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BLUE ROSE  作者: うさぎさん⭐︎
第二章 夢を食べる獏がいるのなら

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一. 優しさ


「どうしてですの?」

 姫は不思議そうに瞬きした。

「君は、ここをバードケージといったよね。その意味がわかったよ」

 姫は笑った。

「わたくしが有り得ない子どもだから。恐ろしいからほうっておかれているだけ。

 偽りの自由を与えられて。──生を認められているわけじゃない」

「君を飛べないようにするための、鳥かご──。そういうことなんだね……」

「誰に聞きましたの?」

「…………ごめん……」

 獏はいきなりその場にしゃがむ。

「ゆ、勇者様?」

「な、なんてことしちゃったんだ! ボク‼︎ ……お、王様ひっぱたいちゃった……あぁ、どうしよう、叩いたことは別に後悔してないけど、そのせいで、君の立場が益々悪くなったりしちゃったら……」

「お、お父様を叩いた⁉︎ ……な、なぜ?」

「だ、だって、酷いじゃないか! 君も、そう思うだろうッ⁉︎」

 獏は姫を見上げる。

「……そうは思いませんわ。お父様は、わたくしをこの年まで育ててくださいましたし。離宮をお与えくださいましたし。特に外出を禁じられているわけでもありませんし……」

 姫のその声からは感情が伺えない。

「育てたんじゃない! それは──殺せなかったから──ただ、それだけだ‼︎」

「……だから、言ったのよ……お父様は勇者様を召還したって、お逢いしてくださらない。そんなもの、信じないか……気味悪がられるか……そんなところだと。

 ──それより、大変ですわ」

 姫もしゃがみ込み、漠の顔を伺う。

「お父様を叩いたりして──……もしあなたのお命が狙われたりしたら……」

「ご、ごめん……。そしたら、ラフガ姫捜すどころじゃないよね………えぇと……」

「──シエル」

 少女ははにかんだ。

「シエルと呼んでください……」

「シ、シエル……」

 頬を赤く染め、彼女は──シェルは獏を見た。

「すてきな名前を、ありがとうございます」

「う、うん……」

 獏も顔を赤くする。すぐそばにシェルの顔がある。

 衛萄色の瞳……ピンクの唇……

 唇。

 ふいに、その唇に触れてみたい衝動にかられる。

 そ、そんな場合じゃない、そんな場合じゃない!

 慌てて首を横に振りまくり、獏は立ち上がり、横を向く。

「え、えぇと、えと……」

「大丈夫ですわ」

 シエルも立ち上がり、柔らかく笑む。

「わたくしが、勇者様をお護りいたしますわ」

「ええッ⁉︎」

 シエルは部屋の窓辺へ歩きだす。

 獏も部屋の中に入った。

 窓を開けて、空を見上げ、シエルは言う。

「お父様はわたくしを恐れていますもの。わたくしが、いつも勇者様のおそばにいれば、きっと、お父様は、勇者様に手を出せないわ……ううん。ほんの少し、勇者様には手を出さないでくださるようにお手紙でも書けば……読んでくださらないかもしれないけど……、きっと…………」

「脅されでもしたように、王は大人しくなる……」

 嫌そうに獏は呟いた。あの王のことになると、どうも口調が刺々しくなる。

「そんなに嫌わないでくださいな。国民にはとても好かれていますのよ……あの方は」

「そういう問題じゃないよ……」

 獏は不機嫌そうにテーブルのそばのイスを引いて座る。シエルは窓辺のイスと、テーブルの周りのイスを見比べてから、テーブルを挟んだ漠の向かい側のイスに腰掛ける。

 ブルーローズの甘い香りがする。その花を見下ろしながら、獏は言う。

「疫病。かまいたち。暗獣。地震。もちろん、君のせいじゃない。そうだろう?」

 シエルは唇を動かしかけ、やめる。

「バードハーフだからなんだ? それがそんなにいけないことか?」

 憤《いきどお》った獏の目から瞳を逸《そ》らし、シエルは俯く。

「……勇者様は、この国の人間じゃないから、そんなことが言えるのですわ……」

「──やめよう」

「え?」

 獏は明るく笑った。温かな声。

「『勇者様』っていうのは、やめよう。

 獏って呼んでよ。ボクも、シエルって呼ぶからさ」

「……獏、様……」

「ただの獏でいいよ。ね? シェル」

「…………獏……」

 シエルは俯いた。

「どうして、そんなに、獏は優しいの?」

「優しい??」

「だ、だって……」

「優しさ……か」

 獏はなぜか苦しそうに笑った。

「なんだろうね、優しさって……」


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