四. 優しい獏にはなれないから
「で、えーと…・・」
自分でティーポットから茶を注ぎたし、二杯目の茶を飲むシエルを見ながら、獏は言う。
「な、なんだっけ? ……あ、そうだ、あのさ」
獏はまた何かを描いてシエルに見せる。
「コレ! こんな感じのホワイトタイガーが、なぜかボクを乗っけて王様のトコに連れてってくれたんだよね」
「ふーん? あたし知らない」
横を向いて、そっけなくシエルは言った。
「……そうか。なんだったんだろう、なんか、一瞬、白い髪に白い肌に赤い目のイメージの、誰かが頭に浮かんだんだよね……。
誰か──ヒューマンだと思うんだけど……うーん…………たぶん、会ったことのない……」
シエルは何か言いたげに獏を凝視する。
「な、何……?」
「なんでもない」
「んー……」
獏は上を向いて側頭部を掻くと、ティーカップに残った茶を飲み干す。
「大体君の事情はわかったよ。大変だったね……よく、がんばったね、シエル」
シエルは目を見張った。
下を向いて、唇を噛む。
「獏は……どう思う?
……あ、あたしじゃなくて! ラフガ姫のこと……」
「ラフガ姫? んー」
腕組んで、天井を睨むようにして獏は言う。
「よくわからないんだ……。どこかで会ったような気がするのに……。何か、巨大なテキストが……えーと……」
「いい!」
シエルがそれを止める。
「お、思い出さないほうがいいよ、たぶん無理に! い、いやなことは……‼︎」
「嫌なことだったのかなぁ?」
首どころか背中まで傾けるようにする獏に、シエルは早口に言う。
「そ、それより! 獏のこと聞かせてッ‼︎」
「……え?ボク……?」
「そ、そう! 獏の世界のこと !獏の国のことッ‼︎」
「んー。なんか最近ボクの国は不況不況っていわれててさぁ……」
シエルは息を吐いた。
「やっぱり、真の楽園なんて、どこにもないのね……」
「あ、いや、でも、ボクの国は今んとこ戦争のない国やってて!
不況不況っていっても、やっぱり豊かな平和な国だと思う。
でも、特に外国ではテロ、内紛、戦争──貧富の差が選しい国……いろいろある。
ボクの国は……少なくとも、ボクは、平和な国だと思う……。
うーん、ボクがのほほんとしてるからかもしれないけど。もちろん、いろいろ問題もあるし。すべての人が幸せになれる国……なんてのは、不可能かもしれないけど……」
「でも──悪夢を食べる獏がいるのなら……」
「え?」
「それは、救いかもしれない……。
悪夢を──悲しみを、食べてくれる優しい獏がいれば……」
獏の唇がぎこちなく動く。
「ボクは、人間だから……。誰もの悪夢を食べる優しい獏にはなれないから……。
だから、ボクは……。ボクは……学校を辞めて……だけど、大学に行って……先生になって……そして……」
泣きそうに顔を歪め、獏の言葉は途切れる。
「…………」
「獏?」
「ごめん、なんでもないんだ。
ラフガ姫……捜しに行かなきゃ……」




