一. 強者と勇者
鼻はゾウ、目はサイ、尾はウシ、形はクマに似て、悪い夢を食うという、中国の想像上の獣──。
それが、獏。
動物国にいる、サイに似た生き物とは違う。
現実に存在する、有り得る獏ではなく──
有り得ない、獏。
ヒューマンとバードピープルから産まれた、有り得ないはずの少女。
シエル。
風の魔法を使い、風の暗獣を召還し──
人をたくさん殺した。
自分が、生き延びるため──
そして、陽姫と呼ばれるラフガ。
──彼女を拉致したヒビキ……
ボクは勇者で、シエルは闇姫……。
ヒビキに勝たなければ、この国は滅びる。
そうしたら、どうなるんだろう。
「──関係ない。ボクは元の世界に戻るだけ」
不可能だ。実現不可能だ。ただの浪人生が、幻術士と戦い、囚われの姫を助けるなんて。
第一、なんのメリットがある?
それは、実現できることだから、意味があるんだ。
姫を救い、勇者としてもてはやされて、なんの価値もないこんな自分が、自信を……つけられるような。
自分という存在のレベルが上がるような──……そんな気になれそうだから。
だから、意味がある。
死んでしまったら──そこに、なんの意味がある?
絶対にクリアできないゲームなんて、誰がプレイする?
束の間の幻を見たいから──現実から目を背けていたいから、だから有り得ないゲームにも、この世界も、利用価値がある。
リスクだらけの世界。白い死に神の待つ塔。
そこに、なんの意味があるっていうんだ?
「……シエル」
ボクが帰ったら、彼女もこの国ごと死ぬんだろうか。
でも、それは仕方がないことだ。
他を殺し繋ぎ止めていた命が、ついに途切れる日が来た──……
それだけのことじゃないか?
「ボクは、関係ない……」
巻き込まれただけじゃないか。
他力本願だよ。
なんでボクが、こんな関係ない世界のために、リスキーゲームをしなきゃいけない?
「助け、求める相手、間違ったんだよ、シエル……」
弱者は強者に殺される。
「もっと、強い勇者、召還しなきゃだめじゃないか……。
こんな、弱い──ボクなんかじゃなくて……。
こんな、先も見えない、なんの取り柄もない、身勝手で、日々に押しつぶされそうな──ボクなんかじゃなくて……」
それこそ、あのヒビキみたいな……
「強者を……」
ねぇ。シエル?
一体、ボクの、どこが勇者なの……?




