十一. シエル
「おはよう!」
翌朝、獏は姫の部屋のドアを叩いた。
姫は窓辺のイスに座って空を見上げている。
どこか、元気がない。
「これ、庭に咲いてたから」
背にしていた青バラを、彼女の部屋のテーブルの上にあった、何も入っていなかった花紙に生ける。
「ボクの部屋のバラ、君が用意してくれたんだろう? お返しだよ」
強はバラと獏を見比べる。
「ブルーローズ……」
なぜか彼女は一瞬、泣きそうな目をした。
「あ、あのさ、ゲームにはときどきダークプリンセスなんてキャラもいるし……そのキャラが、仲間になったりして、実はいい奴だったりすることもあるし……。あんま、気にしなくても……な、何言ってるんだボク……」
獏は四つ折りにして持っていた便せんを姫に向け広げる。自分用の部屋のデスクの上に、ペンも便せんもあった。
「考えたんだ、君の名前──……」
白い便せんには細かい文字でたくさんたくさん、カタカナの女性名が書かれていた。
「あ、ごめん、読めないか、日本語だもんね」
獏は軽く側頭部を掻いて、恥ずかしそうに顔を赤くする。
「え、えっとね……ボク的に一押しなのは、コレ──『シエル』‼︎」
呆然と、姫は獏を見ている。
「あ、あのね、空って意味なんだ。
──君が大空を羽ばたけるように。シエル」
「シ・エ・ル……?」
「あぁ、ごめんっ! おせっかいだった? ボク、よく言われるんだ。……ウザイって……」
「シェル……っふ、うぅ……っ」
少女は透明な戻を流し、手で顔を覆う。
「う、ううっ、うぅぅ……っっ」
抑えた泣き声を上げる少女に、獏は近づく。
「ど、ど、ど、どうしたの⁉︎」
「うっ、うぅぅっ、ううう……」
ためらいながら、獏は彼女の肩に手を伸ばす。
少女はイスに座ったまま獏に抱きついて、子どものように大きな声で泣きだした。
二人のことを、ブルーローズが見つめている──。




