↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BLUE ROSE  作者: うさぎさん⭐︎
第二章 夢を食べる獏がいるのなら

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/35

五. 夢食い獏が悪夢を見るなら


 公園の青バラ細に、二人はまた来ていた。

「ごめんなさい、やっぱり、水晶には、なんにも映らない……」

 ウルフと戦った円形スペースの隅のベンチに腰掛け、水晶球片手にシエルはかぶりを振る。

「っていうか、なんかこの場所、またなんか出そうで非常にイヤなんだけど!」

「我慢して。ここしか、手がかりがないの!」

「う”〜っっ」

 恐怖から来る寒さに、腕をさすりつつ、獏はその場を行ったり来たりする。

「ヤだなヤだな、出そうだよ、出そうだよ」

 鳴き声に跳び上がる。しかし、それは善良そうなコジュケイ (キジの仲間)のバードピープルのおじいさんが散歩に来たというだけだった。

「ヤだなヤだな、出るなよ出るなよ」

 なぜか低空をかっとんでゆくコンゴウインコのカップル (バードピープル)に肩を張わせる。

 ジョギングに来たヒューマンのおじさんに危うくキックかましそうになる。

「……そ、そうだよね、みんなの公園だもんね。みんなパークラヴなんだよね……」

 通り過ぎていく人々を見送り、獏はシエルのそばに歩いていく。

「何か、映った?」

「全然。──ていうか、そんなに幻獣に出てきてほしいの、獏?

 なんかそればっか気にしてると、逆にコールしてるようにも見えるんだけど……」

「してないしてない!」

「ふーん?」

 シエルは考え込むように頭に手を当てる。

 水晶に向かって、何か聞こえないくらいの声で呟く。

「……《《ヒビ》》……」

 シエルは立ち上がる。

「行こう、今日はたぶん、何も起こらないわ」

「そうなの? う、うん、すぐ行こう! 今行こう‼︎ ──って、どこに?」

「うん……。別に行くとこないから、帰る」


 ──そうして、何もないまま、獏がこの世界に来てから一週間が過ぎようとしている。


 獏は離宮の個室のベッドに横になって、眠っている。眉間にしわを寄せ、苦しげな声を出しながら……


「悪い夢を食べる漠のように──困っている人を助けられる人になるように、獏ってつけたのよ」

 うん、わかってる。わかってるよ、お母さん。

 だから、ボクはがんばってる。小学校一回も休んだことないし、風邪ひいても我慢して行くし、勉強がんばってるし、宿題サボッたことないし、給食もちゃんと全部食べてるし、体育はあんま得意じゃないけど、でも、ちゃんとお母さんの期待に応えられるようにボク、がんばってる……。

 友だちもたくさんいるんだ。内緒だけど、好きな女の子もいる。

 弱い者イジメしてる奴見ると、すげームカツク。

 ボク、ちゃんとお母さんの望んだとおり、そういう奴のことは黙って見てない。

 ちゃんとモンクいうし、大体負けちゃうんだけど、ケンカもする。

 だって、ボク、お母さんを護れるようになりたいんだ。

 お父さんがすぐお母さんを怒るから。殴るから。

 最近はそれも減ってきたけど……ボクは、お父さんが怒ると、怖くて、動けなくなる。

 中学で、親友って呼べる奴ができた。

 牧村っていう奴で、スローモーでマイペースだけど、いい奴なんだ。

 バカなこといってふざけて、ときにはマジな話をして。

 だから、高校もあいつと一緒だって知ったとき、正直ボクはとても嬉しかった。

「獏、おまえはいい奴だ。俺ができないことをおまえは平然とやる。

 勇気がある。自分がやりたいことを実行する勇気が」

「おせっかいってよくいわれるけどね。だってさ、ボクは……」

 顔を赤くして、誇りを持っていえたあの頃。

「ボクは、獏だから! 悪夢を食べる獏だから‼︎」

 牧村は嗤わなかったから。嗤わずそれを聴いてくれたから。

 困ってる人を見たら手を差し伸べよう。

 人に親切にしよう。

 それがボクのアイデンティティでステータスでレゾンテートルだった……。

 脆く崩れる、自分勝手な幻想だった……。

 牧村は、高校に行ってから、イジメに遭った。トロイ、ウザイ、キショイ……飛び交う罵詈雑言《ばりぞうごん》。

 ボクは、動けなかった。動かなかった。

 まだよく知らない人だらけの学校で、ボクは牧村を助けることより、その環境に順応することを優先した。

 お父さんがお母さんを殴っても何もせずただ見ていた幼い日。

 それは、ボクが弱かったから。

 お母さんのことより、自分の身が大事だったから。

 ──たぶん、そういうことだったんだ。

 夢食い獏が悪夢を食うのは。

 なんのため?

 時間が経って、余裕ができてから、ボクはまた優しい獏の仮面を被ろうとした。

 うまいこと強い友だちを作ってバックにつけて、牧村をイジメた奴に食ってかかり、牧村に手を差し伸べた。

 ボクの小学校の頃のイジメなんて、大したことがなかったんだ。

 後になって思えばサッパリしたもんだった。

 だからケンカだってできた。

 だけど、牧村へのイジメはジメジメしてて、悪質で──だから、ボクは保身のため、牧村から離れた。

 強者に、弱者は従う。逆らえない。

 牧村はイジメから開放された。代わりに新しいスケープゴートができたかできなかったかなんて、そんなことまでは知らない。

 あいつとはクラスが違ったし。

 見ないようにしようとすれば、人はなんにも見えなくなる。──ふりができる。

 気持ちよかった。

 牧村を助けたボク。助けようと友だちに呼びかけたボク。

 みんながボクをいい奴と誉めた。

 牧村だけは違った。

 軽魔した眼で、ボクを見た──。

「おまえは、俺を助けたかったわけじゃない。自分が人に誉められていい気になりたいから、うぬぼれたいから──」

 夢食い獏が悪夢を食うのはどんなとき?

 夢食い獏が悪夢を食うのはなんのため?

「おまえは、誰にでも優しい獏なんかじゃない‼︎

 他人の悪夢を食うふりをして、自分がいい夢を見る──そんな、自分勝手な獏だ……!」

 それのどこが悪い?

 最初から最後まで何もしない奴より、よっぽどいいじゃないか、なぁおい、そうだろ牧村⁉︎

 どこが悪いんだよ?

 ボクはおまえを助けてやったじゃないか──……

 ボクは、おまえが好きだったから。

 イジメられてないおまえなら、安全に友だちとしてつきあっていい対象だから。

 だから、戻してやったんじゃないか。

 なのになんで嗤うんだ。

 嗤わないおまえが、ボクは好きだったのに。

 都合がよくて、利用できて、好きだったのに。

 ボクを肯定して、ボクの気分をよくしてくれる──

 だから、好きだったんだぜ?

 ……牧村はボクから離れていった。

 もう、いいよ。別におまえなんかいらないよ。

『獏、おまえはいい奴だ。自分がやりたいことを実行する勇気がある』

 知らねーよ、牧村なんて……

『おまえは、誰にでも優しい漠なんかじゃない‼︎

  他人の悪夢を食うふりをして、自分がいい夢を見る‼︎

 そんな、自分勝手な獏だ!』

 知らねー……

『悪い夢を食べる獏のように──困っている人を助けられるように、ってつけたのよ』

 違う、ボクは人間だ‼︎

 ──もう、悪夢は食べられない。

 ──だって、ボクは、ただの人間だから。

 ボクは高校を辞めた。まだ二年に進級すらしていなかった。

 ただの人間のボクは、家に引きこもった。

 獏のふりをして生きてくのは、なんかもうやんなった。

 いろんなことを暗い部屋の中で独り考えた。

 それからボクは大検を受け、大学入試に落ちた。 

 ──先生になりたい。

 暗い部屋で本を読んでいて、ある日突然そう思った。

 ボクのことをバカにする家族を嗤いながら、そう思った。

 学校の先生なんて大嫌いだ。大嫌いだから、先生になりたい。

 大嫌いな先生になって、ボクは獏ではなく、人として……日向獏という個人として先生に。

 そして、道を踏み外しそうな子どもを助ける、ほんの些細な手助けでもできたら……


「偽善だね」


 突然それまでと違うトーンの声が響く。

 白い髪に白い肌、赤い瞳の少年が立っている。

 十一、二歳か。赤いキャップに青いマント。灰色のコートに黒いズボン。小柄で、意志が強そうで──気むずかしそうな雰囲気だ。

「子どもたちを助けたい?

 違うね、君は、自分を救いたいんだ。

 学校を辞め、引きこもっている自分を認められず、自分と同じ様な人間を助けるという甘い幻想を抱き──それにより、自分が人格者になったような錯覚をしている──していたいんだ。

 それは、過去の自分を否定し、道を踏み外しそうな、自分に似たような人々──と君が勝手にカテゴライズした人々を否定し、それを『正す』ことで、過去の自分を──引いては、今の自分、未来の自分を救おうとしてるんだ。

 それは、必死にもがき、自分を肯定しようと、前進しようとする行為なのだろうか?

 ──なんだか嘘くさい」

 嘘くさい。

「そうやって、君は生きようとしている。

 それも君のやり方かもしれない。

 生存の為の選択は、手段はそれぞれ違う。

 しかし、人が、動物が、本当に危機に遭遇したとき取れる行動はたった二つ、挑むか──逃げるか。

 それは、挑むという行為なのか、ただの逃げなのか?

 第一、君は本当に信じているのかい? 大学に合格すると、教師になると。それを続けていけると。

 本当にその気があるのかい?

 短いい幻想ではなく、長い長い現実をそうして続け、生き残っていける気持ちが……力が、君にあるのか?」

 少年はバカにしたように笑った。

「残念だよ、バク。失望した。君じゃアンキを取えない。

 要するに、あんたはヒーローを演じていたわけだ。彼女に名をつけたり、王宮に行ったり──バトルは陽姫が助けてくれると思ったから……余裕があったから。

 けど、陽陽はもう助けてくれないよ、あんたの危機に一時《いっとき》ぼくの術をあの女が破っただけ。

 今はもう更に強い術で拘束している。

 ──それでもぼくに挑むというなら、ぼくの塔へ来いよ?

 その覚格ができたと一言いえば、誘《いざな》ってやるよ。

 もっとも、何もせずじっとしていれば、君は勝手に元の世界へ帰れるんだから。

 部屋にでも引きこもってるのが利口だね」

 …………れだ。誰だ、おまえ。

「ぼくはヒビキ。

 陽姫を拉致している──」

 ……あのときの、ホワイトタイガーを操っていた……

「そうだよ。ついでにいうと、ウルフを君に差し向けたのも、ぼく」

 なぜ、そんなことを……

「この一週間、ぽくは君をずっと見ていた。

 『勇者』がどんな奴なのか、知りたかったから。

 でも、もうよくわかったよ。あんたじゃ役不足だってことがさ……残念だよ……」

 君は、一体、なんなんだ……

「あんたがぼくに挑んで負けても、逃げて(スルーして)元の世界に帰っても、それはぼくら側の勝利。

 この国は滅びる。陽姫の国が攻め滅ぼす。

 そういうふうに、ぼくが仕向ける。

 ぼくは有り得ない幻術使いだから。簡単さ。

 ──だが、君がぼくに打ち勝ち、陽姫を助ければ──そのときはこんな国から手を引いてやるよ」

 なんなんだ……

「夢食いが悪夢を見るなら。

 誰がそれを食べてくれるんだろうね?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。