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76✦☾星々の標盤

ヨナ様が確認してくださった結果──資料そのものに致命的な問題は見当たらず、本の中身については無事だという結論に至った。

問題となっていたゼオライドの変色も、どうやら一時期使用されていたインクに、微量の銅が含まれていたためらしい。


保存状態に影響を及ぼすほどの量ではなく、今後は防湿材を入れ替えれば支障はない。

建前として挙げた理由ではあったが、結果として重要な点検になったことは確かだった。


その旨をマーサ様へ報告すると、張り詰めていた表情がふっと緩み、ほっと胸をなで下ろした様子を見せる。


それ以外には大きなトラブルや確認事項もなく、滞りなくお掃除も計画も進み、……私は出向期間分のお給金も受け取ると、数日間にわたる資料室での清掃業務を、何事もなかったかのように終えるのだった。


(目的は十分果たせたわ……!本の保管方法も参考にできそうなものがいくつもあったし、資料管理室の様子を見られたのも勉強になった。そして──)


一番の目的も……、おそらくある程度は果たせたはず……!


✦••┈┈┈┈••☽••┈┈┈┈••✦


お世話になったマーサ様たちにご挨拶を終えお暇したのち、王宮内のいつもの教会にて……、私は改めてヨナ様と落ちあった。


すっかり見慣れた光景となった教会内部は、相変わらず椅子の間や壁際に書物や帳面が積み上げられており、石造りの壁に囲まれた内部には、紙と蝋燭が混じったような、馴染み深い匂いが漂っている。


エリヤ様とゼーラ様は、本日もお仕事なのかいらっしゃらない。……二人きりである。


「では、報告します!」


ヨナ様は、いつものようにぴしりとした姿勢で、メモしたらしい記録を読み上げる。……なんだか自分が軍曹か何かになったような気分になるわ。


「まず、シアナ殿が興味のあるという、美しく光る鉱石についてですが、残念ながら、そういった物を使用している秘宝は存在しませんでした!」


(宝石のことね……。これはエリヤ様が存在しないとおっしゃっていたけれど、そのとおりということかしら)


聞いてはいたことだけれど、内心少々がっかりしてしまう。

王国でも最高級の宝であろう、秘宝にすらあしらわれていないのならば、本当にこの世界には宝石は存在していない可能性が高い……。


「そ、そうなのですね。ありがとうございます。それで……」

「特に興味があるとおっしゃっていた“星々の標盤“という秘宝についてですが!」


……本当の目的はそちらである。


「比較的新しい秘宝で、記録によると二十二年前、王宮内で制作された物のようでした!」

「二十二年前……。王宮内で制作……?」


漠然とだが、王家の秘宝というと代々何百年も受け継がれてきた物だとか、他国からの献上品だとかを想像していた。

そう話すとヨナ様は生真面目そうに頷く。


「はい!そういう物も多いのですが、目録によるとここ三十年ほどは王宮内で制作された物も複数確認されました!」


(王宮内に工房などがあるのかしら?教会の製作所とは別に……?)


もしそんな場所があるなら、ぜひいつか見学したいものだわ。


「ただ、王宮内で制作された秘宝の目録は、他の物とは分けてありました!」

「えっ。そうなのですか?」

「はい!そのせいで当初なかなか見つけられませんでした!一見して目録には見えない文書の形で保管されておりました!」


(ということは、やはり他の秘宝とは異なる分類なのかしら……?)


考え込みそうになって、慌てて我に返る。

今はそれより重要なことがあるのだ。


「その秘宝の使い方とか、例えば故障や修復と履歴とか、そういった記載はございましたでしょうか」

「“星々の標盤”は、螺力の強化──特に、光螺力に特化して強化する働きのある秘宝のようでした!故障などの履歴はありませんでした!」


(え……?)


「螺力の強化……、それだけですか?他に……、例えば、悪意をたどるとか、そういった用途には」


確かアンリーク王子は『ある者に向けられた意思を逆に伝い、その根源を示す』とおっしゃっていたのだ。

それによって、示されたのがユーテリア様だった──。


「目録にはそのような記載はありませんでした!……しかし、使用者によっては可能かもしれません!」


軽く首を傾げた私に、ヨナ様は説明を始めた。


✦••┈┈┈┈••☽••┈┈┈┈••✦


「これは、実はあまり人に話す内容ではないのですが、神官なら多くの者が知っていることです!」


そう前置きすると、ヨナ様はそれまでの元気はつらつな態度を一変し……何故か声を潜めてそうおっしゃった。


「光螺力の大きな効力は“浄化”です。何をどう浄化するのは術者によっても異なりますが、基本は悪意──魂を傷つけるもの、円環に災いなすもの──などなどを消す、あるいは弱める力なのです」

「そうだったのですか……?」


(そんな重要なこと、王宮図書館の本にも書かれていなかったような……?勉強不足かしら?)


「光属性は王族や貴族に多いそうですが、そのような効力があるのならば、神官にもきっと多いのでしょうね」

「はい!神官にも特に上層部の方は光属性であることが多いです!」

「でも……どうして、人に話す内容ではないのですか?聞く限り素晴らしい力ですが……」


素朴な疑問を口にすると、ヨナ様は少々困ったかのように首を傾げた。


「“浄化”の方法の問題ですヨ」


はっと振り向くと、エリヤ様がいつもの見慣れた微笑で教会の入り口に立ってらっしゃった。


「無事、ヨナが代理を務めたようですね」


ゼーラ様もエリヤ様の側に付き添っておられる。……この二人、いつもセットなのね。


「はい!本当に助かりました!ありがとうございます」

「いえ!自分は修行中の身ですので、師匠の命とあらばいつでも!」


(今さらだけれど、いったい何の師匠なのかしら……)


エリヤ様は、床や長椅子の脇にひょこひょこと積み上げられた本の間を、慣れた足取りで器用に抜けていく。

本の山を倒さぬよう身をひねりながら進むその様子は、もはや日常の一部といった風で、やがて迷いなく、教会奥のいつもの定位置へと腰を下ろした。


「あーーーー………、心っ底、疲れましたナ。仕事というか、あの神官の方々の中にいるのが、もう……」

「同感ですが、もう少し本音を隠す練習をしてください。仕事中顔に出すぎてましたよ。“うぜーーーーーーー”という感情が」


ゼーラ様もエリヤ様を追いかけ、いつもの椅子に落ち着いた。


(まずい、また二人の微妙な漫才が始まってしまうわ)


私は慌てて話題を元に戻した。


「エリヤ様……、光螺力の“浄化の方法”とは……?」

「あァ……。ここだけのナイショ話ですよ。光螺力は確かに闇を浄化しますが、浄化した分を自分の心身に取り込んでしまうのですヨ」

「ええ!?」


……まさか、光螺術の“使うと心身を損なう”というのは……。


「そうそう。いわゆる闇落ちってヤツになるのですヨ。っていうか、歴史上、そうなった高貴な方々がそれなりにおられましてナ」

「エリヤ様はとてもカジュアルに話していますが、これ上流社会でのトップシークレットなので、そのつもりでお願いします」


(闇落ちって──!!)


それで、王宮図書館の本にすら、ちゃんとした理由が書かれていなかったのね……。


(ぜ、絶対にお嬢様に使わせてはいけないわ……。闇落ちしたお嬢様……、ちょっと、いえ、かなり見てみた……い、いえ!そのようなこと一瞬でも考えてはいけないわ……!!)


「つまり、光螺術者は、浄化の力を持つ神官のような存在であると同時に、闇に呑まれやすく円環外の悪にも近しい……、相反する危い存在なのですナ。しかし光螺術者は王族や上位神官など社会上層部に集中している──、こんなことを広く知られるといろいろ都合が悪いのでショ」

「しかしヨナ。おまえはなぜシアナさんに、そんな禁忌の話をしているのです……」


一緒にエリヤ様の話を聞いていたヨナ様は、ゼーラ様の言葉にはっと、姿勢を正した。


「申し訳ありません(あに)様!“星々の標盤”の可能性について説明をしておりまして……、兄様もご存じのとおり、自分は聞かれたことは全部答えてしまうのです!」

「そうでした……。人選に誤りが……」

「まァまァ、正直なのは美徳ですヨ」


額に手をあてたゼーラ様の背に、エリヤ様がのっかって慰めて……?おちょくっている。

ヨナ様は再び、ぴしっと私の方に向き直った。


「話を戻します!──秘宝で光螺力を強化し……強い“浄化の力”をもってすれば、悪意をたどる・また悪意を狙い消すといったことは可能かもしれない……という話でした!」


(なるほど……。確かにそういった使い方なら、王子がやったような断罪も可能なのね)


満月の夜にしか使えない、というのも、光螺力を強めるためと考えれば納得がいく。


「あと、宝庫持出記録帳によると“星々の標盤”は割と頻繁に使用されているようでした!」

「……え?」


確か、レオネル様はあんな秘宝があったと知らなかった、もっと使えばよかったのに……みたいなこと言ってなかったかしら?

レオネル様が知らないだけで、意外と使われているの?


「アンリーク王子が使用されていたのでしょうか?」


そう訊くと、ヨナ様は首を横に振った。

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