


 三階。ラフガがいた。

 四階。シエルがいた。

「いや、だからさ……幻術はもうボクに効かないんだってば。 

 なんかもう目をつぶれば、一発で嘘か誠かわかっちゃうんだって。

 いわゆる『見切った』ってヤツ?」

 五階。ホワイトタイガーがいた。

 六階。ホワイトライオンがいた。

 七階……屋上。

「つ、ついた」

 ヒビキとホワイトドラゴンがいた。

「ふざけんな、バク!」

 怒髪天をつく感じで、ヒビキが喚く。

 目を閉じてもドラゴンしか消えない。

 本物のヒビキだ。

「というか、むしろそれはおまえに言いたい、ヒビキ。

 ホワイトドラゴンだと?

 そんなん用意しなくても、とっくにボクは殺せてるだろう。

 幻を無効にしていなかったら」

「でもおまえ、来たじゃねぇかよ、ここまで‼︎」

「結果論だぞ。──シエルたちは?」

「ここにはいねぇよ」

「つーか、そもそもここはどこだ?」

「アンキの国……バースの町外れの廃塔だよ。

 荒れ地すぎて虚しいから、幻で外に花を咲かせてやった。

 てゆうかさぁ、バク。オレさ、テレポートしたり、触ってもいない塔の扉実際に開けたりとかさぁ、幻術以外の能力も皆無じゃないんだよね。

 たとえばさ、テレポートでおまえを空高く出現させて、そのまま地上に落として殺したりもしちまえるんだぜ──」

「…………本気か?」

 ヒビキは風に髪を揺らせながら笑う。

「おまえ、変すぎておもしれぇよ、バク。

 元々オレはおまえを陽姫の勇者としてしか見てなかったのに、アンキに名前つけたり王の元へ乗り込んだり、変なことばっかすっからよぉ」

 ヒビキは頭を軽く掻く。

「変な期待──しちまったんだよ。

 たとえばおまえがオレに手ぇ差し伸べてくれるような……そんな、妄想……あぁ、何言ってんだろ、らしくねー」

 ヒビキは獏に背を向けて、円塔の端のほうへ歩く。フェンスも何もない。

 獏はウエストバッグからブルーローズを一輪取り出すと、ヒビキに少し歩み寄る。

「ヒビキ、これ……」

「え?」

 ヒビキが振り返る。

「これを、君に……」

「な、なんで?」

「ヒビキはこの花が好きなんだろう?

 でも、シエルはこの花が嫌いなんだ」

「あぁ。みたいだな、なんでかは知らないけど」

「だからボク、昨日待女の人に聞いてみたんだ」

 ヒビキはさすがに四六時中獏を見ているわけではない。

 興味を惹かれたように言う。

「なんて?」

「彼女もよく知らないみたいだったけど、バースでは、産まれてきた子どもにブルーロースを贈るんだ。

 たぶん、シエルはそれをもらえなかったんだと思う──だから──なんじゃないかな。

 でも、離宮の青バラは、シエルが自分で育てたものなんだって。

 だからきっと、シエルは、もらえなかったプルーローズが本当は、欲しかったんだよ……。

 だから、ボクは、この花を、君やシエルに渡したくて……」

 バース国におけるブルーローズの花言葉。

「青いバラの花言葉……それは、「あなたが産まれてよかった』」

 ヒビキの目が見開かれる。

「うわっ⁉︎」

 ふいに吹いた強風に、 獏の手からブルーローズが離れる。

 それは、ヒビキのほうへ飛び、それを過いかけたとビキの足が、塔の端を踏み外す。

「──⁉︎」

「ヒビキ‼︎」

 ビビキは屋上から地上へ向けて落下していく。

「ヒビ──‼︎」

 獏は塔の端へ駆け──


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