77✦☾深まる疑惑
私は出向を終えて、セラヴェル家へと戻った。
出向期間も昼間以外はお屋敷にいたのだが、お嬢様の御側での仕事はできなかったので、数日ぶりのお嬢様である……!!
「お嬢様!!!シアナめが、お嬢様の御側に戻ってまいりましたァァァ!!!」
お嬢様の御前に、渾身の土下座ですり寄る。ああ、笑顔のお嬢様が私を出迎え──、
「それで、ドレスの参考にできそうな秘宝はあって!?宝石は!?……ああ、わたくしもついていくところだったのに、セズネイとアデリーナにはがいじめにされたのよ!」
感動の再会──と思ったのはやはり私だけだったようだ!!
(そ、それはもう慣れておりますが……、お嬢様、完全に本来の目的を忘れてらっしゃるわ!)
「は、はい。秘宝を直接見ることはかないませんでしたが……、その、いろいろと勉強になりました」
「え?秘宝は見てないの?宝石も?……なーんだ」
あっという間にお嬢様は私への興味を失う。早い……早いわ!
「そもそも宝石は……」
この世界には存在しておらず、さらに神官の耳に入ってはいけない言葉──、と、エリヤ様の説明を口にしようとして、私はふと気が付いた。
(……あら?それならお嬢様は、いったいどこで宝石という物をお知りになられたのかしら?)
「宝石が何よ?王宮にあったの!?」
「い、いえ……、残念ながら現在は国内外、どこにも無いとのことで……」
「えぇ?……ぱっとしないわね!王宮のくせに!」
「あの、お嬢様はどこで──」
「で?」
間髪入れず、きらりとお嬢様の瞳が光った。
「例の件は……、どうだったのよ?」
どうやら、忘れてはいなかったようだ──。
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お嬢様に一通り説明したのち、私は再びあの店でレオネル様にお会いしていた。
相変わらず不愛想な店主さんに一礼し、片隅のテーブルにつく。
「光螺力の強化──」
お嬢様に説明した内容をレオネル様にも申し上げると、そうつぶやかれた。
「はい。協力くださった学術師様がおっしゃるには、あの秘宝の用途はそれしか書いていなかったそうです」
そう前置きして、エリヤ様やヨナ様から聞いたことについても、レオネル様にお伝えした。
「なるほど……。秘宝だけの力ではなく、光螺力をもって悪意をたどることができる可能性はある──ということか」
レオネル様は顎に指をかけたまま、黙ってしまわれた。
……私も自然と、黙りがちになる。
光螺力の“浄化”と“闇落ち”については、レオネル様にお話するのはやめておいた。
(お嬢様も光属性である以上……、そうそう吹聴できる話じゃないわ)
すでにご存じの可能性も高いが、一応トップシークレットとのことだったし。……当然お嬢様にも話していない。
レオネル様は、がっしりした腕を組まれると、琥珀色の目を細めた。
「実を言うと、“星々の標盤”が実際どうであれ、なんとか壊れていることにして、アンリークにユーテリアの措置について再考を申し出られないかと考えていたのだが……、話し向きが変わってくるな」
「はい……」
秘宝は壊れてなどおらず、おそらくはちゃんと作用して光螺力を強めた……。私があの“孤高の舞踏会”で見た、ユーテリア様を指し示した金色の光──あれをずっと秘宝の力だと思っていたが、そうではなかったのだ。
(これで、一つの事実が判明してしまったわ)
──ユーテリア様を断罪したのは、秘宝そのものではない。
“アンリーク王子の螺力”だ。
ユーテリア様を無罪だと仮定するなら、……自然と王子を疑わざるを得ない。
当然、王子を通じてユーテリア様の無罪を証明などできない……。それどころか、中傷の真犯人が王子ということも──。
「そんなわけないじゃないの!じゃあ、あのユーラシア様が本当に犯人だったのよ!」
お嬢様にお伝えしたときには、そうおっしゃられてしまい、それ以降はぷっくり膨れて、まともに報告をできなかった。
(でも、王子がそこまでして一令嬢を陥れる理由など思いつかないし、レオネル様やフレイリア様のお話を伺う限り、ユーテリア様に個人的な恨みがあったとも思えない……)
わけがわからない──。
(けれど、この件でアンリーク王子を頼れないことだけは判明したわ)
私は混乱する頭を振り切るように、次の話題に取り掛かった。
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「学術師様には“星々の標盤”が頻繁に使用されている……というのも確認いただきました」
「頻繁に?しかし……秘宝を扱えるのは王族のみ。王は外遊されており、アンリークは臥せっているが……、ヨルテル様や、他の叔父君が……?」
「いえ……」
私はヨナ様から聞いたお名前を伝える。
「レナウェア様でございます」
ヨナ様が、目録のみでなく宝庫持出記録帳まで調べてくださった結果……、“星々の標盤”はほぼ満月のたびに、レナウェア様によって持ち出されていた。
レナウェア様もずっと臥せっておられることを考えると、持ち出しの手続き自体は使用人が行ったのだろう。
「レナウェア様?何のために……」
レオネル様にも意外な名だったのだろう。怪訝そうに眉を顰められる。
「普通に考えれば、光螺力を強めて何らかの公務を為されていたのかと存じますが……」
浄化作用があるということなら、王族の公務にそういった仕事があっても不思議はないが……。
「アンリークも言っていたが、光螺力は心身を損なう。レナウェア様やアンリークのお身体が弱いのとて無関係ではなかろう。なのに、さらに頻繁に秘宝まで用いて強化するなど、考えられん──自殺行為だ」
(そうなのよね……)
ただ、逆とも考えられる。
レナウェア様は、頻繁に光螺力を使っておられるからこそ、アンリーク王子以上にお身体が弱っておられるのでは──。
(だとしたら──、第一王子であるレナウェア様のお身体より大事なお勤めって何なのかしら……)
少し気にかかったが、今の本題はそこではない。ユーテリア様の救出だ。
「──レオネル様。念のための確認ですが、ユーテリア様へ厳罰を処すべきだというご意見は、ヨルテル様から出たものですわよね?」
「ああ、……そう訊いている」
「聞いている?──誰からですか?」
レオネル様はしばし黙り込んだあと、重い口調でつぶやいた。
「アンリークだ」
「……王子以外からは?」
黙ったまま、レオネル様は首を横に振る。
やはり──。
(あの腹黒王子が、ガチで腹黒い可能性が否めなくなってきたわ……。しかしそうなると、ユーテリア様の冤罪を晴らすのは非常に難しい。というより、ユーテリア様が本当に冤罪なのかも疑わしくなってくる)
王子の動機がつかめない以上、お嬢様がおっしゃるように本当にユーテリア様が嫉妬からお嬢様を陥れようとした可能性も切り捨てられなくなってきた。──フレイリア様には申し訳ないけれど。
(いえ待って。ヨナ様のお話が本当なら、すでにアンリーク王子が闇落ちしているとか……!?もしそうなら、理屈に合わないことをされるかも──)
「あああ!もう、何がなんだか──!」
思わずレオネル様がいらっしゃるのも忘れて、頭を抱え込んでしまう。
王子とユーテリア様──二人がタッグを組んでお嬢様を陥れるのでは!?と焦っていたこともあったというのに。
タッグどころか、二者択一での悪役決定戦になってしまいそうだ。
(そこにお嬢様が巻き込まれるのだけは、勘弁ねがいたいわよ……!)
おそらく、レオネル様も私と同じような考えに至っているのだろう。黙ったままで彫像のように動かない──。
しかし、やがて意を決したように顔を上げた。




